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 昨夜も遅くまで、ネットゲームに興じていた。俺は欠伸をかみ殺しながら、バスの吊革に掴まっている。通学路は平時ふだんと変わらない退屈さだ。目の前の座席では“まだ朝だってのに”疲労を色濃くにじませた顔のサラリーマンがうたた寝していて、隣の若い女は香水臭え“色気をアピールしたくて付けてんなら逆効果だ、俺はその甘ったるい匂いに魅力どころか吐き気を覚えている”誰かのヘッドホンから漏れてきてるアニソンもシャカシャカうるせえし。嫌になるね、朝から。


 こんな満員車内に押し詰められての登校で、学業へのモチベーションが上がるはずもなく。俺はいつも通りウンザリした精神状態で停留所に降り立ち、私立陵みささぎ高の校門を潜るのだった。


「おはよう、シノ!」


 下駄箱を目指してトボトボ歩いていると、声をかけられる。振り向けば『学校一の美人』との称号を頂く我らが生徒会長——陵綾みささぎ あやの姿があった。腰まである艶めく髪、整った顔立ち、スタイルの良い肢体。プリーツスカートから伸びる、黒のニーソを履いた脚の長さはモデル並と評しても言い過ぎじゃない。


 間違いなく、その容姿は俺のタイプ。

 ……綾が『男子』じゃなければ、な。


「何スか先輩。朝から元気っすね?」

「シノは朝から鬱々してるなー。目が虚ろだぞ」

「現実世界は嫌いなんですよ。願わくば、ずっとネットの世界に居たいくらいだ」


 俺は心からその一言を紡いだ。綾は盛大にため息を吐き、やれやれ、といった表情をする。


「お前、本っっっ当にネクラだな……そうだ。今度遠足に行こうか、俺たちの生徒会で」

「お断りします。なるべく太陽光には当たらない主義ですから」

「ナニ言ってるんだ。よし、遠足決定な!」


 俺の肩をポンと叩き、綾は靴箱へと掛けていった。プリーツがはためいて、危うくパンチラが拝めそ……いかんいかん、ヤツは男なんだ。

 校内のほとんどの連中は、この事実を知らねえ。男どもはファンクラブを作っているし、女子も憧れだよね〜可愛いよね〜みたいに言っている。

 

 ああ、確かに可愛い。


 できれば俺も真実を知らずに居たかったさ。けれども突然に生徒会にスカウトされ、俺の意志は全くもって尊重されず書記に任命され、綾に関する全ての事実をうち明けられたのだ。

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