短冊をもみの木につるすと、翌朝靴下の中に知らないおじいさんが入っているという伝説
「えー、笹ないの?」
由香里の不満そうな声が居間から聞こえてくる。
「しょうがないでしょ。無い物は無いんだから」
不機嫌そうな由香里の前で、母が適当に言い放つ。
「せっかく願い事書いたのに」
由香里の持っている短冊を見た由香里の母は、腕を組んで考えた後、何かを思いついたように手を叩いた。
「そうだ、あれにつけなさいよ。似たような物でしょ」
「あれって?」
「ちょっと待ってなさい」
そう言って由香里の母は、家の倉庫の方に向かった。
しばらくの後、由香里の母がまだクリスマスの飾りが残っているもみの木を持ってきたのを見て、由香里は軽く絶句した。
ジリリリリリリ
目覚し時計が派手な音を布団の中の由香里に叩きつける。
「うーん、あとちょっとだけ」
寝ぼけた声でつぶやきながら、由香里は片手で寝癖のついた頭をかきつつ、もう片方で目覚し時計に手を伸ばした。
もう少しで時計というところで、伸ばした手に別の誰かの手が重なる。
「……うん?」
まだ覚醒していない由香里が中途半端に開いた目で手の方を見ると、手袋をした誰かの手が自分の手を握っている。片方の手で目をこすり、由香里はその手袋の手から視線をあげていった。白く清潔そうな手袋、先端が白い袖の赤く暖かそうな服、その上には、立派な白い髭を生やした温厚そうな、しかし見知らぬ外国のおじいさんの顔。
半分頭が眠ったまま、何か違和感を感じた由香里はおじいさんの全身を観察してみた。朝起きてすぐに着替えられるよう準備しておいた由香里の靴下から、上半身が生えているように見える。
「……?」
少し目が覚めた由香里が改めて凝視すると、小さかったはずの靴下は一リットルペットボトル並に膨れ上がり、白いはずの色は赤く染まっている。所々破けた穴から赤黒い何かがあふれ、灰白色の棒のような物が突き出している。
強い鉄の臭いに由香里があたりを見ると、床が一面真っ赤な液体で覆われていた。
唖然とする由香里に向かって、うつろな目をしたおじいさんの口がかすかに動き、血と空気と音を吐き出した。
「メリー……クリスマス」
「いやああああああ!!」
由香里の悲鳴が朝の空気を切り裂く。
七夕は……まだ終わらない。