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nest of moth 2

「ご心配かけましたー。悪酔いの女性は従業員の休憩室で休んでいるんで、みなさん、心配せずにゆっくり楽しんでくださいね。あ、それから注文は慌てず順番に。今日は一人しかいないんだから。値段の高いメニューから受け付けますよ。うちは利益優先だから」


 膠着した雰囲気を和らげたのは、店の奥からカウンターに戻った店長の声だった。

 僕たちを睨みつけていた隣の席の男達は互いにひとこと言葉をかわすと、徐に席を立ち、僕たちに背を向けてレジへと向かう。このまま帰る様だ。事なきを得たと思い、僕は胸を撫で下ろす。

 緊張に固まっていた茜は肩の力を抜き、安堵の表情が浮かべた。

 アロハ姿の柄の悪い二人組は、会計を済ませたあとにもう一度僕たちを睨んでから、悠然と店から出て行った。


「私たちも帰ろうか、翔太に里奈。情報が無いんじゃいつまでいても仕方がないし」


 茜の声に、僕たちは頷いて席から立ち、カウンターへ向かう。


「会計お願いします。店長さん。ここは、僕が払うから」


 僕は茜と里奈に告げる。


「会計? いいんだよ。さっき、店の奢りっていっただろう?」


 店長は不思議そうに顔をする。


「でも、僕たちは水だけでいいって言ったのに……」

「じゃぁ、注文を間違えちゃったんだ。こっちのせいだから、お代はいただけないね」


 店長はにやりと笑う。


「でも、ここにはもう二度と来るんじゃない。この辺の子なら、この店の噂は知っているだろう? まぁ、その噂っていうのも、さっきみたいな急性アルコール中毒もどきがそんな風に、薬物中毒みたいに見えるだけなんだけれどね。でもね、もし君たちの学校の友達とかがこの店から出る所を見たらどう思うかな? 良くない噂のあるこの店から出て来た君たちを見てどう思う? 悪い事は言わないからこことは関わりを持たない事だ。さぁ、帰りなさい。お金はいらないよ」

「さっき、肩をかつがれた女の人が出て来た奥のドアって、一体何なんですか? それからブザーは?」

「まだ分からないのかな? このお嬢さんは。余計な詮索はしないでくれないか。この店のためだけじゃなくって、君自身のためにもね」


 店長の顔から、穏やかさが消えた。人なつこい表情の奥に、静かに威圧するかの様な冷たい圧力を感じた。


 カウンター席のひとつから、携帯の着信音が聞こえた。大柄な、いかにも威圧感のある男の携帯だった。



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