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6-5.好きだから

開園時間から間もないので、周りには子供連れの家族が多い。

涼しいうちにお弁当を作ってやってきたというところだろう。

さとるが券売機でチケットを買う。

果那かなは自分の分のお金を渡した。


「このくらい気にしなくていいのに。」


暁はそう言いながら、苦笑して果那からお金を受け取る。


「果那はこういうところが頑固だからな。」

「しっかりしてるって言ってほしいなぁ。」


二人は笑いながら中に入っていった。


木陰を選びながら少し起伏のある道をゆっくり歩きながら動物を眺めた。

最初は鳥類が続く。

果那は白いフクロウの顔がクルクル動くのを見て笑った。

暁は放し飼いにされているクジャクに威嚇されて走って逃げた。

シマウマやキリン、ペリカンが一緒にいる広いエリアでは、暁はまたペリカンに嘴をカカカっと鳴らされて驚いている。


「暁さん、鳥に嫌われてるね。」


果那が面白そうに言うと、暁は顔をしかめた。


「こんなこと初めてだよ。」

「鳥に嫌われるようなにおいでもするんじゃない?」

「えー?」


二人は売店でソフトクリームを買うと、広場のベンチに腰を下ろした。


「今日はここに来れて良かったかも、久しぶりにのんびりしてる気分。」

「そんなに忙しかったか?」

「ううん、仕事はそうでもないけど、気分がね。」


果那はコーンを齧りながらゆっくり答えた。


「今はね、だいぶ通勤にも慣れたし、たまに残業になっても帰ってすぐに寝れば復活してるの。」

「そっか。」

「でも、やっぱり初めは本当に満員電車の通勤で遠くてグッタリだったから、暁さんに連絡もしないで、ご飯も食べないでバタンキューだった。そしたらすごく心配してくれたでしょう。」

「果那は体力ないような気がしてたからね。」


暁は優しい表情で果那を見つめた。

果那は少し困った顔をして笑った。


「実はね、それが辛かったの。」


果那は言葉を選びながらゆっくり話を始めた。


「もう少し会社に近いところで一緒に暮らそうって言ってくれたのは、その気持ちは前にも言ったけど本当に嬉しかった。だけど私の中では通勤はそのうち慣れると思っていたし、何より・・・その、ちゃんとする前に一緒に暮らすっていうのはしたくなかったの。」


暁は少し怪訝な顔をした。


「今は同棲しても驚かれなくなってきた世の中の感じがあるけど、私は家族と過ごしたいと思ってて。お父さんが出張でいないことも多いから、なかなか会えないし。」

「それに、暁さんとは同じ会社だからこそ、きちんとしていたかったの。誰にも恥ずかしくないように。」

「恥ずかしいことはないだろう。」

「でも、多分、良くは言われないでしょう?」

「それに、実際、暁さんは自分のお家を空き家にするわけにはいかない状態なんだし、まるこちゃんだっているんだから。」


まるこというのは飼い猫の名前だ。


「まるこが一番ネックだったな、ペット飼えるアパートなんて滅多にないからな。」


暁はベンチに座り直して、伸びをした。


「それにしても、果那は想像以上にしっかりしてるんだな。分ってなかったよ。」

「そんなこと、ないけど。」

「そうやって、しっかりした考えを持ってる上に、俺には元気そうな顔を見せていて、俺は逆に不安になったんだ。」

「え?」

「最初果那がバテテいた時、絶対に俺を頼ってきてくれると思い込んでいた。だけど果那は一度も自分から迎えに来てほしいとか、朝起こしてほしいとか言わなかった。そのうちに元気だって言いだして。」

「俺も全部さらけ出していっちゃうと、まるこのこととか家とか全部放り出してでも、果那をすぐ傍に感じていたかった。距離が全然縮まらない気がしていて怖くて仕方なかった。果那には他に頼る相手がいるんじゃないかって考えたりして、凄く情けない男になってた。果那も分ってたろ?俺のメールや電話がちょっと神経質になっていたから。」


果那は小さく頷いた。

そして、一瞬康祐のことが浮かんだ。


「でも、自分でも止められなかった。怖かった。こんなことしてたら余計に果那は離れていくのは頭では分かっているのに。」


サァっと広場に風が流れた。

心地よい木陰を作っている木が枝を揺らして音を立てる。

二人はそのまま音を聞きながら黙って座っていた。

広場にボールを持った男の子が走ってやってきた。

散策していたクジャクたちが慌てて走って散っていく。

二人はその姿に小さく笑った。

それをきっかけに再び暁が話し出す。


「前に一度別れようかと思った時に、お互い自分のことちゃんと相手に見せられなかったことがダメなのは分っていたのに、結局また同じこと繰り返しちゃったな・・・ホントはただ好きだっていう一言に尽きるんだけど、果那のこと想うより先に、俺は自分のこと考えてたんだ、きっと。」


暁だけが悪いんじゃないというように、果那は首を振った。


「私もだめだったの。自分を守ろうって考えてた。ちゃんと仕事しているんだから、暁さんは大人だしそのうち分ってくれるって勝手に思ってた。私から好きって全然言わずに。」

「変なところが似てるのかもな、俺たち。」


暁は体を果那の方へ向けた。


「今日ここに来たのは、最初のデートも動物園だったなと思って。」


暁はそこで一呼吸置いた。


「果那。」

「ん。」


果那も暁を見る。


「果那のことはやっぱり好きだから、最後のデートも嫌な思い出にならない場所にしたかったんだ。」

「え・・・・」

「それがいいだろ。」

「また同じ失敗して、互いに前に進めなくなるのはもっと辛いから。」


暁は微笑んでみせた。


「まだ半分も回ってないから、次を見に行こう。」


そういって暁は果那の手をとって立ち上がった。

果那はその手をぎゅっと力を込めて握り返した。


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