壹、少年は病室で目覚める。
気付けばそこは病院のベッドの上で、目を開けた途端にすぐ近くのナースさんがニコニコしながら話しかけてきた。
「あら、目を醒ましたのね、哀君...でいいんだよね?」
ナースが確認したのは名前では無く、名前の後につけるのは「君」でいいのか?と言う事だ。
哀は何故そんな事を聞くのか十分に承知しているので特に気にすること無く適当に返事をした。
「はい、合ってます。僕は孤愁 哀。れっきとした男です。」
「こんなに可愛い男の子って実際に存在するものなのね...。マンガとかライトノベルの中だけの話かと思ってたわ。」
「しかし、残念ながら実在するんですよ。」
哀は心の中でため息をつきながらいつも通りの返事を返した。
孤愁 哀。彼はナースさんの反応から分かるように、男なのか女なのか一見分からない中性的な魅力がある。
いや、もう少しで腰に届いてしまうくらい髪を伸ばしている現在の彼はほとんどの人が女に見間違えてしまうだろう。
そんな彼であるから、もうこの類の質問には慣れていて、返事も統一され始めているのだ。
「ええと哀君は大きな怪我がなかったからすぐに帰れるわ。その前に警察の人と話してもらうけれどね。」
「警察!?何でですか?」
哀は内心ドキドキしながらナースに聞いた。
「あれ?覚えてないの?哀君は学校の廊下の血の海で1人倒れていたんだよ?そこでなにがあったのか警察の人も不思議がっていたわ。」
「ああ、それで...。」
哀は納得したようにうなづくと上体を起こした。
と、そこでノックの音がした。
「失礼します。」
入って来たのは2人の刑事だった。どうやら2人は上司と部下という関係らしく、1人は既に手帳とペンを構えていた。
「じゃあ私は失礼するわね。部外者は邪魔でしょうから。」
頑張って、と言わんばかりの笑みをたたえてナースは去って行った。
と、刑事2人組が哀のベッドまで近寄ってきた。
「ええと、孤愁 哀...君だね?」
上司と思われる刑事が確認すると哀はそのままの姿勢で、
「はい。」
哀の声は緊張のためか裏返ってしまっていた。
そんな哀の事を察したのか上司はにこやかに笑った。
「そんなに緊張しなくていいよ、哀君。さて、君に聞きたい事がいくつかある。」