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3-1.幼馴染は・・・

講義が一つ休講になり、手持無沙汰になった滝沢康祐たきざわこうすけは学食に向かった。

大抵同じテーブルにサークルの誰かが場所をとっていて、みんながふらりと立ち寄れる場所になっている。

その日も何人かの同級生と後輩がスナックをつまみながらだべっていた。

康祐は後輩たちが座っているところに高橋有希たかはしゆきがいることを横目で確認しつつ、同級生の間に割り込んだ。


「あれ、康祐がサボるの珍しいな。」

「サボりじゃない、休講だよ。」

「やっぱなぁ。練習はすぐサボるけど、講義は妙に真面目だもんな。」

「サボってる暇ないよ、俺は実習が多いからさ。」


康祐は工学部だ。このサークルは文系が人数の殆どを占めているので、講義数が康祐より少ない者も多い。


「そんなこと言ってさぁ。」


と、向かいの仲間がからかうように言う。


「例の乾ちゃんのことになると周りのこと全部見えなくなるもんな。」


康祐は眉間に皺を寄せてムッとした。


「平日は講義が忙しいって言っても、土日の俺たちの集まりには来るっていいながらすぐ行けなくなったっていうもんな。」

「理由は果那ちゃんだけじゃないよ。」

「嫌味を言いたいんじゃなくてさ。」


高校からの親友、渡辺洋わたなべひろしが笑いながら言った。


「お前がいるのといないのとじゃ、ほら、あそこの高橋たち2年と1年の女子のノリが違うんだよね。」

「そうそう、悔しいけど康祐のテニス、上手いもんな。」

「背が少し高めで顔はちょっといいくらいだけどな。」

「それにさ、高橋がお前に気があることくらい分ってるんだろ?いい加減、幼馴染の乾ちゃんやめてさ、高橋にしろよ。文句ないじゃん、あんな可愛い子。」


康祐は大げさに耳を塞いで見せた。


「俺、お前らに果那ちゃんのことも何も言ってないけど。」


康祐の言葉にみんな爆笑した。


「康祐、マジでそんなこと言うわけ?乾ちゃんがいた頃も今も、お前の中心はいつも乾ちゃんだろ。中村先輩たちが乾ちゃんのこと狙っていたのに、お前あからさまにガードしてただろ。」

「そうだよ、誰が見てもお前が乾ちゃんのこと好きでしょうがないのは明らかだよ。気づいてないのは、幼馴染という最悪の呪縛にハマっているご当人二人だけ。」

「康祐さ、もったいないぜ。この大学四年間恋愛全くしない気かよ?」


渡辺洋も康祐の悩める思いを知っていながら、素知らぬ顔で仲間と一緒に康祐をからかった。


「康祐ってまさかドウテイだったりして?」


仲間が興味本位に聞く。


「高校の時に彼女いたよ。」


康祐は洋をジロリと睨みながらふて腐れて答える。


「うわ、乾ちゃんが好きでもやることやってるんだ。」

「お前ら、俺にどうしろっていうんだよ!」

「そりゃ、幼馴染なんてやめろって言うよ。」

「そうそう、わかってるんだろ康祐だって。幼馴染っていうのは一番近くて一番遠い存在なんだよ。」


その言葉に康祐は渋い顔で頷いた。

十分解ってるよ、それは。

だけど俺はそれを乗り越えていきたいんだ。


果那への気持ちを表面では否定しながらも、みんなの言葉に落ち込んで俯く康祐。

洋は少し心配になって周りに目配せしたが、全く気が付かない。


「そしたらいいじゃん、高校の時みたいに乾ちゃんに告れるまで高橋とつきあえば。」

「無理。」

「私もそんなの無理です!」


話が聞こえたらしい有希が割って入った。


「私、もしつきあったら、滝沢先輩を絶対誰にも渡しません。」


にっこり笑って冗談のように有希は言ってのけた。

その場にいた全員が驚いたが、すぐに囃し立て、有希を康祐の隣に座らせた。


「お前も何考えてるんだよ。」


康祐が小声で言うと


「私は何も変わらないって言ったでしょ。」


康祐に余裕の笑顔を向ける。


「なんだよ康祐コソコソと。さてはこないだ二人で買い物行ったときに仲良くなっていたんじゃないの?カッコつけて幼馴染を諦めない振りしてるだけとか。」

「私が好きですって言っただけですよね。」


康祐も、周りも一瞬固まった。


「お前、まっすぐすぎるな。」


有希の同期が呆れたように言ったが、有希は構わず言葉を続けた。


「でも、すごいタイミングでその幼馴染さんとやらに見られたんです。だから、滝沢先輩焦ってました。」


一同は再びフリーズし、康祐は頭を抱えた。


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