7-1.自分の答え
「ねぇ、お母さん。」
「なに?」
休日、珍しく母親と一緒にキッチンに立つ果那。
果那は真剣にじゃがいもの皮をゆっくりと剥いていた。
「好きなだけじゃ上手くいかなかったり、好かれるのが嬉しいけど自分はどう思ってるのか自分ではわからないこととか、どうすればいいのかな。」
「いきなり何の話?」
母親は手を止めて果那を見た。
しかし果那はじゃがいもと格闘中。
「彼氏とうまくいかなかったってこと?」
「言わなくても分ってくれるはずっていうことはないのかな?お父さんとは?」
母親は再び玉葱をみじん切りし始めた。
「ねぇ、お父さんとは阿吽の呼吸って感じなの?」
「そうでもないわよ、多分お互い言わなくても分るだろうって思いながら半分意地張って知らない振りしてることも多いわ。」
「よくそれで嫌じゃないね。」
「嫌だけど、時々黙ってお酒作ってくれて一緒に飲んだりすると、それで嬉しくなったりするのよ。私もお返しにお弁当にちょっと工夫したりしてね。」
「へぇ・・・」
果那はなんだか不思議だった。
夫婦だから、言葉ではなくそういう小さいことで認め合えるのかと。
そして複雑だった。
両親の気持ちのやり取りを想像すると子供としては気恥ずかしい。
「それで、自分の気持ちがわからないって、彼氏とはどうなったのよ。」
「あぁ、気持ちがわからないはまた別の話で、暁さんとは同じこと繰り返してしまうから、良くないねって言われて・・・っていうと相手のせいみたいになるけど、お互いに思ったの。」
「ふぅん、諦めたのね。」
「そういう言い方、やだな。」
確かに、そうかもしれないけれど。
それでも果那はこの結果を受け入れるつもりでいる。
諦めてしまったんだとしても、それで正しかったとしても、自分で責任もって、次は同じことにならないように。
次は・・・・。
そこで果那の頭に浮かぶのは康祐の名前だ。
でも、相変わらず康祐に対しての自分の気持ちはなんなのかはわからない。
酔っぱらって介抱されてから顔を合わすこともないが。
そういえば、進路はどうなったんだろう。そろそろ大学院の入試が近いはずだ。
果那が母親と一緒に作った夕食、味付けは果那が担当したのだが、結果はどれも微妙だったようだ。
果那は一生懸命作ったのでおいしいと感じていたが、うまいうまいと食べていた父親は後でやたらと水を飲んでいた。
少々しょっぱかったらしい。
「お父さんごめんね、辛かった?」
「あ、あぁ大丈夫だよ。毎日じゃ病気になるかもしれないけど。」
フォローになってない。
「もう少し作れるようにならないと、彼ができてもお弁当も作れないわよ。」
笑いながら母親が言うと、父親の顔色が変わった。
「彼氏がいるのか。」
「いないよ。」
即答する。
「本当か。」
「・・・・康祐くんって言ったらどう思う?」
果那はぽろっとそんなことを言ってしまった自分に驚いたが、でも父親の反応を見て更に驚いた。
「康祐くん・・・・そうなのか。」
え?納得してる?
「ち、違うよ、冗談だよ!そういう関係じゃないからね。」
「そうか。」
父親のそうか、は違うニュアンスだ。
「だから!違うってば!!」
果那は出来る限りの身振り手振りで否定した。
何やってるんだろう、私。
同じころ、康祐も焦っていた。
夕食の後、両親と進路の話になっていた。
母親は就職でもいいと思っているが、父親の手前それをはっきりとは言えず、余計な事を言い出した。
「進路にも悩んでいるけれど、恋愛にも子供の頃から悩みっぱなしでどうにもならないみたいなのよね。」
「何言ってんだよ!」
「何だ、恋愛ってくだらん。」
「くだらないことないでしょう。もういい年なんだから彼女くらい出来なきゃそろそろ恥ずかしいわよ。」
「母さん何言ってんだよ、そんなの俺の勝手だろう。」
康祐の母親は首を振る。
「いいえ、相手がいるからこそ自分の勝手にはいかない問題でしょう。だからね、あなた。」
母親は父親に言った。
「康祐が自分で決めることができる自分の将来については、私は賛成するつもりです。」
「どういう意味だね。」
母親はそれ以上言わずに、康祐を見た。
「俺は・・・」




