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森の奥で

 魔に覆われた漆黒の空。

 妖しく絡み合う木々の枝。

 僕たちは行方不明の女子高生の足取りを追って、鬱蒼とした林の奥深くを歩いている。


 足を踏み出す度に聞こえてくる枯れ葉の壊れる音。足の裏から伝わってくる腐葉土の感触は、まるで生肉を踏みつけている様に、不快な程柔らかい。


 湿り気と木々の匂い、土の香りを含んだ一陣の風が、細い枝に重なり合う様にこびりついた木の葉の群れを、さわさわと揺らす。


「……いや」


 背後から少女の声がする。僕は足を止めて振り向いた。

 少女の一人が、突然の風に流された長い髪を、白くて細い両手で押さえている。少女の一人……。そう、僕の後ろには三人の少女が、絡み付くような周囲の闇に不安の表情を浮かべながら寄り添って歩いている。

 少女たちは、三人とも行方不明になった女子高生のクラスメイト。そして、僕をこの厄介な捜索に引き込んだ張本人だ。


「だいじょうぶ?」


 僕は声を出した少女が気になったので、その少女に声をかける。


「へいき。ちょっと突然の風に驚いただけ……だから」


 上目遣いで笑顔を作る少女。他のふたりは無言のまま、僕に向かってうなずいた。


 ふと、明るくなった空を見上げる。

 さっきの風に流されてできた、まるでカミソリで裂かれたような雲の隙間から、ぼんやりと白い月が顔を覗かせていた。

 木々を覆う無数の葉。その一枚いちまいが月の光を受けて一斉に白く輝く。月明かりは、闇で満たされた黒い森を、清々しい、けれども儚い光で満たそうとしている。


 前方の木の下に、月の光に照らされて白い物が見える。人だ。闇の中にぼうっと浮かび上がったその軀は、純白の大きな翼を持った蛾、『オオミズアオ』の様に見えた。オオミズアオの学名は、アクティアス=アルテミス。直訳するとアテネの月の女神。


 少女の一人が叫んだ。


「美咲」


 三人の少女達は、深い緑色をした腰まで伸びた雑草をかきわけながら、ようやく探し当てた友人のもとへ走り寄る。

 僕たちが懸命に探していた『月の女神』は、両手を大きく広げた一糸纏わぬ姿で、森の中に佇む一本の木に括り付けられていた。その幻想的な美しさを深い闇に見せつけながら、僕たちが発見するのをひっそりと待っていた。


 清澄な白い光に照らされて、磔られたままじっと動かない『月の女神』を遠くから眺めながら、僕は数日前を思い出していた。



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