極悪な妹の言いなりなフリをしていたら、溺愛されて私だけが幸せになりました~気がつけば妹は不幸に~
妹は私よりも美人で、常に褒め称えられ続けて来たので調子に乗っていた。
「今夜の舞踏会なんだけど、私だけ参加するからあんたは絶対来ないように」
今日だって、そう私に指図して来た。
「どうして行っちゃいけないの?」
私が聞いてみると、
「だって私、姉が醜いんだってって周りにバレるの嫌だもん」
などと言ってくる。
どんだけ性格が悪いんだ!
ってびっくりしちゃうよねえ。
でもそういう人。
だからもう根本的な面では諦めるしかないし、私は妹の言いなりになるつもりもなかった。
裏では妹の言うことなんて全然守ってませんよーってこと。
舞踏会も、もちろん参加するわよ。
これが私の生き方。
ここまでちゃんとわかってくれたのなら、私のこそこそした舞踏会での振る舞いの話に移りましょう。
妹と直接会うのを回避して舞踏会を楽しむためには、妹の場所を常に気にしつつ、距離を置いて歩き回らなければならない。
そんなことしてる時点で妹の言いなりじゃんって思う人もいるよね。
でもまあ見てなさい!
妹を回避しつつもちゃんと男性に声かけられたから。
「あの…もしよろしければ、社交は控えめにする会、に推薦させていただきてもよろしいですか?」
「え?」
踊りましょう、乾杯しましょう、そう言う声かけじゃないんだけど。
え、社交は控えめにする?
それ、妹の言いなりになる会じゃん!
断片的に今の状況だけを切り取った場合!
でも妹の回し者ではなさそう。
どういうことか全然わからないけど、とりあえず私は男性をしっかり観察してみた。
うーん。
どういうことだ?
私にはわからないけど、とても社交が好きな好青年に見える。明らかに貴族の中でも有力で格式高い方でしょこれ。
そんな人たちが社交を控えめにする?
ありえない。
てことはやっぱり妹の回し者か?
でも妹にそんな権力は流石にないでしょ。よくない手を使って男の子を従えてる可能性あるのか…?
いやいやいや。そんなのになびく男はもっとダメそうな雰囲気してるでしょ。
「あのー、何か、色々と考察していらっしゃる最中でしょうか?」
男性がそう言った。
「そうよ。考察中。結果は大体出てて、そんな怪しい会には入りたくない!」
「そうですか…。舞踏会で辺りを気にしてこそこそ動いているから、逸材だなと思いますが…」
「それは、社交を控えめにする点において逸材ってこと?」
「そういうことです」
はあ。そうか。側から見てそんなにこそこそ感が出てしまっていたのか。
だとしたら、もう部分的に妹の言いなりになってしまっていたってことだよね。うわムカつく。
裏では全然言うことを聞いてないっていうのが、私なはずだったのに。
そういや妹はよく言ってるな。私の許可なく勝手に団体に所属しないようにって。
これも姉が私のような人だと知られたくないかららしいけど、逆に私はそんなことの言いなりにももちろんなりたくないわけだ。
あれ? てことは?
私、このよくわからない団体に入ったほうがいい可能性ある?
私はこう考えてしまったが故にその場で勢いよく決めてしまった。
「あの! 私、社交は控えめにする会に入ります!」
男性は嬉しそうに微笑んで
「では、早速推薦手続きに移らせていただきます。舞踏会は抜けていただきますが大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫です」
そして舞踏会の輝かしい部屋を出て、男性に着いて行き、小さな部屋に案内された。
あ、やっぱり私色々間違えて変な団体に関わってしまいましたわね…?
と、思ったんだけど部屋の中に入ったらオシャレなお茶会でもやりそうな部屋だった。
いやいや!
でもこういうところが悪いことするアジトだったりすることもあるからね!
でも、あのー、そんなことより、私を連れて来た男性が…猫になってるんですけど、え、魔法?
黒い服を着ていた紳士的な男性が、黒猫になっている。
魔法使えるの?
と、部屋の中にいた人間である男の人に尋ねようと思ったが…。
え、なんかすごいイケメンなんだけど。
「どうやら私が思っているよりは人見知りではないようですね」
しかも向こうから話しかけて来た。
「あ、あのー、どういう方というか…」
「あ、僕はとても人見知りなので、舞踏会に参加したくない、貴族の端くれです」
「舞踏会に参加したくない…」
「そうです。人と関わるのは面倒だと思いませんか? 自分と波長が合う人と、したい話だけをしていたいです」
「わがままな人なんですね」
「うわ。僕が見込んだ人ではなかったようです。あんなに嫌々舞踏会に参加している雰囲気だったから人見知りかと思ったのに…」
「あ、それは妹を避けてただけです」
「え、どういうことですか? 妹と仲悪いんですか?」
「まあ、妹にしいたげられてるっていう感じですね…」
「それは大変だ。でも僕とは全然状況が違うと分かりましたよ」
「あなたの状況はどんな感じなんですか?」
「僕はですねー、単純に人とそこまで話したくないだけで、人間関係にはすごく恵まれてます」
「なんだ。幸せ者のわがまま貴族でしたか」
「ただ、人間関係に恵まれているっていうのは、人とそこまで話したくない僕視点での感想なので…要は身寄りがないってことなんですがね」
「あ、そうでしたか…」
「それで僕は人見知りの仲間を探そうと思っていたんです。だけど人見知りなので仲間を探しに行くのも大変だなと思いまして、魔法が使えるので愛猫に行ってもらいました」
「かなり人見知りなんですね」
「はい」
「決めました。あなた、名前なんて言うんですか?」
「僕? レイですが…」
「じゃあ私、レイさんをちょっとだけ社交的になるようにプロデュースして見せます!」
「な、なんでですか? そんなことしなくても…」
「いやいや、でもレイさんは猫に協力を仰いでまで、人見知り仲間を探していましたよね。てことは仲間が欲しいってことです」
「それはそうなのかもしれませんが…」
「なら、ちょっとレイさん側が人見知りをなくすことで仲間を探しやすくするのもいいんじゃないですか?」
「そうでしょうか…」
「そうですよ。ていうか、レイさんイケメンだから、存在してるだけで結構みんな優しくしてくれる気がします。好印象ってことです」
「あ、そうですかね…それなら、あなたは好印象なんですか?」
「わ、私!?」
「です。私のことイケメンと言ってくれましたし、好印象ってことなんでしょうか?」
「イケメンなのはそう思います。好印象でした。でもちょっとめんどくさいタイプの人かもとは思い始めてます」
「6割7分褒め言葉でしたので、ありがたいお言葉と扱います」
「ぜひ」
「でもそれなら…あなたに僕の仲間にまず初めになっていただけませんか?」
「わ、私が仲間? え、もっと素敵な仲間、絶対見つかりますよ! さっきも言いましたけど、存在してるだけで大丈夫かなと思いますよ」
「うーん。でも、ちょっと勘違いではあったとはいえ、こうして猫を通して出会ったあなたに仲間になって欲しいです」
「レイさんはもしかして、相当なめんどくさがりやって感じですか?」
「…はい。たぶんそうですね!」
開き直るめんどくさがりやの人見知りなイケメン…悔しい。私は嫌いではない…。
「…もうしょうがないので仲間になりますよ」
「ありがとうございます! ではぜひお名前を教えてもらえますか?」
「私はリオよ」
「リオさん、じゃあこれからもいつでもここに遊びに来てください。僕は人見知りなのでいつもここに一人でいますから」
こうして私は居場所をもらえることになった。
これは私にとっていいことだと思う。
だって妹の目がないところだから、妹に何も言われない。
そんな私は次の日また早速小さな部屋を訪れた。
「リオさん、いやあ、仲間と認定すれば、人見知りの僕でも話したい気持ちになりますね」
「それは嬉しいです。ありがとうございます。今日は本を持って来ました」
「勉学に励むのですか?」
「そうです。私、色々やりたいことがあるんです」
少し沈黙の中、私が本を読み進めていると、レイさんが質問してきた。
「題名からして…星に関する本でしょうか?」
「はい。私、天体観測に興味があるんです」
「天体観測ですか…魔法では全く太刀打ちできない領域ですね」
「レイさんはやっぱり魔法が得意なんですか?」
「そうですね。私の性格的にあまり動いたりしたくないので、愛猫を人間にするくらいの魔法はつかえるようになりました。
「なるほど。私は全く魔法を使えないんです」
「もし魔法を使いたい時があったら、僕が代わりに使いますよ。と言っても、今この世界では、魔法は大したことには使えませんけどね」
「でも、猫を人間に変えられるのは結構便利なんじゃないですか?」
「とは言っても、30分しか効果は持ちませんけどね」
「30分あれば色々できるじゃないですか! 例えば、舞踏会から私をこの部屋に連れてくるとか」
「確かにそうですね。そして…今も実は猫に出かけてもらってるんです」
「ほんとですね。黒猫がいない」
「もうすぐ帰って来ますよ」
「ほんとですか?」
「あ、帰って来ました」
「あ、もう猫になって帰って来てますね」
「出かけてもらってから31分経ってます。ちょっと遠くまでおつかいさせすぎました。けど、ちゃんとくわえて持って帰って来てくれましたね」
「これはなんですか?」
「クッキーです。街の裏通りの、マイナーな名店の」
「確かにとても美味しそうですが…それも自分で買いに行かないんですか?」
「ちょっと…気分が乗らなくて…」
「いやー、軟弱すぎますよそれは!」
「ちょっと自分でも、最近軟弱すぎるかもとは思い始めました」
「やっぱり…外に出ませんか? 散歩でもいいですよ。クッキー食べながら外のベンチに座るとか、そういうのでもいいですよ?」
「うーん。やってみますか!」
こうして私は、怠け者系のイケメンを外に出させることにした。
クッキーを手にして、猫ちゃんも一緒に来てもらう。
ミニピクニックって感じですわね!
外と言ってもいろんなところがあるけど、私はとりあえず、お城のはずれのみかんの木がたくさん植えてある庭にやって来た。
「ここ、私の好きな場所なんです」
「みかんがたくさん木に着いてますね。どうして小鳥は食べないんでしょうか?」
「まだ美味しくなってないからかなと思いますよ」
「確かにまだ緑色に近いですね」
「さて、クッキーを食べましょうか」
「はい」
レイさんと私は、少しだけ上品に、一枚ずつクッキーを食べた。
「美味しいです」
「でしょう? 僕のおすすめの店ですから。身寄りがない僕にとっては馴染みのある味っていうのは少ないんですけど、このクッキーは小さい頃から食べていた記憶があります」
「そうなんですね」
私は身寄りはありまくる。
ただ、妹がひどくて、なのに家族は基本的に、華やかで対外的に人気のある妹の味方。
だから正直家族のことは信用していないけど。
でも身寄りがないっていうのは寂しいことなのかもしれないと思った。
だから私の面倒見がいいモードが発動したのだろう。
少しだらしのないイケメンことレイさんと過ごす時間はどんどん長くなっていった。
ある日、レイさんと馬車で遠くに出かけた。
「魔法の免許の更新のついでにこんな遠くに行く提案をされるとは…」
「私だって資格を何も持ってないわけじゃないもの。天体観測をするために、この国では科学者の資格が必要なのよ」
「それでそっちの更新にも僕が着いていく理由は…?」
「私がレイさんに一緒に来て欲しいから。美味しいものがたくさんある、海辺の街なのよ」
「それは魅力的だけど…こんなに遠くに来たのは本当に久しぶりだ」
「まあいいじゃない。出かけることはいいことよ」
馬車はよく潮風を浴びているのだろうか。少し錆びていて心細いけど、でもそれなりに快適に走り続け、海が向こうに見えた。
さて、魔法の免許の更新をしたてのレイさんを見習って、私も科学者の免許の更新を済ませた。
少し遅めのお昼ご飯として、とても美味しい蒸したお魚を食べた。
でもここからさらに海辺にとどまりたい理由がある。
ついに私は、本で得た様々な知見を応用して、流星群の動きを予測する装置を作ったのだ。
それがちゃんと機能しているなら、今日は水平線の低いところに、たくさんの流星群が見えるはずだ。
暗くなった。
そして…。
「そろそろ流れてもいい時間かなと思うんだけど」
「目を離さないようにしてるよ。水平線のところ、あっちかな?」
「うん。あ、流れたわよ!」
「本当だ」
レイさんは感動しているみたいだった。
そしてすぐに本当に感動しているとわかった。なぜなら、言葉にしてくれたから。
「これは感動するな…」
「でしょ?」
「やっぱりリオさんは、お姉さんっぽいね」
「そりゃ、妹もいるし、私はお姉さんだけど」
「しいたげられても耐えているのはお姉さんっぽいとは言えないよ」
「じゃあどういうのが本当はお姉さんっぽいの?」
「こんな風に素敵な空を見せてくれるのが、一番お姉さんっぽいと僕は思うよ」
「てことは、レイさんが私の弟っぽいってこと?」
「そうなるかも。うーん。それは嫌だな」
「え、嫌なの?」
「僕はできたら…姉弟ではなくて…恋人がいいかな」
「え、今さらっと、こ、恋人って言った!」
「言ったよ」
「え、え、わ、私も恋人がいいです」
なぜか無駄に縮こまって、私はそう返した。
流星群がちょうど一気に五つ流れて行った。
それから少し月日が過ぎて。
小さな部屋で出会った私とレイさんは、大きな教会で婚約した。
うるさく言ってくる妹は…現れなかった。
なぜなら…今彼女は、性格の悪さを生かして男を騙しまくった挙句、五人から訴えられてるんだもの。
どう考えてもしばらくは表に出れないでしょうね。
そしてその後も、誰からも信用されない、悲しい暮らしをするでしょう。
全く同情しませんけどね。
お読みいただきありがとうございます。
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