(競作)返信
競作第二弾始動です!
今回のテーマは『ツイッター』そして『ホラー』です。
楽しんでいただければ幸いです!
「なんだよこれ……」
家の鍵を開け部屋に入った瞬間、真は驚愕の余り、手から仕事カバンを滑り落としてしまう。
中身のほとんどが床に散乱したタンス、ぐちゃぐちゃに引っ掻き回された戸棚や本棚、見慣れたはずの自宅は目を覆いたくなるほど徹底的に荒らされていた。
「これってもしかして空き巣か? ……くそっ!!」
ようやく今、目の前で起こった事態を真は飲み込む。
「盗られて困るものは置いてないけど……とりあえず確認しないと!」
真は荒らされた部屋の中に踏み入り、何が盗られたのかを確認する。
幸いなことに通帳とハンコは、ここからそれほど離れていない実家に預けてるので、そちらに関しては心配ない。
「ということは……あっ! シルバーのアクセサリー全部持ってかれてる!! クソッ、時計も無くなってる!」
ゲームやアクセサリーが入ってる戸棚を確認するといくつか無くなってるものがあった。それだけで真はモチベーションが下がり、一気にやる気を失くす。
「アクセサリー、時計、ゲームソフト……くそっ! 小物で売れそうなのばかり持ってきやがって!」
特になくなって困るようなものでないが、それでも初任給で買った時計を盗まれたことや、徹底的に部屋を荒らされたことは真にとっては大きな精神的ダメージとなった。
そんな精神的疲労と仕事から帰ってきたばかりという肉体的疲労も相まって、真はがっくりと肩を落とし、床にしゃがみ込む。
「はぁ~、なんで俺がこんな目に……」
うなだれる真。
「何はともあれ、とりあえず警察に電話しないと……」
ブツブツと独り言を呟きながら真は携帯電話を取りだす。
と、そこで真はあることを思いつく。
「待てよ……せっかくだしここは今の現状をツイッターで呟いてみるか?」
そんなことをしてる場合じゃないと思いつつも、日常生活ではなかなか経験することのない事態に陥り、妙なテンションになっているせいもあり、真はこの事態をツイッターに投稿することにする。
「部屋全体が映るように……と」
携帯電話のカメラを起動し、荒らされて混沌と化した自室を撮影する。
「よし、後はこれをアップすれば……」
携帯電話のツイッターアプリを起動し、写真を添付してツイートを打ち込む。
『家に帰ってきたら空き巣に入られてた!?』
ツイート内容を確認し送信する。
「よっし、と。さて、それじゃあ今度こそ警察に電話しないと……」
携帯電話のダイヤルボタンを110と押し、いざ掛けようと思ったところで携帯電話が激しく振動する。
「うおっ、と。もう返信来たのか……」
一度110の表示がされているディスプレイを閉じ、再びツイッターにログインする。
@つながりをクリックすると、よくタイムライン上で絡むフォロワーから早速返信が送られてきていた。
『あらら~窓を開けっ放しにでもしてたの?』
返信を読み、真は苦笑いを浮かべる。
「こいつ……人事だと思ってノリ軽いな~。つか、そんなわけあるかよ。窓は朝、ちゃんと確認したし」
一応窓の鍵を見るが、やはりちゃんと鍵は掛かっている。
『窓もちゃんと鍵掛かってるし、ドアだってちゃんと自分で鍵を開けて入ってきたよ!』
(……ん?)
そこまで打ったところで真の中になんとも言えない違和感が沸き起こる。
何か重要なことを見落としてるような……そんな気持ちにさせられる。
『ピッ』
「あっ!」
考え事をしていたせいで、誤って送信ボタンを押してしまう。
「……、ま、まぁ、文体としては成り立ってるしいいか。それより、なんだろう? なんか見落としてるような……」
先ほど感じた違和感を突き止めるべく、真は思考をフル回転させる。
窓の鍵は閉まってる。ドアの鍵も自分で開けたのだから、間違いなく閉まっていた筈だ。
「防犯的には問題ないと思うんだけど。誰も入ってこれるはず、……!?」
そこで真は先ほど感じた違和感の正体に気付く。
(誰も入ってこれない……ということは、誰も出ていけない……)
頭の中で最悪の結末が予想される。
その瞬間、携帯電話が再び激しく振るえ、返信が来たことを告げる。
真は思わずビクッとなる。絶妙なタイミングに真は心臓が口から飛び出しそうになる。
(誰も入ってこれない……誰も出ていけない……)
そんなことを思いながら真は機械的な動きで、ツイッターの返信を見る。
(だったら……)
そこには今、正に真が辿り着いた最悪の答えが鏡に反射したかのように、数バイトの文字列として携帯電話のディスプレイに映し出されていた。
『だったら犯人はどうやって部屋から出たんだ?』
その瞬間、真の背中を大きな影が覆う……。
真は反射的に後ろを振り返った……。
そこには…………。
『ブゥゥゥッ!』
床に転がる血まみれの携帯電話が激しく振動する。
その携帯を、同じく血まみれの手が拾い上げ、ピッピッと何か操作をする。
『@つながり:おい!この部屋の写真、押入れの中に誰か映ってんぞ!! 早く逃げろ!』
………………
…………
……。
家の鍵を開け、重い足取りで一は家の中に入る。
今日職場で、一昨日部屋に潜んでいた強盗に住人の男が殺されたというニュースを見て、一はすぐにこの殺された男が一昨日、自分が返信を送った男だと気付いた。
「あの写真に俺がもっと早く気付いてればなぁ……」
一昨日、たまたまタイムライン上にリツイートされてきた空き巣に入られたという写真付きのツイートを見つけ、なんとなく興味本位で一は写真を開けてしまった。
そして一は見つけてしまったのだ。
荒らされた部屋の一角、少し開かれた押入れの中からギョロギョロとこちらを見ている不気味な二つの目を……。
「まぁ、俺のフォロワーでもないし、俺のせいでもないんだけど……」
今日のニュースを見て警察にそのことを言おうかとも思ったが、恐らく警察もそのくらいはわかってるだろうし……。
それに何より、面倒事にあまり関わりたくはなかった。
「映ってるっても目と輪郭くらいだし……言ってもしょうがないよな」
自分自身にもっともらしい言い訳をしながら、それでもどこかやるせない気持ちで、一は部屋の明かり点ける。
「!? なっ……!!」
一の目に飛び込んできたもの……それは一昨日、ツイッターで見た写真と同じように、めちゃくちゃに荒らされた自分の部屋だった。
「そんな……これって!?」
その瞬間、一の頭に今日のニュースの一文が蘇ってくる。
『なお、現在も犯人は逃走中です。また昨日も同じような強盗殺人事件が起こっており……』
ガクガクと膝が震える。すると一の携帯がブゥゥッ! と激しく振動する。
このバイブレーションはそう、ツイッターに返信が来たときのものだ……。
ガクガクと震えながら一は携帯を取り出し、ツイッターの@つながりをクリックする。
『@つながり:君も僕の顔見ちゃったよね? だから今度は君の部屋と君を荒らしに来たよ!(笑 僕の顔を見ちゃった奴は全員・全員・全員・全員・全員!!! 』
返信のメッセージを見て固まる一に、黒い影が覆いかぶさった……。
というわけで競作第二段です! 今回はホラー色を少し強くしてみました。如何だったでしょうか? 段々と暑い季節がやってきたこの時期に、少しでも薄ら寒さを感じていただけたのなら幸いです。