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店長からのメール

「待って」


 綾乃さんは顔を上げた。ゴスロリでも、ツインテールでもない普段着の綾乃さんは、ただの普通の女の子だった。ただの、普通の、かわいい女の子に見えた。僕の鼓動は早くなる。


「え?」


「……泊まって、いかない?」


*****

「ええ?」


「あ、ごめんなさい。違うの。別に変な意味じゃなくって、なんか、一人じゃいやなの。茜や里奈や、美咲の事が心配で、誰か話す人が欲しいっていうか、誰かにそばにいて欲しいっていうか」

「ああ、大丈夫。わかっているから」

「そ、そうよね? でも、二回目の『ええ?』の時、なにか誤解しているように見えたから。でも、私の勘違い……よね。ごめんなさい、こんな時に」


 僕をじっとみつめる黒目がちの瞳。ついさっきまで虚ろだったその目にははっきりとした意志が宿っていた。そして……エアコンは効いているのに、なぜか僕の額には嫌な汗が湧いていた。


 綾乃さんの洞察力は、確かだったから。


 明かりが消えたリビングの壁が、ほのかに照らされている。窓から差し込む光のせいだ。とはいっても街は既に寝静まっている。

 駅の方角からのネオンの明かりのはずはない。窓の外を見ると、月に照らされた夜の雲がうっすらと輝き、モノクロームのグラデーションを描きながら流れていた。

 外光を遮るためにブラインドをおろしたあと、僕はソファーに向かう。


 綾乃さんは、自分がソファーに寝ると言って、自分の寝室を僕に勧めてくれたのだけれど、さすがに同じ年の女の子がいつも寝ているベッドを使う事はできないので、一応紳士的に彼女のベッドを辞退した。そういうわけで僕の今夜のベッドは、リビングのソファーとなった。


 リビング入り口のドアは開けられたままだ。そこから綾乃さんの寝室の入り口が見えた。鍵はかかっていないけれど、決してあける事のできないドア。そのドアの隙間からちょこんと顔を出し、こちらに手を振りおやすみを告げる、パジャマ姿の綾乃さんの姿を思い出す。


 深夜の室内は、静寂に包まれている。


 明日のためにもそろそろ休んだ方がいいと思い、僕は三人がけのソファーの白い表皮に横たわる。クッションを二つ重ねて枕を作り、さあ、寝ようと思ったとき、不意にメールの着信音が鳴った。


『翔太くん、おまたせして悪かったね。やっと例の常連に連絡がついたのでメールをさせてもらった。いきなりだけど明日、そいつと話をしてみようと思う。この間の話のとおりだとして、君もその場に一緒に来てくれるかな? 気が変わっていなければ、明日の朝九時にうちの店まで来て欲しい。危険を承知の上でね。危なくなったら全速力で逃げるかもしれないから、できるだけ走りやすい格好で来て欲しい。体操服とかね。あっと、冗談はいらないかな。普通の服で結構だ。あと、これは真剣な話なんだけど、くれぐれも一人で来る様に。女の子のお友達は無しだ。一応、彼女らの安全のためにね。それから、相手との待ち合わせ場所はあとで教えるから、会ってから一時間後にメールがなければ警察に連絡するよう女の子達に頼んでおいてくれるかな? これは二人の安全のために。頼んだよ』


 店長からのメールだった。茜と里奈を救い出すための情報が、やっと舞い込んで来た。

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