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第一決戦:お嬢様おしりとり 開幕!


 「とうとうこの時がやってまいりましたわね」


 太陽がカンカンと照り、刺すような風が吹き抜け、土煙が舞う第一決戦闘技場(コロシアム)。その中心にはふたつの影。その影の周囲の空気は今にも亀裂きれつが入りそうなほどに張り詰め、何者も寄せ付けない雰囲気をかもし出す。

 声を発した片一方の影の名は

 “ディスティオール・D・ディグマノトリアル”

 通称“破戒のディール”

 彼女の出生はとてもただ一人の人間の誕生とは思えないものだった。

 彼女が生まれる一ヶ月前から海は荒れ、木々はざわめき、空は暗雲がたちこめ、雷鳴が聞こえない日は無かった。

 出産当日は酷いものだった。

 家を訪れた産婆は皆出産の手伝いなどできないほどに気分を害し、次々と倒れてしまった。それはディグマノトリアル夫人を除く家の人間も同じだった。

 そのために誰も助けることもそばにいることさえ出来ず、夫人はただ自分ひとりで産むしかなかった。

 産まれる予定であった早朝を過ぎ、昼を過ぎ、夜になり日が変わろうとしていた頃、その産声が空を揺らした。

 その瞬間に気分を害する何かも消え失せ、ようやく夫人の元へ近づくことができるようになった。

 しかし、ようやく駆けつけたときには夫人の容態は取り返しのつかないほどに悪いものになってしまっていた。

 結局(わず)かにも回復することはなく、よわい26にして生涯の幕を閉じた。

 一方のディールは健康そのものであった。

 彼女は生後一週間で立ち、二週間で言葉を話し、三週間目には代々国随一のお嬢様を輩出してきたディグマノトリアル家の誰も、彼女にお嬢様おしりとりでかなわないほどに成長していた。

 18歳となった今もその現状は変わらず、対等な相手の居ない日々に退屈している。

 彼女はその圧倒的な力と、お嬢様らしからぬ振る舞いの数々から、いつしか破戒のディールと呼ばれるようになった。


 そんな彼女を前にして一歩も引かず、真っ向から相対する影がひとつ。

 その名は“リール・ティントテール”

 通称“天降のリール”

 その天使を思わせるほどの整った容姿と圧倒的な才覚。まさに神からの恩寵おんちょうを一身に受け、天から舞い降りたかのごとき人間であった。

 そんな彼女はもともと平民の生まれであった。

 幼い頃に両親は他界。その後児童保護施設に預けられたのち、ティントテール家の現当主がリールの才をかって養子とした。

 その時の彼女はまだ2歳。しかし、ティントテール家当主の目には彼女の溢れんばかりの潜在的お嬢様力がありありと見えていた。

 ティントテール家もまた、代々国随一のお嬢様を輩出してきた大家たいかであり、ティントテール家全員のお嬢様パワーの総量は国5つ分ほどと言われているが、それをはるかに上回るほどのお嬢様パワーを将来的に持ちうることを見抜いていたのだ。

 事実、彼女の実力は圧倒的であった。彼の想像を大きく超えて。

 養子になりお嬢様としての修行を始めて約半年。彼女のお嬢様パワーはとうにティントテール家のお嬢様パワーの総量を超えていた。

 これにはティントテール家の誰もが戦慄せんりつした。

 18歳となる現在までその成長はおとろえるところを知らず、今は新しい世界を創造できるのではと思われるほどのお嬢様パワーを有している。

 

 そんなこの世界で郡を抜く強さを誇る両者の最後の決闘が今、始まろうとしている。


 「とうとうこの時がやってまいりましたわね。」

 『ええ…』

 挑戦的な色を見せるディールの言葉を、流水が受け流すかのごとくかわしてみせる。

 「千年続く我がディラルト公国と貴女あなたのティース帝国、大国同士のいがみ合い。それを代表するディグマノトリアル家とのティントテール家のみにくく汚らしい泥試合。このわたくしが華麗に終止符を打って見せましてよ!」

 『“急いては事を仕損じる”ですわよ、ディール様?そんなに焦っていると、勝てるものも勝てないまま、機会を逃してしまうだけですわ。』

 空気に火花が散る。

 「なんですの?そのお言葉。ずいぶんと上からですこと。まるで貴女の方がお強いとでも思っているかのようですわ。」

 『あら、違うかしら?』

 空気が熱を帯びる。

 「ふふ、貴女、今までとんだぬるま湯に浸かってきたようですわね。残念だけどわたくしは貴女がこれまで戦ってきたどの御方より強い、文字通り格が違くてよ!」

 『そうなんですの?わたくしからしたらさして違いがないもので、わかりませんでしたわ。』

 リールの絹の上を滑るナイフのごとき艶やかにして鋭い言葉がディールに突き刺さる。

 「面白いことをおっしゃいますのね…」

 『貴女様こそ…』

 彼女たちの闘志は飽和寸前であった。

 彼女達自身、今までに感じたことの無いほどの緊張と昂揚こうよう、そして体の芯から今このときにひたっていくのを感じる。

 互いに初めてだった。こんなにも“闘い”というものに向き合おうと思える相手は。

 数刻すうこくの沈黙ののち、口を開いたのはディール。


 「そろそろ始めましょうか?」

 『ええ、そうしましょう。』


 ディールの口角が上がる。

 「決闘はもちろんお嬢様おしりとりで行いますわ。もちろんルールは把握してると思いますけれど、お嬢様らしい高貴で美しいお言葉のみを用いてしりとりをするだけ。それを破れば死罪、負けても死罪ですわ。」

 『ふふ、わざわざ説明してくださらなくとも、当然理解しています。』

 「そうですわよね。申し訳ありせんわ。久々の実戦で少々胸のたかぶりが抑えられませんの。」

 『あらあら、はしたないですわよ?感情はむやみに表に出さず、常に品位を保ち続けることこそお嬢様に求められるもの。それすらできないとなれば、底が知れてしまう…というものですわ。』

 「そのお言葉、いつまで続くかしら?まあいいわ。先攻はこのわたくし、ディスティオール・D・ディグマノトリアルから。お嬢様おしりとりの“り”から始めさせていただきますわ。」

 『ではわたくしは後攻ですわね。不肖、リール・ティントテール。全力をもってお相手させていただきます。』

 「いざ、まいりましょう!」

 『高貴の名のもとに』


 「『決闘デュエル!』」


 二人の声が地を揺らし空を裂き世界と呼応こおうする。

 取り囲んでいた風も止み土煙も消え太陽が二人を照らし、漆黒のドレスを身にまとうディールと純白のドレスに身を包むリールの姿があらわになる。

 両家の家名、ひいては世界を牽引けんいんする二大大国の戦争の命運をかけた決闘が今、始まる。


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