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Let's face it.(5)

 ジーンと小太郎がバザールに到着した同時刻、青い子馬亭の前の通りには異様な空気が張り詰めていた。

 いつものようにゴッド・ジーンの占いを求める人々の列ではなく、連邦警察の制服を着た警官が陣を張っているせいである。多少の騒ぎには慣れっこになっているイルヴァーナの人々も、あまりの物々しさに息を潜めていた。

 そんな空気に取り囲まれた青い子馬亭の中には、もっと重苦しい空気が流れていた。

 ひとつのテーブルに、アレッドと潜入囮捜査課課長ゴードン・トレイシーが向かい合って座している。

 お互い、ただ黙して座っているのだ。

 その真ん中で、やはり黙したまま青い子馬亭の主リアドルが、コーヒーを煮出していた。

 銅でできた柄杓のような器具を、小さな簡易コンロの炎にのせ、コーヒー粉と砂糖をいれスプーンで掻きませながら水から丁寧に煮出す。

 泡がふいたらすぐにおろし、再び泡が出るまで煮出す。これを三回ほど繰り返し、小ぶりのカップに注ぎ小さな皿で蓋をすると、リアドルはまずはゴードンの前に置いた。

 ゴードンは目礼してそれを受けたが、すぐに蓋をあけようとはしない。このコーヒーの飲み方を心得ているようだった。

 コーヒー粉を水に入れ直接煮出すため、淹れたては粉が表面に浮いている。粉が沈澱するのを待って、上澄みを味わうのがこのコーヒーの飲み方である。上澄みを飲むのにもまたコツが必要なのだが。

 人数分をすぐに作れない面倒さがあるが、コーヒー豆の雑味を少なくし、マイルドな味に仕上げることができる。煮出すため粘性が高くなるので喉を潤す飲み物には向かないが、香りと味を存分に楽しむことができるコーヒーとなる。

 リアドルは目礼を返しながら、さりげなくゴードンを観察した。

 一糸の乱れもなく整えられた髪、謹厳な顔つき。鍛えられたガッシリとした身体に纏った三揃いのスーツは上等な品だ。靴は磨き上げられ、身なりに隙がない。だが、隙のなさが嫌味にならない上品さがあった。また、官憲にありがちな押しつけがましさも全くなく、悠揚でさえある。

 そのくせ鷹の目のように鋭いライトブラウンの目は、何者にも臆することない歴戦の戦士のようであった。

 フォルセティ(正義と調停の神)のごとく――とまで言われるほど、ゴードンの判断力・指揮能力は高く、油断のならない切れ者であると聞く。

(この男が味方ならば、さぞかし心強いことだろうな)

 そう思いつつも警戒を崩す気はまったくなかった。

 青い子馬亭――リアドルの店に大人数の警官を踏み込ませたのは、紳士然としたゴードンなのだ。

 強引さにかけては、アレッドとたいして変わりはしない。

 リアドルは次のコーヒーを用意するため、すぐに同じ手順を繰り返しはじめた。

 銅製の器具にコーヒー粉と砂糖をいれ、掻き混ぜながら炙るように丹念に煮る。

 このコーヒーの作り方は、ユン・カーシュ族では客人をもてなすための特別なものだ。

 といってもリアドルが、ゴードンはもちろん、扉を蹴り飛ばして踏み込んできたアレッドたちを、客人として迎え入れているわけではない。

 話し合いのための場所を提供して欲しいとゴードンに言われ、それに承知はした。彼らを青い子馬亭に留め、ユン・カーシュ式コーヒーを作っているのは、状況を正確に把握する時間稼ぎにすぎない。

 連邦警察と、異形の守護者ともいわれるVSIO。

 どちらもジーンの保護を目的としているという。

 それが本当かどうか見極める必要があったし、ジーンのために情報も欲しかった。

 ユン・カーシュの魂を足蹴にされた怒りや、保護が目的と言いつつも強引に乗り込んでくる双方に対して憤りはあるが、リアドル個人の怒りやプライドよりも、ジーンの安全がなによりも大事なのだ。

 ジーンはまだ子供だが、占術・精霊術の腕は、傑出した占者であり部族の長老であるオババ様が認めるほどである。不届きな輩に容易に捕まるとは思えない――が。

 ジーンが逃げる時にリアドルにかけていった術が中途半端に解けてしまったのが、リアドルの胸に不安を呼んでいた。

 リアドルにジーンがかけた目晦ましの術は、一定の時間を過ぎると自然に解けるようにできている。それが、解除の時間を迎える前に、ふいに解けてしまったのだ。

 リアドルは精霊術師としての才能はなかったが、手に届く範囲内でなら精霊の気配や術を感知することはできる。それゆえに、術の解除の異様さに不安を感じずにいられなかった。

 ジーンを捕らえようとする者の中に、ジーンと同じか、もしくはジーンを超える術者がいる可能性があるのかもしれないのだ。それは、ジーンが危険に晒されることを意味する。

 すぐにジーンを追えなかったことが悔やまれる。

 シャリースの拳をくらい不覚にも膝をついてしまったが、リアドルとて戦士。ずっと意識を失っていたわけではない。すぐに意識を回復し、ジーンを安全確実に逃がすために機会を伺っていたのだが、乱入してきた警官をさばくのに手一杯になってしまいどうすることもできなかったのだ。

 ここ数日の度重なる誘拐未遂、不自然な術の解除――リアドルは沸き上がる不安を押さえ込みながら、黙々とコーヒーを淹れ続けた。

 同じように黙して、アレッドの後ろにはシャリースが、ゴードンの後ろには金色の髪を短く刈り込んでいる長身の男が控えていた。

 長身の男は連邦警察の制服とは違う黒いスーツを身にまとっている。主人の命令を正確に迅速に遂行するドーベルマンのような静かな険しさがあった。

 なんの感情も浮かべないアイスブルーの視線を、ほんの少しだけ動かす。自分の周囲で物珍しげにウロウロとしていた子供が、目を見開いて舌を出したり、手でほっぺたをひっぱたり潰したりして、顔を変形させ始めたからだ。

 一瞬気を取られはしたが、男の視線はすぐに子供から外された。これが噂に聞くVSIOに飼われている異形か――そう思っただけで、眉ひとつ動かさない。

 彼の神経の全てはゴードンの警護にのみ向けられ、それ以外のことはどうでも良いことだった。小さな生き物が男を笑わせようと懸命であるなどと、これっぽっちも考えつかない、そういう硬い男だった。

 店内の重苦しい沈黙の中、トンカントンカンと牧歌的な音が響く。

 袖をまくったダグラスが、トンカチを片手にアレッドが蹴飛ばした扉を修繕していた。釘を口にくわえ、鼻歌まじりで楽しそうに。

 それを外で待機する警官たちの何人かが忌まわしげに見ていた。

 ダグラスは連邦警察潜入囮捜査課から「面白そうだから」という一言を残し、VSIOに移った異色な人物である。連邦警察関係者の中にはそれを裏切り行為と見なし、軽蔑している者もいると聞く。――だが、それも男にとってどうでもいいことであった。

 悪名高いアレッドたちと対面するのも初めてだったが、もちろんそれにも興味がない。

 ふいに男の背に緊張が走る。足元でウロチョロしていた子供が男の背をよじ登ろうとし始めたからだ。

 男は元傭兵である。それゆえに、たとえ子供であろうとも背中をとられることだけは我慢ならなかった。背中をとられる――それは戦場で『死』を意味する。

「ナッシュ、やめるんだ」

 ゴードンの静止に、ナッシュは手を止めた。

 だがすでにナッシュの手には、コンマ数秒の迅さでコルトパイソンが握られ、ルキアの額に銃口がピッチリと合わされていた。

「ここは戦場じゃない。撃ち殺してもいいのは、犯罪者だけだ」

 ナッシュは手にしていたコルトパイソンを懐にしまうと、腰までよじ登っていたルキアを床に降ろす。すぐにルキアが登り始める、また降ろす。それを繰り返す。

 ルキアも諦めなかったが、ナッシュも諦めなかった。

「ナァーッシュ」

 ゴードンが少々呆れを混ぜた声音でナッシュの名を呼ぶ。

 好きにさせてやれと含みのある声だ。

 ナッシュは十字を切るような表情を一瞬だけ見せたがすぐに直立不動となり、よじ登る子供になすがままにさせた。

 子供の無邪気な行為であるとはいえ背中をとられるのは、耐え難い苦痛でしかなかったが、ナッシュにとってゴードンの命令は絶対である。

 奥歯をギリリと噛み、反応しそうになる右手を握り込み、脂汗が流れそうになるのを強固な意思で堪えた。

 ナッシュは戦争があれば傭兵として、戦争がないときは要人の護衛として、常に闘いに身を置いてきた男である。行動を起こす基準は、敵か味方か、ただそれだけ。

 戦場にいても、護衛をしていても、そのシンプルな考えで生き抜いてきた。それは彼の全てであり、生き残るための指針でもあったのだが。

 1ヶ月前、ゴードンに射撃能力とガード(護衛)能力を買われて連邦警察囮捜査課へスカウトされ、シンプルな指針だけでは生きていけない世界に飛び込むこととなってしまった。

 ナッシュ自身、良くわかっていることだが、闘うしか能がない男である。

 戦場で生き残る術、敵陣に潜入し速やかに殺す術なら心得ているが、それ以外は何も知らない。だから闘いながら戦場で生きていき、そして誰かに殺されて死ぬのだと思っていた。

 なのに、なぜ囮捜査課のスカウトを受けてしまったのか? いまだに自分でもよくわからない。受けるつもりなど最初からまったくなかったのだ。

 だが、ゴードンの「来い」という一言に、「イエス」とナッシュは即答していた。それは、ナッシュ自身気付いていなかったが、孤高のドーベルマンが唯一無二の主人に頭を垂れた瞬間でもあった。

 今現在、ナッシュはゴードンの警護をしつつ捜査課のセオリーを修得している最中である。いずれは囮捜査チームに組み込まれることになる。

 それも噂に名高い疫病神――流小太郎のチームの一員として。

 ふいに背中が軽くなり、ナッシュは反応しそうになった右腕を押さえ込んだ。

 犯罪者じゃない人間を撃ち殺そうとしてはいけない――いま学んだばかりのことだ。

「あ~、まだ頂上まで登ってないのにぃ~」

 ルキアの不満そうな声が上から振ってくる。

 扉の修理を終えたダグラスが、ナッシュによじ登っていたルキアを抱え上げたのだ。

 ルキアが自分の背中から剥がされる直前まで、ダグラスの気配に気が付かなかったことに、ナッシュは背筋を凍らせた。もちろん、それを表情に出すようなことはしなかったが。

 陽光が踊る淡いグリーンの瞳と、光を鈍く弾くアイスブルーの瞳がぶつかる。

 ナッシュの背にゾクリと冷たいものが這い登った。

 目の前の男の中に、暗澹たる洞がある気配を感じたのだ。しかし、その気配はすぐに掻き消えてしまい、ナッシュを困惑させた。ダグラスはおどけけて肩をすくめてみせた。

「悪いな。うちのチビは無愛想な男が好きでね」

 そう言って、ルキアの背をポンと叩いてアレッドのほうへ追いやった。最後のカップにコーヒーを注いでいたリアドルに、声をかける。

「どうかな、ダンナ。以前のものより蝶番ちょうつがいは丈夫な物にしたし、開閉もしやすくなったと思うよ。これで、勘弁しちゃもらえないかね」

 リアドルはダグラスを一瞥すると難しい顔を崩さぬまま、注ぎ終わったカップに小皿で蓋をし、アレッドの前に置いた。

 胸ポケットから、先刻シャリースが入れた札束を取り出しカップの脇に置く。

 それを見て口を開きかけたシャリースを、ダグラスが目で制し人指し指を唇にあてた。不満げにシャリースは口もとを歪めたが、すぐに押し黙った。

 それまで腕を組み瞑目していたアレッドは、サングラスを外すとゆっくりと目を見開いた。

 難しい顔をしたまま見下ろすリアドルを、アレッドの蒼みがかった黒い双眸がまっすぐ捕らえた。

「悪かった」

「……」

 アレッドの思わぬ言葉と落ち着いた声音に、リアドルは思わずコーヒー道具を取り落としそうになる。赤毛の男が何を言っているのか、一瞬理解できなかったのだ。

「アンタらの魂を蹴り飛ばしたのは、俺の落ち度だ」

「……」

 リアドルは声も出なかった。

 扉を蹴り飛ばした乱暴さ、さきほどのジーンとのやりとり、またVSIOに関わる様々な噂から考えても、こんな率直に詫びる男だとは考えられなかったからだ。

 赤毛の男がどんな横暴なことを言い出すか、それに対してどんな風に言い返してやろうかと考えていたというのに、肩透かしをくらったような気分である。

「サングラスをかけてもいいか?」

 そう問いかけるアレッドに「ああ」とぎこちなく頷き返す。

「コレなしだと眼が疲れるんでな」

「疲れる? 目が悪いのか?」

「悪いと言えば、悪いんだろうな」

 一瞬言葉の意味をはかりかねたが、リアドルはすぐに理解した。

 この赤毛の男は、凶眼の魔王と異名ふたつなを持つ男なのだ。どういう仕組みかわからないが、サングラスなしでは周囲に危険を撒き散らすことになるのだろう。

 それでも、サングラスをわざわざ外したのは、詫びの言葉を言うのにサングラスをしたままでは無礼だと思ったからだろうか。

「煙草もいいかい、ダンナ?」

 ダグラスが煙草の箱を片手に持って振ってみせる。

 リアドルが釣られるように頷くと、ダグラスは2本煙草を取り出し、1本は自分に、もう1本はアレッドの口もとに運び、手早く火を点けた。

 リアドルは、ふたりの前に灰皿を置く。接客の条件反射のようなもので、ほとんど無意識にやっていた。それほどに、アレッドの率直さに毒気を抜かれていた。

 アレッドとダグラスは、煙を深く吸い込み肺の隅々にまで行き渡らせ、深く吐いた。それを何度も繰り返す。

 煙草を吸うのをよほど我慢していたのか――「ああ、そういえば」とリアドルは心の中で頷く。

 先ほどまではやりたい放題で、吸った煙草を花瓶に投げ捨てていたというのに、ゴードンと向かい合ってテーブルに座してからは煙草を1本も吸っていない。

 サングラスと同じく、詫びを言うまでは煙草を吸うことを控えていたのかもしれない。それにダグラスも付き合っていたのだろうか、「あー生き返る~」と喜々とした声を洩らしながら煙草を吸っている。

 アレッドは少し名残り惜しげに煙草を灰皿に押しつけると、カップ脇に置かれた札束を、リアドルの前に押しやった。

 リアドルは何とも言い難い表情を浮かべた。

 アレッドが、壊した物の修理代として受け取れと言いたいのだということはわかる。

 だが、扉はすでにダグラスが直しているし、アレッド達の乱入時に壊された物の数よりも、連邦警察乱入時に壊された物のほうが遥かに多い。そのことに関しては、ゴードンから詫びの言葉をすでに受けているし、修理代金も全て連邦警察に回すように言われてもいる。

 リアドルは札束を元の位置に戻した。

「詫びは受けた。金はいらん。その金は、お前たちが殴った客たちに治療費として渡してやれ」

「その必要はない」

 間髪入れずに返すアレッドに、リアドルはムっとする。修理代を払う意思はあるのに、治療費を払う意思が何故ないのか?

 すぐさまダグラスが顔の前で両手を合わせた。

「ウチの大将、言葉足らずで申し訳ない。外の客でぶっ倒れてるのは、一般人を装ったハンターと地元のチンピラだけだから、治療費をくれてやるこたぁないって言いたいんだ」

「いくらなんでも、無害な一般人に暴力を振るったりしませんよ。怯えさせたのは申し訳なかったですけど」

 ダグラスとシャリースの言葉に目を見開き、リアドルはアレッドを見た。

 詫びを言った率直さはどこへ消えたのか、アレッドは口をへの字に歪めて押し黙っている。リアドルの言葉にへそを曲げてしまったらしい。

 リアドルは少し可笑しくなった。これが本当に凶眼の魔王と恐れられる男なのだろうか、と。

 傲慢で横暴かと思えば、自分の非を詫びる率直さを持ち、そのくせ、ささいな言葉にへそを曲げる子供のような男。

 魔王ではなく悪童を相手にしている気分になる。自然とリアドルの口もとに笑みが浮かんでいた。

「それはこっちの失言だった。だが金はいらん」

 アレッドをまっすぐと見据え、リアドルは言った。

「詫びたいというのなら、金のかわりに約束をもらおう」

 リアドルの言葉にアレッドは怪訝そうに眉をつりあげた。

「約束?」

「お前たちが、少なくとも敵ではないとわかった。だが、味方である保証もない。ジーンを保護するという言葉が本当ならば、あの子を手荒に扱わないと誓え」

「……」

 アレッドはなんとも複雑な表情を浮かべたあと、少しばかり考え込んでから「わかった」と頷いた。

 どうやら手荒に扱わない自信があまりなかったらしい。

「絶対に、だ」

 リアドルが念を押すように言う。

「この約束が破られれば、いかな理由があろうとも、お前たちを絶対に許さん。地の果てまでも追い詰めて必ず報復するだろう。これはユン・カーシュの戦士の誇りと魂を賭けた誓いだ。お前たちも自分の誇りと魂を持って誓え」

 アレッドが見上げ、リアドルが見下ろす。数秒の沈黙が流れ、アレッドが小さく笑った。すぐに無愛想な顔に戻ってしまったが。

「わかった、誓おう」

 その言葉に満足げにリアドルが頷く。そして、生徒に説教をする教師のような顔をして言った。

「それから、もう2度と花瓶に吸い殻を捨てるんじゃない」

「……それを破るとどうなる?」

 少しばかり警戒を解いたリアドルが笑む。部屋を支配していた重苦しい空気も溶けていく。

「煙草に火をつけるたびに、水をぶっかけてやる」

 冗談混じりに言っているが、限りなく本気に近いのが見て取れる。

 アレッドはマジマジをリアドルの顔を見た。そして言った。

「そいつぁゴメンだな」

「なら灰皿を使うことだな」

 肩をすくめるアレッドの脇から、シャリースが手を伸ばし札束を懐に仕舞うと、カチャリという音が響いた。

 ゴードンがコーヒーカップを手にとったのだ。

 カップを片手で鷲掴むように持ち、指四本と手のひらでカップを支えながら、親指でカップに乗せた小皿を少しズラす。小皿をズラしたことによって生まれた隙間から、ゴードンはコーヒーの上澄みをすすった。

 ユン・カーシュ式コーヒーの正しい飲み方だ。

「旨いコーヒーだな、店主」

 呟くように言う。

 飲み干してカップを置くと、アレッドとリアドルの顔を交互にゆっくりと見てから口を開いた。

「そろそろ、こちらの話をさせてもらおうか」

 あくまでも声音は柔らかだが、背筋をピンと伸ばさずにいられないような厳しい響きを持っていた。

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