1.悩み相談係
「はぁ。それで果那ちゃんはそいつを追いかけなかったのはなんでだと思うの。」
滝沢康祐は半ば呆れ顔で涙の跡が残る乾果那に言った。
康祐と果那は駅と家の間にあるカフェの窓側の席で向かい合っていた。
康祐がなんとなくご機嫌伺いのメールを果那に送ったところ、泣きながら呼び出しの電話がかかってきたのだ。
「そいつ、だなんて失礼なこと言わないで。」
「はいはい。なんだっけ、長谷川さんが背中を向けて行ってしまうのを泣く泣く見送ったわけですね。」
「康祐くん、また年上の私のこと馬鹿にしてるの。」
果那は泣きはらした赤い目で康祐を睨んだ。
「おお怖。そんな目で睨むと本当に怖いからやめてくれよ。俺もたまには果那ちゃんの笑ってる顔が見たいのに。」
「なにそれ。」
「俺はいつも困ったときに呼び出される役だから、果那ちゃんの泣いてる顔と困ってる顔と怒ってる顔しか見たことない。」
果那はぶすっとして黙っていた。
「今回は、いつもタダで相談に乗ってあげてる俺の厚い友情より、長谷川さんの愛の方があっけなく冷めてしまった。そして果那ちゃんも何も話せない相手より幼馴染の俺の方を選んだってわけだ。」
康祐はとぼけて言った。
「私は康祐くんなんて選んでない。」
果那は康祐のチーズケーキに手を伸ばして一口パクリと口に入れた。
そして康祐の質問に意識をめぐらす。
「どうして私は暁さんを追いかけなかったのか。やっぱり遠慮して追いかけられなかったのかな。追いかけても我儘になる気がして。」
「それから、遠慮してる意識はあまりなかったけど、考えてみれば康祐くんの方が話しやすいというか勝手なこと言える。」
「私は暁さんに声かけられたから、割といい人だから一緒にいただけ?でも・・・」
果那はカプチーノにスプーンを突っ込み、ぐるぐる回しながら独り言を呟いている。
康祐は少し切ない思いで果那を見ていた。
こうやって果那ちゃんが悩んでいるときに話を聞いてやり、少し前が見えてくるまで待っているのは慣れている。
しかし、今回は別れ話だとしても果那ちゃんの初めての恋人の話だ。
果那が相手との何か懐かしいことを思い出してやわらかい表情をしているのがわかると、胸がギュッと苦しくなった。
果那ちゃんは俺とのことは忘れてるのかな、それとも忘れたふりしているのかな。
康祐は残っているチーズケーキを口に入れて、ぼんやり窓の外に目をやった。




