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6-4.おかしいことは分ってるから

「ちゃんと聞いてもらいたい話があるの。」


などという言葉を言ってしまったら、相手は気になって落ち着かないのが真理だろう。

当然、さとるは翌朝早くからメールで「いつ会える?」と聞いてきた。


果那は昨夜、日付が変わるころ家に戻り、風呂に入って寝たのは2時だった。

気分も頭も体も疲れが残っていて、正直まだ寝ていたかったが仕方がない。

自分で撒いた種だ。

果那は目覚まし時計に目をやって、メールを打った。


『9時くらいなら家を出られます』


朝からどこで話をするのだろう。

暁の車の中か。

想像しただけで息苦しい気持ちになる。

出来るだけ冷静に話ができるように、ランチをしながら外で会いたいのだが、どうにかならないだろうか。

案の定、返信には最寄駅まで車で迎えに来るとあった。

どこか行先を考えておかないと。

果那は自分の頬を数回ペチペチと叩いて気合を入れるようにして、ベッドから降りた。


シャワーを浴びて髪をタオルで乾かしながらリビングに顔を出すと、母親がテーブルに着くように言った。


「ごめん、私9時には出なきゃいけないんだけど。」

「果那、あなた昨夜は康祐くんで今日は暁さんとデート?」

「一体何を考えているの?年頃の子が酔っぱらって真夜中の公園で。いくら幼馴染だからって、おかしいでしょう。」


捲し立てるように言われた果那は、驚いて母親の方を向いた。


「康祐くんは悪くないし、関係ないよ。」

「理由はどうあれ、ご近所から見たらおかしな二人でしょう。それに真面な女の子なら醒まさなきゃならないほどお酒を呑んだりしないし、夜中に公園に行かずに目の前の家に帰ってくるでしょう。」


母親は怒っている。

どうやら朝からご近所さんに昨夜のことを告げ口されたらしい。


「職場の場所が遠くに移動になったから帰りが遅くなるとか、本当は遊び歩いているんじゃ・・・・」

「違うよ!そんなことしてない、仕事は本当に頑張ってるよ。」


母親は探るような目で果那を見つめた。

果那も仕事のことは譲れないと表情で訴える。

数十秒の沈黙の後、母親が溜息をついた。


「何だか信じきれないわ。彼のことだってほとんど話をしないし、康祐くんともどうなっているんだか。いくら幼馴染と言っても男の子なのよ。」


果那はその言葉を聞いて、落ち込んだ。

母親の口調は怒っているが、実際は悲しそうな表情を見ると、自分の行動が間違っていると認めざるを得ない。

いや、分っているんだ、自分のやっていることがおかしいのは。

分っているから、昨夜康祐のちょっとした言葉にも我慢できなくて大声を上げてしまったのだ。

だから、そもそもの原因をどうにかすべく、これから暁と話をしようとしているのだ。

それにしても、母親からまで注意されるほどとは、大分遅すぎる行動だったかもしれない。

無駄なことをしていたんだなとつくづく思った。


「お母さんにも心配かけてごめん。職場が変わるころからちょっと、色々とあって、あちこちに心配かけていたみたいなんだ。―――それで、今日ちゃんと話をするつもりなの。」


果那は肝心の内容が全然入っていない説明だなと思いつつ、言った。

母親は再び大きな溜息をついて肩をすくめた。


「あんまり続くようなら、お父さんにも話をするからね。」

「・・・・。」

「もう時間になるわよ。」


それが母親からの『話はとりあえず終了』の合図だった。


「ありがと。」


何にアリガトウなのか良く分らないが、果那はそう言いたくなった。

リビングを出て部屋に戻る。

急いで身支度を整えて、玄関を出た。

歩きながらはメールより電話の方が早い。

果那は暁の番号を呼び出した。

足早に駅に向かいながら、久しぶりに自分から電話するかも、と思った。



「おはよう。」

「おはよう、ごめんなさい、待たせて。」


助手席の窓をノックしてからドアを開けた。

暁は相変わらずの優しい顔で首を振る。

暁さんのこういう優しさはいいんだけど・・・。

さて、今からどうしようか。

果那は結局行く場所を考えていなかった。

いきなり重苦しい話はしたくないし。

考えあぐねているうちに、暁はハザードを消してサイドブレーキを解除すると静かに車をスタートさせた。


「動物園て、どう?」


暁が横顔のまま言った。

私はほんの少し考えて、頷いた。


「今日は少し涼しいし、いいかも。」


初夏の蒸し暑さが少し緩んでいる今日は、散歩するのには気持がよさそうだ。

そして、そっと暁の横顔を見つめる。

暁さんのことだから、きっとすごく考えて決めたんだろうな。

動物園までの1時間ほどの車内では、流しているラジオの話や、職場での笑える話などをしていた。

普通に、仲の良い二人だった。


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