7-2.お盆休み
お盆休みになった。
康祐は卒論の研究も順調に進んでいたので、お盆休みをとる余裕ができた。
しかし、遅れている友人の手伝いを頼まれ、お盆休み真ん中の今日ようやくのんびり部屋でゴロゴロしている。
そこへ母親が二階に上がってくる足音が聞こえてきた。
嫌な予感がして、寝たふりをする。
「こうすけ~」
ノックすると同時にドアを開ける母親に内心文句をいいつつ、ベッドの上で狸寝入りの康祐。
「あらやだ、パンツから・・・」
康祐は慌てて起き上がってタオルケットを掴んだ。
「やっぱり起きていたのね。」
母親がクスクス笑っている。
「パンツからなんとかっていうからだろ!」
「別に、パンツからスネ毛いっぱいの足が出てるって言おうと思っただけよ。」
とぼける母親に康祐は溜息をついた。
「どうせ買い物に付き合えっていうんだろ。」
「分ってるんじゃない。じゃあ車で待ってるからね。」
康祐は諦めて、チェストから服を出した。
玄関に降りると母親がいた。車のエアコンを全開にして自分は涼しいところで待っていたようだ。
「じゃあ、荷物持ちよろしくね。」
「へいへい。」
郊外のショッピングセンターに行くと、まずは日用品売り場で様々なかさばる物をメモを見ながらわんさかカートに載せていき、それが済むと一度車に荷物を載せに戻った。
「次は食料品よ。」
「どんだけ買い物溜めこんでるんだよ。」
康祐は呆れて母親について行った。
車のトランクに日用品、後部座席のエアコンがかかる所に食料品をたんまり載せて、母親は上機嫌でハンドルを握っていた。
助手席ではアイスを食べている康祐。
ハーゲンダッツの棒アイスがお駄賃のつもりらしい。
少し渋滞する駅前の道を抜けてようやく家が近づいたとき、前を歩く小柄な子に母親は軽くクラクションを鳴らした。
振り返ったのは果那。
母親が車を停めて手招きをする。
「おばさんこんにちは!先日は、本当にご迷惑おかけしてすみませんでした。」
果那が丁寧に頭を下げる。
「いいのよ、しょっちゅうじゃ女の子として困るけどね。」
「あはは・・・」
果那が恐縮する。康祐に何度も介抱されているのを思い出しているのだろう。
「果那ちゃん、良かったら今日うちで夕飯一緒に食べない?」
「え?」
「大量に食料品買ったんだけど、考えてみたら今日はお父さんがゴルフでいないのよ。」
「・・・わかりました。今日はちょうど私一人なんで、お言葉に甘えてお邪魔します。」
母親は一体何を考えているのやら、康祐は何も言えずに二人のやり取りを聞いていた。
康祐たちが家に戻り大量の買い出し荷物をそれぞれの場所に仕舞い込み終わる頃、玄関チャイムが鳴った。
「はーい。」
康祐が玄関に出ると、果那がスイカを持って立っていた。
「これ、そこの青果屋さんで買ったんだけど。」
果那はぎこちなく笑って康祐にスイカを手渡した。
「あ、あぁ。わざわざどうも。」
果那につられて康祐も少し緊張してぎこちなくスイカを受け取った。
しばらく顔も合さず、距離を置こうと決めた二人がしょっちゅう顔を合わす状況が続いている。
二人とも、どういう態度でいたらいいのかわからなかった。
「かなちゃーん?手伝ってくれる?」
部屋から康祐の母親の声がした。
その声に弾かれるように、二人はリビングに入っていった。
「あら、スイカ持ってきてくれたの?ありがとう。じゃあ康祐に切ってもらって、果那ちゃんはこっちね。」
康祐は食卓にまな板を置いて、スイカを切ろうと転がる実をがっちり押さえた。
果那はエプロンを借りると、流しにおいてある食材からゴーヤを手に取った。
「ゴーヤを薄く切って塩ふっておいてくれる?」
料理をほとんど手伝ったことがない果那は、洗ったゴーヤを手に固まった。
「私ちょっと洗濯もの取り込んできちゃうから、すぐ戻るけどお願いね。」
母親はパタパタと忙しくキッチンを出て行ってしまった。
果那の背後ではサク、サク、とゆっくりとスイカを切る音が聞こえている。
ゴーヤのことを康祐に聞いてわかるのだろうか。
果那はそっと康祐の方を伺った。
「・・・・・あ。」
こっそり康祐の様子を見るつもりが、まともに目が合ってしまった。
康祐はスッと視線を逸らすと、再び最後のひときりスイカを切る。
康祐は切り終わったスイカをそのままに、包丁を持って果那の横に立った。
果那がこん棒のようにゴーヤを握っているのを見て口の端で笑う。
包丁を洗うと、果那の手からゴーヤを取った。
ゴーヤを縦半分にして、近くに置いてあったスプーンで種をくりぬく。
種を取ったゴーヤを薄くスライスした。
途中までスライスして、手を止める。
「わかった?」
康祐は果那に声をかけた。
「うん・・・康祐くん、料理するの?」
「いや、ちゃんと作ったことはないけど、手伝いは時々してる。」
「そうなんだ。」
果那は恥ずかしい思いでまだ種が残っている残りのゴーヤを手に取った。
康祐はボールに水をはったものと塩を果那のそばに置くと、ラップを手に再びスイカの方へ戻った。
二人は無言のままそれぞれの作業を続けた。
10分ほどして母親が戻ってきた。
「お待たせー。あら、なにこの空気。」
母親が二人が口も利かずに手持無沙汰にぼんやりしているのを不思議そうに見た。
「お喋りしないの?」
「・・・・」
二人はチラリと互いの表情を見る。
その様子に母親は笑った。
「振ったりフラれたりしたからってそんなに気にすることないでしょう。幼馴染でいる年数が長すぎるから関わらない方が難しいんじゃないの?うちにいるときくらい普通にしてなさい。」
「母さんっ余計なこと・・・」
「え、おばさん知って・・・」
二人は再びいたたまれない気持ちでうつむいたが、母親はカラカラと笑って何も気にすることなく二人に料理の手伝いをあれこれ指示した。




