西御門の苦悶
「はい。西御門ですけど」
ぶっきらぼうな口調でインターホンが答える。
「翔太……ですけど」
「ああ、君か。そこで待っているんだ。今開けるから」
待っているとドアの奥で鍵が開く音がした。それからゆっくりとドアが空き、隙間から声がした。
「入って来てくれ」
僕は振り返り、茜に目で合図をした。茜は澄んだ大きな瞳で僕の目を見つめてから、小さく頷いた。
蛍光灯の明かりが白く輝くその部屋は、一見普通の事務所だった。
向かって右側には布張りの応接セット、左側には事務机が置かれている。
西御門さんは応接セットに向かいながら、僕たちを見ながら手招きをする。
「話は聞くから、遠慮しないで入って来てくれ。そんなに怖がらなくてもいいからさ」
無理矢理作っている様に見える西御門さんの笑顔に、かなり違和感を覚える僕。
意識してかしなくてか、僕に近づいて来た茜の肩が僕の腕に当たる。茜も同じ意見の様だ。
なにもしていないのに、その迫力に圧倒される。
「本当ならばそんな荒唐無稽な話、聞く道理はないし信用もしていない。今だって信じてはいないんだけど、城廻の話、いや、城廻の祖父の話となれば聞かない訳にはいかないんだ。ほら、せっかく時間を作ってやっているんだから早く入って来い」
半分脅迫しているような西御門さんの真剣な眼差しに、僕はソファーへと向かった。従わざるを得なさすぎる。
「さっき俺は、お前らの荒唐無稽な話を信じていないと言ったけれど、信じていないのに話を聞く訳を説明しておこうと思う。俺がこの件について、どんなに真剣か分かってもらう為にな」
西御門さんは、ソファーの上で前屈みになり、左右の肘をそれぞれの膝の上に乗せて顔を突き出しながら話しだした。すごい圧迫感だ。
「お前らもこの町の住民ならば、城廻の祖父が起こした、女性連続襲撃事件を知っているよな。それまではこの町はそんな事件が起こるなんて想像もできない程平和な町だったし、その事件以降もあれ程凶悪な事件は起こってはいないしな」
西御門さんは、遠くを見る目で話し始めた。
「僕たちはその頃小学生で、いま隣に居る茜といつも一緒に帰っていました。毎日集団下校をしていたので覚えています」
僕の隣で、茜がうなずいた。
「小学生ならそんな所だろう。その頃、俺と十二所と直美の三人は同じ大学のサークル仲間で、いつも一緒に行動をしていた。毎日、とは言わないけれど居酒屋経由で集団下校していたのはお前たちと一緒だ。まぁ、こっちの集団下校の理由はただ単に『楽しいから』だけだったんだけどな」
西御門さんは、口元を歪める。
「西御門さんと十二所さん、友達だったんですか? 話を聞いていると随分と仲良さそう」
茜が割り込んでくる。
「そうだな。城廻の祖父の、女性連続襲撃事件が起きるまではな」
僕たちを真直ぐ見つめていた西御門さんは、僕たちの後ろに視線をそらす。
「女性連続襲撃事件?」
また、それか。茜の転校も、里奈のトラウマも、綾乃さんの服装も、美咲さんの失踪も、僕が友人を作らなくなったきっかけも、それに城廻の今回の行動までも、全てがその事件に繋がっている気がした。その事件が西御門さんと十二所さんの関係にまで影響している事に、不思議な因縁を感じながら僕は聞き返した。
「そうだ。最初は確か、学校帰りの女子高生が何者かに後ろから殴られ、連れ去られそうになったと報道されていたあれだ。俺と十二所と、それから直美は高校は違うものの三人ともこの町出身だということで意気投合して、いつも行動を一緒にしていたんだ。で、その日も居酒屋でその話、俺たちの町で起きたその胸くその悪い事件の話をしていた」
「三人とも同時に知っていた?」
「ああ。テレビでもニュースでやっていたしな。でもその時は他に被害者が出るなんて思ってもいなかった。それも良く知った友人が被害に遭うなんて」
「西御門さんの友達が襲われたんですか?」
「ああ。二人目の被害者は、今話した直美なんだよ」
そう言った西御門さんの表情は、ほんの少し苦悶している様に見えた。




