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1-2.行方不明のキス

桜の季節にはまだ少し早い数年前の四月。

高校三年生だった滝沢康祐たきざわこうすけは塾の帰り、酔っ払ったサラリーマンや大学生が多くなってきた時間帯の駅のホームに降り立った。


康祐は冷たい風に首をすくませ、足早に改札へ向かった。

すると改札の先で大きな声を上げている女の子が目に入った。

康祐は唖然として立ち止まった。


この寒いのに薄いワンピース姿で足を大きく開き、上着をブンブン振り回しながら自分の名前を呼んでいるのは乾果那いぬいかなだった。

康祐は大声を抑えようと慌てて駆け寄り、口を塞いだ。


「ふごごご、はーなーせーっ」

「いてっ」


指を噛まれて手をひっこめると、果那はまた騒ぎ出した。

通行人が好奇と軽蔑の眼差しを向けている。


「果那ちゃん、すごい酒臭いけど?!」

「いいじゃーん、新歓コンパだもん。」

「まだ酒飲めない年だよね。」

「いーのいーの、康祐だってたまには呑むでしょう。」


大きな声で話し続ける果那の口を再び塞ぎ、半ば引きずるように家路に向かった。

駅前の交番まで声が届きそうで怖かった。


勘弁してくれよ、俺は学校の制服なんだから。


駅からいつもの倍の時間かかってようやく家の近所まで戻ってきた。

千鳥足の果那は支えていないと危なっかしい程だった。

よく駅まで無事に帰ってきたものだと呆れてしまった。

きっと電車で先輩か友達と一緒だったのだろう。

果那はさっきまでうるさく呑み会での出来事を支離滅裂に話していたが、いつの間にか黙っている。


「果那ちゃん、家まであとちょいだよ。」

「き、気持ち悪。」

「え、ちょ、ちょい待って!」


二人はちょうど公園の真横を通っていたので、康祐は果那を半ば担ぐように慌ててトイレへ向かった。


トイレに担ぎ込んだものの、しばらく座っていただけで落ち着いたらしい。

果那は半分寝ぼけたような状態でヨロヨロと立ち上がった。


「大丈夫?帰る?」

「もうちょっと。」


果那は小さくつぶやいた。

康祐は仕方なく果那をベンチに座らせて自動販売機で暖かいお茶を二本買った。


「はいよ、お茶。」


果那は黙ったままうつむいている。心なしか、少し震えているようだ。

果那の膝にお茶を置き、自分のダウンを脱いで肩にかけてやった。

康祐はそのまま果那の横顔を見つめながら黙ってお茶を飲んでいた。


「熱っ」


しばらくして果那は膝の上の熱さに気が付き、目が覚めたようにゆっくり自分の様子を確かめた。

ようやく、肩にかかる康祐のダウンに気づく。


「康祐くん、制服じゃー寒いよ。」

「果那ちゃんこそ、そんなピラピラの服じゃ風邪ひくよ。」


ダウンを外そうとする果那の手を止めて、康祐は包むようにしっかりダウンを掛け直した。


「酔い、覚めてきた?」

「ん?ちょうど良くなってきた。」


ちょうど良くってなんだ。康祐が眉を寄せると、果那はいたずらっぽく口角を上げた。

酔っている果那を見るのは初めてのことで、一体何をしようとしているのかが読めない。

果那はお茶をくっと一口飲むと立ち上がり、おもむろに康祐の膝に横座りになった。


「か、果那ちゃん?!」


康祐が驚いて動けずにいると、膝の上で再びお茶を酒のように煽って飲む果那。


「あのさ、前に誰かに聞いたんだけど。」


膝に座って康祐の首に腕を回す果那の顔がぐんと近づいてくる。

ひらひらしたレースの肩口から胸の膨らみが見えそうだ。

康祐は思わず息を止めた。



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