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6-2.また泥酔

「すみません、いぬいという多分一人で来てる女性がいるんですが。」

乾果那いぬいかな様ですか。」

「そうです。体調が悪いみたいで呼ばれたんですけど。」


店員はそれを聞くとすぐに部屋へ案内してくれた。

扉を開けると、ソファ席で横になる果那が目に入った。

倒れているのかと店員が心配そうにしているので、寝ているだけだと安心させる。

酔っぱらって爆睡中の果那を背中に背負い、バッグを持って部屋を出た。

会計を済ませて店を出る。

駐車場に停めてあるブルーのセダンに向かって歩くと、中から中年女性が出てきて後部ドアを開けた。


「まぁ、果那ちゃんずいぶん飲んでるのねぇ。」


後部席に果那を寝かせると、途端に車内がアルコール臭くなった。


「窓開けて走らないとニオイで酔っぱらいそうだ。」

「じゃあ、帰るわよ。」


運転席の中年女性がシートベルトを締める。


「はいよ。」


助手席に座った若者もベルトを締めた。


「なんだって果那ちゃんは一人でカラオケで泥酔しちゃったのかしら。」

「知らないよ、ストレス溜まってたんじゃないの。」

「康祐が早くプロポーズしないからでしょう。」

「はい?母さん何言ってんの?つきあってなんかないし。」

「分ってるわよ。でもあんた幼馴染なんだから、普通に好きって言ったって伝わらないわよ。結婚しようって言わなきゃ。」

「それと果那ちゃんの泥酔と関係ないだろう。だいたいなんで俺が果那ちゃんのこと想ってるの知ってんだよ。」


母親は笑った。


「判らないわけがないでしょう。子供の頃から同じ人好きなまま成長していくのを見て、こっちが冷や冷やしているわよ、どうなっちゃうのか。」


康祐は耳が熱くなるのを感じた。

母親に全部お見通しだったのは顔から火が出るほど恥ずかしい。

しかも、その相手が現在泥酔して後ろで爆睡中だ。


「実はさ、最近ようやく告白したんだけど、フラれたんだよね。」

「あらそうなの。でも今日呼ばれたんでしょう?一回ぐらいで諦めないのよ。」

「・・・・・。」


同じことを果那の友達の鈴木香織すずきかおりに言われた気がする。

そんなことばかり言われたら、全然気持ちに区切りがつけられないではないか。

康祐は話題を変えた。


「今朝、父さんが話してた事なんだけど。」

「進路の話?」


康祐は頷いた。

康祐が紹介された会社に週2日ほどバイトに行き始めてから、気持ちがずいぶん変わっていた。


バイト先の二代目社長が、バイトなのに新規の仕事を取るための時間見積もりという仕事をやらせてくれている。

そして注文が取れた仕事が現場に流れていく様子、製品加工、検査、納品、そして代金が入るところまでの流れをその場その場に居合わせてくれたのだ。

会社全体の仕事の流れを見せてくれたことで、康祐は仕事に対してのやりがいを肌で感じることができた。

二代目社長も、現場の人たちの雰囲気も自分に合っているような気がする。


康祐は大学院への進学を辞めることも検討したいと父親に相談したのだ。

父親はいい顔をしなかった。


「できれば新卒で出来るだけメーカーに入ったほうがいい。その規模の会社でしか出会えないレベルの人たちや社会人としての経験値がある。そういうところで経験を積んでから、それを生かして小さい規模の会社で役立った方が自分の為にも会社の為にもなるだろう。」


父親はそのまま大学院を受験するように言ったのだ。

康祐はその意味も理解できた。

最初は自分もそう思っていたから。


母親はしばらく黙っていたが、「お父さんには内緒よ」と前置きをして話し始めた。


「答えから言うと、私は就職してもいいと思ってる。」

「え?」

「私の実家は昔、お店をやっていたの。だから仕事している親の苦労を見ていたけれど、やりがいがあるのも感じてた。」


大きな会社で出会うレベルの高い人たちも財産になるけれど、自分の力で切り開いていくことも人生の強さになるはず。

その仕事が自分の嫌いなことではないなら、その会社の空気が自分に合っていそうなら、二つのバイト先の社長に気に入られているんだから、頑張ってみてもいいのではないか。


「あとは康祐の人生だから、大学院に入っても就職浪人になってもお父さんのせいにしたりしないで、自分で責任とれるようにしっかり考えなさい。」


康祐は頷いた。


「もうすぐ着くけど、果那ちゃん起こさなくていいの?」


母親がバックミラー越しに爆睡したままの果那を見る。

康祐は振り返って果那の体を軽く揺すった。


「果那ちゃん、おい、果那ちゃん」

「んー」


果那は寝返りをうち、シートから落ちた。


「痛い・・・」

「何やってんだよ。」

「あれ?康祐くん、おばさん?あれ?」


果那はきょろきょろして状況を把握できていないようだ。


「果那ちゃん、あなたカラオケ屋さんから康祐に電話したの覚えてる?」

「あ、そうだ。私カラオケしてたんだ。」


果那はゆっくりとシートに座り直すと、頭を抱えた。


「もうすぐ家に着くけど?」


康祐が言うと、果那は焦って首を振った。


「ダメダメダメ!こんな状態で帰ったら怒られる!おばさん、お邪魔してもいい?」

「うちもダメよ、お父さんがいるから。果那ちゃん、うちの人にも説教されるわよ。」

「うー。」


車は住宅街に入り、いつもの公園の前で停車した。


「帰りなよ果那ちゃん。」

「やだ。」


康祐はため息をついた。


「じゃ、また公園?」

「またって、いつもこんな夜に公園にいるわけ?二人とも。」


康祐の母親が呆れている。


「いつもじゃないけど。」

「それでほんとに二人とも付き合ってないわけ?」

「ないわけ。」


康祐は車を降りると後部ドアを開けた。

のったりのったりと車を降りる果那に手を貸す。


「もう少し酒が抜けるまでここにいるから。」

「じゃ、そのままうまく果那ちゃんとくっついちゃいなさい。」

「それはないから。」


いい年した母親がウィンクしてよこすのに眉をひそめて、康祐は車のドアを閉めた。


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