3-3.最悪の呪縛
康祐はふと、果那に電話してみようかと思った。
理由は、あまり確かめたくないが、気になっている恋人のことだ。
その後どうなったのか詳しく聞いていない。
あまり考えると結局電話できなくなりそうなので、すぐに番号を呼び出した。
数回のコールで果那が出た。
「どうしたの?こんな時間に。」
もしもし、もなく果那の声が心配そうな声を出す。
「あ、ごめん。急用じゃないんだ。」
康祐は果那に心配されて少し嬉しくなり、頬が緩んだ。
「なんだ、康祐くんが電話なんて珍しいし、こんな夜だから驚いたよ。」
「驚かしてごめん。こないだ途中まで聞いていたから気になってさ。あの、例の横断歩道の彼のこと。」
あぁ、そうだったね。と果那は納得したように答えて、職場で残業した時に話した経緯を説明した。
「結局未だに宙ぶらりんなの。」
二人の経緯と長谷川暁との会話に康祐は鼓動が早くなった。
「か、果那ちゃんは、どうするつもりなの。」
貼りつく喉から声を押し出し、一番気がかりなことを質問した。
「うん、私はもう一度やり直したいって思ってる。」
「そっか。」
大体わかってはいたが、一番聞きたくない答えが返ってきた。
「康祐くん、なんでがっかりした声出すの。」
「え?・・・いや、そしたらOB会とか来れなくなるのかなと思って。」
慌てて理由を取り繕う。
「OB会は行くよ、めぐみたちも楽しみにしてるし。去年は私会社の新人研修で行けなかったから、同期のみんなどうしてるか気になるしね。」
「そういえば。」
果那の声が少し低くなる。
「さっき話した残業した日、恵比寿で康祐くんを見たよ。」
康祐は黙った。
「康祐くんだったよね、目が合ったよね。」
この話になるなら、電話しなきゃよかった。
康祐はただ黙っていた。
「なんで黙るの。都合でも悪いの?」
都合悪すぎるよ。
「あの子、前に康祐くんの家まで来た子だよね。彼女なの?」
「違うよ。」
「だって、キスしてたよね。」
「急にされたんだよ。とにかく、付き合ってない。果那ちゃんが気にすることじゃないよ。」
「あ、そう。私には関係ない事なんだ。そうだよね、ただの幼馴染だもんね。」
果那は怒ったような声を出していた。
「そういう意味の気にするなじゃなくて、果那ちゃんは俺に遠慮しなくて変わらなくていいんだよってことだよ。」
康祐と果那は、互いに姉弟のような幼馴染だからこそ遠慮してほしくないと思う部分が噛み合わず、言葉が止まらなくなっていた。
「遠慮してるのは康祐くんだったじゃない、いつも私に合わせてばかりいるって、めぐみたちにも言われたよ。」
「無理して合わせていた訳じゃない。俺がそうしたいから果那ちゃんから話がある時は聞いてただけだよ。」
「会う時だけじゃなくて、サークルでもでしょ。いつも送ってくれていたし。そんなの幼馴染だからって縛られることないんだよ。」
「そんなつもりはないよ。」
康祐はもう、言ってしまいたかった。
叫んでしまいたかった。
好きだからだよって。
康祐は大きく息を吸って落ち着こうとした。
そしてわざとふざけた。
「果那ちゃんはどうしてそんなに怒るの?キスされてた俺にヤキモチ?」
限界になると、いつもこうしてふざけてはぐらかしていた。
果那をはぐらかす振りして自分をはぐらかしていた。
そうすれば、果那はいつもふくれて「もういい」と言って元に戻るのだ。
そうやって、適当にふざけて電話を切りたかった。
「何よ、そうやってまたふざけて。大事な幼馴染の康祐くんがあの子を好きなんだと思って、好きな人とうまくいくの邪魔しちゃいけないと思ってるのに!私が康祐くんに色々相談してるように、私にはちゃんと話してほしいよ。」
康祐はフラれたのと同じくらいのショックを受けた気がした。
わかってはいたが、果那の眼中に自分は全くいないのだ。
「俺は自分でそれなりにやるから、大丈夫だよ。」
無理やり明るい声を押し出した。
「でも、あの子、高橋のことは好きじゃないんだ。」
それだけははっきり言っておきたかった。
「・・・それなら、あんまり優しくしないようにしないと可哀相だよ。康祐くんは優しすぎておせっかいだから。」
果那は康祐の言葉に半信半疑で、嗜めるように言った。
「じゃあもう遅くなるから、また今度ね。OB会の幹事頑張って、楽しみにしてるから。」
「あぁ。」
「おやすみ。」
「うん。」
康祐はぐったりして服のまま再び布団に頭まで潜り込み、ぎゅっと目を閉じた。
優しすぎておせっかいか。
それは果那ちゃんにだけなんだよ。
果那ちゃんが好きだからだよ。
早く、ラクになってしまいたい。




