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Let's face it.(2)

 青い子馬亭の外で、ダグラスは鼻先に落ちてきたパンの粉を指先で払った。トゥパンの食べカスだ。

「頼むから、俺の頭に蜜だけは落とさんでくれよ」

 細く長い影を落とす背の高い男の呟きに、肩車された子供は垂れかけた黒糖の蜜を慌てて舐める。

 歳の頃は10くらいか。小柄な少年、いや少女のような。

 ダグラスは蜜と格闘してジタバタと暴れる子供——ルキアが落ちないように両足首を掴むと、苦笑いを洩らす。

 そしてルキアを肩車したまま、アレッドとシャリースが扉を蹴り飛ばして入っていた戸口をダグラスはなんとも言えぬ表情で眺めた。

 仕方なさそうに位置を移動し、戸口から1メートルほど離れた場所に立つ。

 話し合いの最中に余計な人間が入り込まないよう牽制するためだ。

 シャリースの丁寧なお願いや、とっても丁寧なお願いをされてしまった人々が、アレッド達の邪魔をする気力があるとは到底思えなかったが。

 青ざめた顔で沈黙している者、炎天下で熱くなった道路に転がっている者と様々だ。

 丁寧なお願いに負けて、アレッド達の乱入を許したが、それでもゴッド・ジーンに占ってもらうことを諦める者はひとりもいないようだった。

 ゴッド・ジーンは、未来を見通す『先見プロフェット』の能力を持つ占い師として名高い。精霊と盟約をなす精霊術師であるともいう。

 先見能力の高さゆえに各国政府・研究機関に狙われているうえ、百発百中でヴァリアントの生息地を当てる「ヴァリアント探知機」だという噂が加わり、ヴァリアント狩りを生業とするハンター達までもがゴッド・ジーン獲得に動き出し、その数は増していく一方。

 最近では、ゴッド・ジーンその人自身がヴァリアントではないかとすら言われていた。

「あ!」

 ふいに頭上から振ってきた声に、ダグラスは小さく首を傾けた。

「どうした?」

 つややかな光をはらむ黒髪を白い顔の周りに揺らし、ルキアは明るく告げる。

「500メートルくらい向こうに、黒い服の人達がたくさん歩いてくるよ」

「黒い服? 警官か」

「衿に鳥の絵がついてる」

 鳥の絵――双頭の鷲の紋章のことだろう。ということは、ベーゼの警察ではなくIPO(the International Police Organizationの略――国際警察機構)に違いない。

「どういうこった」

 ダグラスは眉をひそめた。

 ここで騒ぎを起こしても、すぐに警察に伝わるとは思えなかった。

 イルヴァーナのオークションが近いために、警察の巡回が増えているが、この人混みだ。通報されたのだとしても、ここに到着するには2・30分はかかるはずだった。

 どちらにしろ、500メートル先からごった返した道を進んでくるには、少々時間がかかるだろう。

「まぁ、アレッドの用事をすませる時間ぐらいはあるだろうよ」

 夢中で密を舐めていたルキアが、大きな黒い瞳をキラキラと輝かす。

重石にしか見えないゴツいブーツを履いた足のカカトで、ダグラスの胸を軽く叩きながら、喜々として聞く。

「ねぇねぇ、もしかして暴れていいの?」

「暴れちゃダメだって、アレッドに言われてるだろ」

「そうだけどぉー」

 ルキアは口を尖らせたが、すぐにパッと目を輝かした。

「じゃあ、もうちょっと遠くの、車で来てる人達ならいーい?」

「車?」

「うん」

「占いをしにきた金持ちなんじゃないのか」

 この辺で車を使うのは、金持ちくらいなものだ。

「でも、みんな、銃を持ってるよ。長いヤツ持ってるヤツもいる」

 長い銃――ライフルのことか。

 ダグラスはルキアを抱えたまま、空を仰いだ。

 この国は銃の携帯を禁止されてはいないから、金持ちが護衛に銃を持たせることなどよくある。だが、これみよがしにライフルなどを持たせることなどはしない。

 ふいに疫病神と呼ばれる人物のことが頭を掠めた。

「面倒になりそうだな」

 ダグラスは諦めきった溜息を吐き煙草を地面に落とすと、靴先で火を消した。




***




「――というわけで、私達と一緒に来て頂ければ、あなたの身の安全を保証できます」

 シャリースはVSIO(Variant special Investigations Organizationの略――ヴァリアント特別捜査機構)だと名乗り、ジーンを保護しに来たのだと語った。


【var・i・ant/ヴァリアント】 ▲異形

「精霊」「妖怪」「神獣」「魔物」と様々な呼び名を持つ。

 国際通称としてヴァリアントと呼ばれている。

 時に恐怖を、時に恩恵をもたらす存在として、恐れ敬う存在である。

 謎多きアッシュルを研究したい神秘学者や、生命力の謎を医術に取り込みたい医者、ヴァリアントを収集し剥製にする趣味を持つ者、『不死』の伝説を求める金持ち達に狙われる存在でもあった。


 VSIOはヴァリアントを保護し、また人に害をなすヴァリアントの封印を仕事する国際機関のことである。

 ジーンがヴァリアント狩りに協力しているならば阻止し、また噂通りヴァリアントならば各国政府や研究機関、ハンターから守らなくてはならないとも語った。

 VSIOでの捜査の結果、ジーンがヴァリアント狩りに協力した事実が全くないこと、紛う事なき人間であることがわかっており、誰にも捕まらぬよう用心深く常に逃げ回っているジーンを、『ヴァリアント探知機』の噂が収まるまでVSIOで保護することになったのだと説明を加える。

「保護、だってぇ?」

 とてもじゃないが、信じられる話ではない。

 VSIOを証明するバッヂを見せられたが、どうして信じることができるだろうか?

 外に行列している人々をとっても丁寧なお願いで黙らせ、ユン・カーシュの魂を足蹴にし、リアドルを倒してしまった男達の話など。

 ジーンは隠すことなく不信を表情に現した。

 しかし、シャリースはあまり気に止めていないようだった。柔らかな口調と物腰で、否と言わせぬ雰囲気を醸し出す。

「一緒に来ていただけますね、ゴッド・ジーン」

 一階と二階と距離が離れているというのに、目の前で詰め寄られているような圧迫感があった。


―― 分岐点を間違えちゃあいけないよ ――


 ふいに、オババ様に言われた言葉は思い浮かんだ。


―― お前は何が大事か見極めて選び取らなくてはいけないよ ――


 ジーンは彼らに保護されるつもりなど全くなかったし、何よりもやらなくてはならないことがある――オババ様はジーンに重大な役目があると言っていた。

 そのために今が選ぶべき大事な分岐点のひとつような気がした。いや、占師としてのカンが間違いなくこれが分岐点のひとつだと告げている。どうするかを慎重に選ばなくてはならない。

 が。

「早くしろ、小僧」

 アレッドに投げ捨てるように言われ、ジーンは選択肢のひとつをキッパリと捨てた。

 さっきから、エラそうにふんぞりかえっている赤毛の男が気に食わないのだ。ジーンが嫌がるとわかっていて、わざと「小僧」と呼ぶ、その根性の悪さにもムカついた。

 煙草を親指と中指で挟んで吸い、吸い終わるとすぐさま投げ捨てるマナーの悪さにも腹が立った。煙草を投げ捨てる先が、水の入った花瓶なのにも、どうしようもなく腹が立った。

 床に捨てないだけマシなのかもしれないが、この店は扉だけでなく床から食器からなにもかも、リアドルが大事にしているものなのだ。

 分岐点を慎重に選ばねばならないのだと理性でわかっていても、ムクムクと沸き上がってくる反発心を抑えることがジーンにはできなかった。

「イ・ヤ・だ・ね」

 鼻にシワを寄せて、歯と歯の間で言葉を擦り潰すように区切りながら、ジーンは選んだ選択肢を口にした。

 シャリースは軽く目をみはったが、すぐに笑みを浮かべる。

「となると不本意ですが、とっても丁寧なお願いをすることになります」

 保護対象に『とっても丁寧なお願い』をすることに、シャリースはなんのためらいもないようだった。

 金持ちに雇われたプロや、国の利益を最優先し手段を選ばない軍人よりも始末が悪い――ろくでもない、ろくでもない奴等だ――ジーンは思った。

 慎重に選ぶまでもなかった。

(絶対に逃げてやる)

 堅く誓う。

 ジーンはローブの上から、胸の水晶をぎゅっと握った。

 意識の戻っていないリアドルを残して逃げるのは心配だったが、シャリースがジーンに『とっても丁寧なお願い』をするために、リアドルを人質に取るなんてことをしないとは限らない。そんなことをされては、逃げようもなくなってしまう。

 彼らの目的はジーンなのだから、ジーンが逃げれば追ってくるだろう。ジーンが逃げるのはリアドルから、この危険な人間達を離すことにもなる。

 シャリースから視線を逸らさず、すばやく逃げる算段をする。リアドルの店の構造はよくわかっていた。

 出入口はアレッド達の立つ玄関と、厨房にある裏口の2つだけ。玄関はもちろん使えない。逃げ足には自信があるが、二階から裏口に駆け降りるのはリスクが高すぎる。彼らから逃げきるには、二階から逃げ出すしかない。

 二階の一番端の部屋の窓から、隣の家の屋根に降りることができる。そのまま、屋根づたいに逃げ、適当なところで降りてバザールに紛れ込んでしまえば、逃げきることができるはずだ。このローブを脱いで逃げ出せれば――の話だが。

 ローブを着たままでは走りにくいし、何よりも水晶に直接触ることができない。水晶に直接触る、それが一番重要だった。

 脱ぐのに少しでも手間取れば、階段を駆け昇ってきた彼らに捕まってしまう可能性がある。

 ローブを脱ぐ数秒の時間、そして逃げ出すタイミングを手に入れなくてはならない。

 ジーンはフゥと小さく息を吐いた。そしてゆっくりと息を吸い込み、1度瞼を伏せてから、落ち着いた声で聞いた。

「だいたいさぁ、どうして、ボクがゴッド・ジーンだと思うわけ?」

「ユン・カーシュ族の占者が、アレキサンドライトの瞳をしているというのは有名な話です。ゴッド・ジーンはユン・カーシュ族だという調べはついています。あなたの瞳がなによりの証拠じゃありませんか」

 とても不思議でキレイな瞳をしている――とシャリースは付け加えた。

 ジーンは手摺りを握り締めていた両手を、不自然に見えないようにゆっくりと離す。

「お世辞をどーも」

「おや、本気で言ってるんですけどね」

 ジーンはフンと鼻を鳴らした。

「保護なんて言ってるけど、VISOで働かせるつもりなんじゃないの? ボクはどこの専属にもならないよ」

「ゴッド・ジーンに専属になってもらえば、仕事もはかどるかもしれませんが、我々は保護をしにきただけで、それ以上でもそれ以下でもありませんよ」

「どうだか!」

 黙って戸口に背を預けて、なりゆきを眺めていたアレッドは口端を皮肉げにつり上げた。

「小僧」

「小僧って言うなっ」

「ゴッド(神)と名乗るだけあって、自分の能力に相当自信があるみたいだな」

「ゴッドなんてボクが名乗ってるわけじゃない。勝手にそう呼ぶ奴がいるってだけだ」

「偉そうな名前を騙るやつに限って能力が低いもんだ。どうせ、先見プロフェットも出来なけりゃ、占いも当たりゃしないんだろ」

「ボクの占術が外れたことなんか1度もないね」

 ジーンは軽く顎を上げて半眼でアレッドを見下ろし、挑発的に言葉を吐く。そして、きゅっと眉根を寄せた。

 VISOの赤毛の男にまつわる不穏な噂を思い出したのだ。

「……アンタの噂を聞いたことがあるよ。VISOの赤毛の男って言ったら有名だもんな。傍若無人な危険人物。村をひとつ、一人で破壊したことがあるって聞いたこともある。凶眼の持ち主なんて、胡散臭い噂もあるね」

 緊張で乾いた唇をペロリと舐める。

「そして、親殺し――」

 アレッドの口角がピクリと上に動いたが、言葉は発せられなかった。

 沈黙が生まれた。

 長い長い沈黙だ。

 沈黙がコールタールでできてるのではないかと思うほど、重い沈黙だった。

 その重苦しい沈黙を水のようにサラリと流し、シャリースはホウと感心したように溜息を吐く。

「すごいですね」

「な、なにがだよ」

「噂ってものは尾ひれがついていたり、大袈裟になっていたりするものなのに、これほど正確な噂というのもすごいものです」

 シャリースがそう言う隣で、アレッドはなにも言わない。肯定も否定もしなかった。アレッドを怒らせ隙をつくるために、ジーンは噂の悪い部分をワザと大げさに言ったのだが――。

「噂のほうが、事実よりも控え目かもしれませんね」

「本当かよ……」

 シーンは疑わしそうに、マジマジと赤毛の男を見下ろした。

 アレッドは小馬鹿にした口調で、サングラスに手をかける。

「噂のひとつを試してみるか? 小僧」

「小僧じゃないって言ってんだろっ! 噂が本当だってんなら見せてみな!」

 売り言葉に買い言葉で叫ぶ。

 凶眼がどういうものであるか、それと対峙するのがどれほど危険であるかを占者として誰よりも知っているにも関わらず、ジーンは意地になっていた。

「後悔すんなよ、小僧」

 そう言い置いて、アレッドはサングラスを外し、ジーンのアレキサンドライトの瞳を凝視した。

 燃えるように赤いクセ毛が揺れる。その下に、蒼みがかった黒い双眸があった。それは、鋭く険しい。

 目を逸らしたら負けだ、この男に馬鹿にされる――ただそれだけを思い、アレッドの瞳を見つめ返した。

 ドクンと大きく心臓が波打った。

 呼吸3回分の沈黙が生まれた。

 4回目の呼吸を吐いた後、ジーンが拍子ぬけしたように言った。

「なんにもないじゃん。赤くもないし」

 凶眼は赤いとオババ様から聞いたことがある。だが、アレッドの瞳の色は黒だった。剣のある目に睨まれれば震え上がる人間もいるだろうが、凶眼と恐れるほどのこともない。

「噂ほどじゃないのは、アンタじゃん」

 憎まれ口を叩く。けれど自分の意志とは関係なく、声が震えていて、ジーンは顔を歪めた。

 シャリースが口笛を吹いた。

「たいしたものですね」

「図太い小僧だ」

 アレッドは再びサングラスをかけ瞳を隠し、嬉しげにニヤリと笑った。

 ――瞬間、大きな音を立てて、灰色の髪の男と小柄な子供が転がり込むように入ってきた。続けざまに、黒い制服を着た警官がなだれ込んでくる。

「なにごとですか!」

 シャリースが鋭く声を発した。

 ジーンは弾かれるように行動を起こした。

 何が外で起こっているのかわからなかったが、アレッドとシャリースは転がり込んできた人間達に気を取られている。逃げる絶好のチャンスだった。

 ローブを階下の男達の上に、脱ぎ捨て走り出す。

 胸元で大きく揺れるネックレスの水晶玉をひとつ、指で弾いた。糸で繋がれているというのに、不思議なことにジーンの指に弾かれた水晶玉だけが外れ、宙に浮く。それにジーンが短く息を吹きかけると、弧を描くようにして階下のリアドルの前に落ち光を放った。

(これでリアドルは大丈夫)

 光がリアドルを包むのを目の端で確認しながら、ジーンは二階の一番端の部屋に向かった。

「待て、小僧!」

「待ちなさい!」

 アレッドとシャリースは、ジーンの脱ぎ捨てたローブを振り払い、すぐさま追ってきた。その後を、灰色の髪の男と小柄な子供も続く。

 ジーンは廊下の突き当たりまで走ると直角に曲がり、部屋に飛び込んだ。すぐさま窓を開け放ち、窓枠に足をかけた。

 クッと息を飲む。

 隣接しているとは言え、二階から隣の屋根には落差が2メートルほどある。三角屋根のてっぺんに上手く着地しなければ、そのまま滑り落ちてしまう恐れもあった。

 少しだけ躊躇したがジーンは両足を窓枠に乗せ、トンと弾みをつけて飛び降りた。

 アレキサンドライトの瞳が陽光に照らされ、紫赤から濃い緑へと変化する。ジーンは猫のように背を丸めて着地をすると、すぐさま立ち上がり走り出した。

 ヨロめきながらもバランスをなんとか保つ。飛び降りた衝撃で足首までしびれていたが、しびれが取れるのを待つ余裕はまるでなかった。

「小僧!」

 アレッドの怒声が聞こえた。

 ジーンは振り返らずに屋根のてっぺんを走った。そんなに離れていない後ろに人の気配を感じる。屋根から滑り落ちないように気を使いながら走っていては、すぐに追いつかれてしまうだろう。

 ジーンは覚悟を決めて走る速度をアップした。

 ひとつ、ふたつ、みっつと、家の屋根を飛び移り、走る。

 ジーンは胸のネックレスの水晶玉をひとつ弾いた。

 水晶玉は弾かれるままに宙に浮く。ジーンはそれを片手で掴むと、口もとに寄せ、ふっと息を吹きかけた。

 息を吹きかけられた水晶は、細い光を幾筋も放ち、蚕が繭をつくるようにジーンの身体を包みこんでいく。四つ目の家から五つ目の家に移った瞬間に、光は砕かれたかのように散り、ジーンの姿は消えていた。

 すぐ後ろで、いままさにジーンの腕を掴もうとしていたシャリースは、空ぶった手をそのまま額に当てた。

「無詠唱術っ!?」

 同様に捕まえようとして空ぶったアレッドも険しく眉をひそめ唸った。

 飛びかかって捕まえようとしたルキアは、ジーンの術で発した光に驚きアレッドの腰に抱きつく。

「危ねぇ、バカが!」

 アレッドは罵声を浴びせながらも、ルキアの身体を受け止めた。

「何が起きてんだ?」

 数歩遅れておいついたダグラスに、シャリースはいくぶん興奮気味に説明をした。

「ネックレスから、水晶をひとつ放ちましたよね。あれに精霊術の詠唱が仕込まれてたんです。彼が息を吹きかけることによって術が完了するように。さっき店のご主人にも放ってましたから、ネックレスの水晶すべてに精霊詠唱が仕込まれているとみて間違いないでしょう。――なんて高度な術を」

 ダグラスは大きな体に似合わぬ軽妙な動きでバランスを取りながら、アレッドとルキアがもつれて落ちないように後ろから支えた。

「お前さんがカードに仕込んでいるようなヤツか」

「ええ。ですが、私が使えるのは、彼のような高度な術じゃありません。先見プロフェットの能力に、高度な精霊術。ヴァリアント探知機じゃなくっても、あれなら狙われないわけがない」

「追えないか?」

「あれだけ完璧に隠形されてしまっては、私の能力では無理です。ですが――」

 言葉の意味を悟り、アレッドとダグラスは勢いよくルキアを見た――人間には無理でも、特殊なイキモノである子供の眼ならば追えるかもしれないと。

「ルキア、あなたの眼で追えませんか」

 ルキアはシャリースに短く答えた。

「無理」

「なぜ?」

「消えちゃったもん」

 ていうか落ちたって感じなんだけど――この言葉は飲み込む。

 でも気配は近くでするよ――と続けようとした言葉は、アレッドに封じられる。ゲンコツをくらったのだ。

「テメェ、買い食いをしやがったな!」

 アレッドのシャツが、ベタついていた。ルキアが抱きついた部分だ。

 ルキアはトゥパンの黒蜜のついた手を後ろに隠し、動揺してどもる。

「し、してないよ、買い食いなんかしてない。オレが買ったんじゃないもん」

「ダグ、テメェか!」

 勝手に買い食いをしないようにルキアは言いつけられているが、そのルキアに買い与えないようにダグラスもきつく言い渡されているのだ。

「いや、その、まぁ、なんだな。その話は後でするってことで」

 ダグラスは肩の高さで降参のポーズを取っていた両手の親指で、肩の後ろを指し示す。

「コレ、どうする?」

 青い子馬亭の2階の窓から、ダグラスの数メートル後ろまでの屋根は、黒い制服を着たIPOの警官たちでビッチリと埋まっていた。

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