一時解散
僕は茜の命令で、三人と反対側のテーブルの端で、ひとりはずれてお茶を飲んでいる。
三人の少女は、ときおり『いやだ』とか、『なんで?』とか口々に呟きながら美咲さんの日記を読んでいる。
表情を曇らせたかと思うと、口元にうっすらと笑みを浮かべてお互いに顔を見合わせたりしながら、一見楽しそうな三人の様子を見ていると、日記の内容が気にならないと言えば嘘になる。
けれど、ここは黙って引くことにした。
たとえ彼女達に逆らって日記を無理やり見ようとしても、次の瞬間には里奈の上段蹴りが僕の側頭部に炸裂することは分かりきっている。
結局、僕は日記を読むといった目的を果たす事は叶わないだろう。
そんな事は試さなくても分かっている。
それよりも、友人の日記をじゃれあうように読んでいる無防備な女子高生三人を、テーブルの片隅から眺めるているのも悪くはないだろう。
休日だというのに制服姿の茜と里奈は、改めて眺めるとやっぱりかわいらしい女子高生であり、綾乃さんのゴスロリもなかなかのものだ。
目の前の三人の少女は、思春期のまっただ中にいる僕にはめまいがするほど眩しく感じられた。
しばらくして日記を読み終えた三人は、それぞれ目を合わせると小さく頷いた。三人の中で何かが決まった様だ。
茜の、輝きを増した瞳が僕をみつめる。嫌な予感が胃の奥の方にずっしりと走った。
「ねぇ、翔太、決めたわ。これから一旦解散して、夜にマンション前に集合よ。日記に書いてある、美咲がいつも行っていたカフェバーとやらに聞き込みに行くから。で、翔太は必ず来る事。これは決定事項だからね」
僕の意思を一切確認せず、溌剌とした声で茜は僕の今夜の予定を決定した。
「私たちでは手に負えない相手だったら、私たちが逃げ切るまでは私たちの盾になりなさい、翔太」
茜は、死刑宣告にも似たような言葉をさらりと付け加えた。