命綱
「西御門さんと十二所さんの友達が二人目の……」
言いながら僕は黙ったままの茜を見る。茜は呆然と西御門さんを見つめながら、口を手で押さえている。
「二人の友人と言うよりは、十二所の彼女って感じだったな。俺もまんざらじゃなかったんだけど、俺は直美が心の中では十二所を選んでいる様に感じていた。俺も相手が十二所だったら、との思いはあったんだけどな」
「けど?」
「十二所は逃げたんだ。後ろから殴られたために頸椎を損傷して、車椅子で生活する様になった直美から」
「ひどい……」
茜が思わず気持ちを口にする。
「ひどい、というより弱かったんだろうな。その後やつは学校を辞めて、どうやらいろいろな国を回っていたらしい。と、いう所まではなんとなく聞いている。今でもやつは逃げているんじゃないかな。現実から」
「で、直美さんは?」
「俺が面倒を見ている。元々俺も彼女を嫌いじゃなかったからな。まぁ、嫌いじゃなかったっていう言い方もあれだけど、まぁ、あれだ」
西御門さんは、人差し指で鼻を掻いた。
「十二所さんから、西御門さんは犯罪まがいの事をしているって聞いたから、てっきり怖い人だと思っていたんですけど、今の話を聞いて印象が変わりました」
「してるよ」
西御門さんの、あっさりとした返事。
「え?」
「犯罪まがいの事。直美の治療費を借りた先が悪かったんだ。利息代わりにいろいろと手伝いをさせられている。あいつの店で、おかしな薬を売っていたのも本当だ。それも本意ではないんだけれどな」
僕には、何も言う事ができなかった。沈黙のまま、西御門さんと十二所店長、どちらが悪いという訳ではないと思った。全てを破滅に導いているのは城廻くんのお爺さんなのだ。
「だから、城廻の祖父には恨みに近い感情を抱いているんだ。直美をあんな姿にして、俺の将来を奪って、十二所をあんな風にした城廻の祖父を。お前の荒唐無稽な話をそのまま信じる事はできないが、仮にそいつが城廻の身体を奪ってまた俺の前に現れるとしたら、俺が放っておける訳がないじゃないか」
「西御門さん?」
僕と同じ結論だ。
「まずは、城廻の家に行こう。そして、それが確認できたら、俺は協力を惜しまないつもりだ」
「はい。これから、すぐにでいいですか?」
力強くうなずいてくれた最後の危険な命綱は、事件の解決に向けて僕たちを引き上げてくれる、力強い命綱だった。




