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5-1.ある日

季節は春になり、桜の木も緑が生い茂り、康祐こうすけは大学4年になった。

もともと大学院に進むつもりだったので、3年の時点で就職活動も触り程度にしかしていない。

今は卒論を始めている。

卒論とバイト、サークルにはたまに顔を出す程度だった。


サークルに顔を出しても、3年になって就職活動が忙しい高橋有希たかはしゆきにはなかなか会えなかった。

まだ、果那かなに告白したことをちゃんと伝えていない。おそらく、ひろしやほかの人から噂話で耳にはしているだろうが。


「さて、今日は帰るかな。」


図書館帰りにふらりと学食に立ち寄った康祐は、今日も高橋は来そうにないと思い、席を立った。

駅に向かっている途中、メールの着信音が鳴る。


「珍しい、なんだろう。」


バイト先からのメールだった。

康祐は家と反対に向かう電車に乗り、バイト先へ向かった。


バイト先は大学から2駅の住宅と古くからの工場が点在している場所にある。

康祐は金属加工の工場でバイトをしていた。

大学の先輩の紹介で工学部の学生が数人シフトに入っている。康祐は一年生の頃から続けているので、その中では一番長く在籍している。こうやって急に呼びだされるのは非常に珍しい事だった。


「おはようございます。」


康祐が現場で従業員たちに声をかけると


「あれ、どうしたの?」

「今日シフトあったっけ?」


という返事が返ってきた。


「メールで呼ばれたんですけど。」


康祐が首を傾げていると、背後から声を掛けられた。


「あ、社長、おはようございいます。」

「急に呼び出して悪かったね、ちょっと上に来てくれるか。」


社長に促されて二階の事務所に入ると、応接セットのソファを勧められた。

バイトの俺にいったい何の話があるのだろう。


「滝沢君は大学院に進むつもりなんだよね。」

「はい、受かればですが。」

「実は少し考えてもらいたいことがあるんだ。」


康祐は少し緊張して、膝に置いた手に力を入れた。


「ちょっと一緒に来てほしいところがあるんだが、いいかね。」

「はい・・・」


康祐が頷くと、社長は立ち上がった。


「紹介したい会社があるんだ。」


康祐は社長の運転する車の助手席に座り、話を聞いていた。






「では、滝沢さんのところからは少し遠いのですが、よろしくお願いします。」

「こ、こちらこそ、お願いします。」


若い社長に深々と頭を下げられ、康祐も慌てて頭を下げた。


「じゃ、山下君、また。」

「はい、有難うございました。」


山下君と呼ばれた若い社長は、康祐の雇い主にも頭を下げた。


「滝沢君、近くの駅まで送るのでいいかな。私は他に寄る所があるので。」


康祐は再び社長の車に乗り込み、駅前の道で降りるとケータイを取り出した。


「この電車乗ったことないな。」


初めての場所なので、地元までの路線図を調べる。


「一時間以上かかりそうだな。」


康祐は切符売り場に歩き出して、見覚えある小柄な子に目を留めた。


「何でこんな所に?」


康祐の視線に気づいた果那も、驚いた表情で康祐を見上げた。


夜七時過ぎの電車はまだかなり混んでいて、二人は話をする状態ではなかった。

電車が駅に停まるたびに激しく動く人の流れから、康祐は果那を庇っていた。果那も康祐の腕の中で黙っていた。


「次、乗り換えだよ。」


康祐は果那を促して地下鉄から地元を走る電車に乗り換えた。

少し空いている車両に乗り込みほっと息をつくと、ようやく二人は口を開いた。


「あんな所で何してたの?」


「私は―――」

「俺は―――」


「仕事の話だよ。」


二人同時に同じ答えを口に出し、また驚く。


「あそこで仕事?」

「康祐くんが仕事?」


果那は笑いながら言った。


「話ししたいから、ご飯食べて行こうか。」


そして二人は地元の居酒屋に入った。


「果那ちゃんが居酒屋なんて珍しいね。」

「こういう店の方が長く話せていいでしょ。」


二人はとりあえずビールで乾杯した。


「えーと、どっちから話す?」

「果那ちゃんが酔っぱらう前に意見を聞きたいから、俺から。」

「なにそれ、失礼しちゃう。」


康祐は笑って、唐揚をつまみながら今日の夕方からの事を話し出した。



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