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ガツン!
(?!!)
何が起こったのか、一瞬分からなかった。確かに俺たちに向かって振り下ろされたはずだった、妖魔の蔦が。
それなのに、はじかれた——? 俺たちの頭上に薄いガラスの膜みたいなのが張って、敵の攻撃を防いだらしい。
「護られてばかりは、イヤなんだ」
間近で綾はそう言った。俺に水晶を当てながら。
「俺だって、男なんだぞ。みんなに頼っているばかりじゃ、男として、情けないじゃないか。だから、じつは内緒で修行して、自分でも結界を張れるようになったんだ」
「せ、先輩……」
やべえ。可愛い。ちょっと凛々しい表情して、そんな風に言われると。思いっ切り俺とか言っちゃってるけど。声だって、女にしてはハスキーだし。
でも、可愛いものは、可愛いじゃん。
今も敵の攻撃がガツガツ当たってる。綾を中心にしてドームのように張られてるらしい透明なバリアが、強固に護ってくれてるけど。
こんな緊迫した空間の中で、俺は少しだけ、ドキドキした。
不覚にも。
「まだまだ、呪文を唱えるのに時間が掛かってしまって、さっきは敵に捕まってしまったけど……シノが闘ってる間に、完成させた」
「すげえじゃないすか、先輩!」
もうずいぶんと癒されてきてたから、俺は身体を起こす。そうしてもう一回、刃の消えた柄を握りしめた。
先輩を護りたい。食われたらこの世界がやばいとか、そんなんじゃなく。純粋にこの人を、死なせたくはねえな。
そんな風に思いながらも立ち上がった。綾はしゃがんだまま、俺を見上げている。
「完全に癒えてないぞ、シノ」
「もう十分っす。早くコイツ、消しさりたいから」
力を込め、柄を敵の頭に向けた。結界の外で荒れ狂い、うねり続けてる魔物。あんた醜いよ、黒い体液もだらだら流して。いい加減グロテスク見続けるのも飽きたって話だ。
「じゃあな、植物の妖魔さん」
念じれば、生み出された光の線は一直線に魔物へと伸びる。ピンポイントで花の中心を貫通する、槍みたいに。
断末魔の悲鳴はすさまじかった。綾も思わず耳をふさいでた。黒い空間内すべてに最後の声を響かせて、化け物は崩れ落ちる。自らで勝手に発火して、ハデに燃えゆく——
綾は結界を解いた。そんで俺の傍らに立ち上がる。俺たちはしばらく、魔物の引火した情景を、眺めてた。