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挟み撃ち


 店を出た後、僕たち三人はしばらく何も話す事なく、ただ歩いていた。

 美咲さんの日記から始まった今回の捜索は、この店で完全に行き詰まってしまった。今後も捜索を続けるとして、明日からは新しい情報を求めて振り出しから情報探しをしなくてはならない。

 いったい、どこから手がかりをみつけたらいいのだろう? 重くなる気持ちを抑えつつ、それを他の二人に話す事もできずに、黙々と僕は夜の繁華街を歩いている。


「今の店、かなり怪しかったな。いろいろと裏がありそうだ」


 里奈がぽつりと呟く。


「そうだね。それに、あの店長は絶対に美咲さんの行方を知っているな。でも、あの感じでは、僕たちにそれを話すつもりは全く無さそうだけどね」

「ね、翔太。怪しいといえば、私はあの店の奥にあった小さな扉が気にかかる。絶対あそこになにかを隠していると思うの。誰もいない時にこっそり侵入できればいいんだけど」

「僕もあの扉に関しては何かを隠している気がする。でも、美咲さんの行方とは直接は関係が無さそうな気がするんだ。たとえば、あそこに美咲さんを監禁しても、店長にはなんにもメリットがないだろうし」

「私も翔太と同感だ。美咲は店長が隠している、若しくはかくまっているとは思えないな。そこは店長の言葉を信じても良さそうな気がする。店長の言葉と言えば、『出入り禁止の常連』っていうのが気にかかるけれどな」

「店長が言っていた『あれ』だよね。美咲の行方を知っている、かな? それより美咲が居なくなった原因……なのかな?」

「あの店長にそれを聞き出す方法をさっきから考えているんだけど、合法的な手段に限ると、なにも思い浮かばないわね」

「茜、それって君らしいんだけど、ここは合法的に行きましょうって。侵入とか、拉致、監禁とか、拷問とかは無しね」


前から歩いてくる男を避けながら茜を諭す。


「ちっ」


茜のいる方角から、何か舌を打つような音が聞こえた。



 駅から少し離れた裏通りの路地には、赤や青、様々な色のネオンが輝き、さながら誘蛾灯のように千鳥足の客を引きつけている。

 この時間になると、この周辺は会社帰りのサラリーマンや居酒屋を求める学生たち、これから出勤なのか着飾った若い女性達ばかりになり、いわゆる夜の雑踏の装いを呈している。

 嬌声や大きな笑い声、車のクラクション、怒鳴り合う声。様々な騒音が渦巻く。


「それより、早く通り過ぎないか? こんな所」


 里奈が周囲を見回す。


「これだけ人が居れば危険は感じないけれど、あんまり長く居たい場所ではないわね。でも、なにかあったら里奈、お願いね」


 悪代官が用心棒に指示を出すような口ぶりで茜が囁く。

 確かに里奈の格闘技の腕前は目を見張るものがあるのだけれど、里奈に時間稼ぎをさせておいて自分だけ逃げようっていう魂胆なのが見え見えなのはいかがなものだろうか。

 そんな事を考えているところに、周囲からの雑音に混じって、背後から携帯の着信音が聞こえた。


 店の中で聞こえた着信音と同じメロディーだった。


 振り向くと、僕たちのすこし後ろに大柄な男が立っていた。

 大きな手で携帯電話を握りしめているその男は、僕たちが店長とやりとりをしている時に店の中で電話を受けていた男だった。男の横にはもうひとり、店で携帯の男の隣で座っていた男が、監視するような視線を僕たちに向けている。


……つけられていた?


 男と視線が合った瞬間に、僕の直感がそう訴えた。と、同時に、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 嫌な予感から逃避をするように、これは偶然なのかもしれないと考えた。そうして再び二人に視線を向けた。いや、偶然ではない。二人の男の視線は、あきらかにこちらに意識的に向けられている。

 トラブルの予感がした。危険を避ける為には逃げるのが一番利口な方法だろう。こっちには女の子の連れが二人居るのだ。僕だけならともかく、この二人を危険な目に遭わせるわけにはいかない。


「少し急ごう。早くここから離れたい」


 二人を不安にさせないために、電話の男達のことはあえて告げずに急がせる。尾行されているれているというのが取り越し苦労で、たまたま帰りの方向が同じだけならば問題はない。けれども、ここは最悪の事態を考えて行動しなくてはならない場面だろう。

 僕は背後の二人の少女に気を払いながら、けれどもその場を早く離れるために、人ごみをかき分けて雑踏を進む。ふと前を見ると、僕たちよりも先に店を出たアロハシャツの二人組が、人ごみの中で道を塞ぐように立っていた。

 僕が足を止める。茜と里奈もその場で立ち止まる。


「そこの道、左に入ってもらおうか?」


 すぐ背後に気配を感じた。振り返ると、圧迫感に満ちたその気配から低い声が聞こえてきた。電話の二人組は僕たちのすぐ後ろに立っていた。驚いたように振り返る茜と里奈。


「なによ、あんた達」


 僕は男達に噛み付こうとする茜を制止し、戦闘態勢に入ろうとする里奈を押さえる。

 敵は目の前の二人だけではない。進行方向にもアロハの二人が待っているのだ。周囲の人ごみにも他の仲間が紛れている可能性すら否定できない。


 二人の女の子を連れて、引く事も進む事もできない。一旦は従うしか無いと僕は判断した。




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