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二つの可能性

「追ってまでは来ないみたいね」


 先頭を歩いている茜は、振り返りながらそう言った。

 城廻家から少し離れた住宅街を、僕たち三人は歩いている。


「ヘッドギアを外すわけにはいかないんだろう。どうせ」


 西御門さんは、まだ少し荒い息をしている。


「おじいさんと同期するのが今の城廻くんの一番重要な課題なんだし、おそらくその通りですね。でも、危なかったな。茜のあれだけの言葉で、あそこまで逆上するとは」

「翔太が今言った通り、おじいさんと同期するのが彼の一番の優先事項。それを私は外そうとしたんだから、今考えれば城廻さんの行動はある程度予想できたのかもしれない。こうなったのは、私のミス」


「そうとばかりは言えないかも知れないな。聞いただろう? 『孫が自分で望んでいる事だ。お前には関係がないだろ!』って。まるで自分が祖父であるかの様な物言いだったんだが。お前らはあれを聞いて違和感がなかったか?」

「僕は思いましたよ。おかしいって。それから、そのすぐ後に西御門さんが『お前たちの望み通りに城廻の祖父と会える筈だ』って言ったあとに、『俺に?』って。まるで自分が城廻くんの祖父であるかのように話していた」


「既に同期が終わっている……のかしら? それならこれからの私たちの行動は意味がないのかも知れない」


「僕はまだ終わっていないと思う。終わっていれば、あの取り乱し方は無いと思うから」

「その『同期』っていうのが俺には今ひとつ理解できないんだ。例えば、城廻は精神的に不安定になっていて、あのヘッドギアで幻覚を見て自分の祖父になったつもりになっているだけっていう可能性も否定できない。実際、俺はあの機械をドラッグの代用品として使っているんだし。現実的に考えると、その可能性の方が高いと思えるんだが」


 西御門さんは、遠くを眺めながらそう言った。


「それを確かめる手段はありますよ」

「分かっている。お前らが俺の持っている機械を使ってあっちの世界に行くっていうんだろ? 幻覚なのかも知れないけどな。それ自身が」


「お願いできますか?」


 茜は立ち止まり、西御門さんに両手を合わせる。


「おう、ここまで来たら仕方ないな。その代わり、俺の言った通りだったら……本当はあの機械で死者に会えるわけではなく、城廻が幻覚を見ているだけだったら、やつを病院に連れて行くって約束するならな」

「それ、僕が引き受けます。茜、駅前のオープンカフェに里奈さんと綾乃さんを呼び出せる?」


 僕の問いかけに、茜は笑顔でうなずいた。


「西御門さん、もう少しだけお付き合いお願いします」

「仕方ないな、乗りかかった船だ。お前たちの夏休みの暇つぶしに、もう少しだけ付き合ってやるよ」


 西御門さんの顔を歪めた様な凄みのある笑顔が、初めて頼りがいのある笑顔に見えた。

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