表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

007_TPOはわきまえよう

 噂は止まらなかった。

 貴族のお茶会から、侍女達の井戸端会議まで、どこに行ってもその話題。


 『王太子の夜のお相手は!?』みたいなゴシップから、『王宮に巣くう怪異!』なんて眉唾な怪談に、『手当たり次第に男を惑わす痴女』という猥談、『あの体型では無理だろう』という目撃者談。


 ああ、もう。全員殴りたい。とくに最後のお前。


 今日も今日とて、夜会に参加した貴族達があちこちで噂話に精を出している。

 夜会というのは、格式高い晩餐会の2次会のようなもの。

 例によって主催者のセレーナに呼ばれてしまったのだ。

 また私をバカにしたいのだろう。もう放っておいて欲しいものだ。


 ちなみに晩餐会には呼ばれず、二次会だけ呼ばれた。私みたいな木っ端貴族はその方が多い。


「裸で王宮を走り抜ける女なんて、本当にいたのか? 逃げおおせるわけないじゃないか!」


「しかしこれだけの目撃者がいるんだぞ?」


「衛兵に捕まらないはずがないじゃないか! 馬鹿らしい! みんなで夢でも見たんだよ!」


 アルコールが入っているのだろう、そんな大声が聞こえてくる。

 私は余裕の笑みを浮かべた。

 日が経つにつれて、噂には尾ひれがつきまくって、もう原型をとどめなくなってきている。


「私が聞いたところによると、あまりの美しさに侍女も衛兵も、思わず道を空けてしまったということだ」


 ……これは、まあ、ほとんど事実だけども。


 王家も噂については一切コメントしていない。

 このまま噂は都市伝説のように消えていくだろう。


「あぁら、アリシアさん、またお一人で寂しそうなこと!」


 ならもう呼ぶんじゃねえよ。


 部屋の端でちびちびと冷めた紅茶を飲んでいた私に、セレーナが絡んできた。

 扇子で私の頬をぺちぺちと叩く。


 なんかもう、こうやってマウント取りたいから呼ぶんだろうな。

 いくらヒマでも、他の趣味を見つけて欲しい。


「本日はですね! スペシャルゲストがいらっしゃいますのよ!」


 セレーナが上機嫌にまくし立てる。

 セレーナの家系は伯爵家だが、最近は王家と懇意にしているとかで上り調子なのだ。


 ちなみにこのアルフォート国の貴族ランクを簡単に説明すると……


 ・王家 国のTOP。やべえ。

 ・公爵 最高位爵位。ヘタすると王家より金持ち。やべえ。

 ・侯爵 軍属の最高位。国境の領地でバリバリの武闘派貴族。やべえ。

 ・伯爵 ピンキリの貴族ボリューム層。やべえところと、そうでもないところが混在している。

 ・子爵 準伯爵、くらいの立ち位置。新進の貴族が多く、伯爵の下の方とあんまり変わらないかも。

 ・男爵 ギリ貴族。しょっぺえ。


 そんな感じ。同じ貴族でも、伯爵の上の方のセレーナと男爵の中でも最下層の私では天と地ほど差がある。

 ちなみに、王太子と私ではもう次元が違うくらいの感覚だ。


 ざわっと入り口のほうでどよめきがあがった。


「あ! いらっしゃったみたい!」


 セレーナは目を輝かせた。こんなところだけ見れば、可愛い娘だ。

 私は、あまり興味も無かったが、入り口の方に目を向けると……


「!!?」


 王太子があらわれた!


 なんでなんで!? 言っちゃなんだけど、そんな大した夜会じゃないわよ!?

 驚いた私にセレーナはドヤ顔を向けた。

 おそらく、セレーナが自分の権力アピールのために呼んだのだ。

 ほんの一時とはいえ、王族の時間を割かせるなんて、普通の伯爵令嬢じゃ出来ない。


 セレーナは嬉しそうに扇子を振った。

 人に囲まれた王太子がセレーナに気がついて、こちらに向かってくる。

 さすが王太子。貴族がわらわらと群がって、大行列を引き連れて近付いてくる。


「ふふん」


 セレーナはこの世の春とばかりに勝ち誇った顔を見せた。

 いよいよ王太子は近付いて、私とセレーナは頭を下げてかしこまった。

 あとは、王太子がセレーナの名を呼んで、あいさつを交わして……


「ありんこではないか!」


 ……は?


「こんなところで会うとは、奇遇だな!」


 しん……と夜会の空気が静まりかえった。

 いかに夜会でも、ゲストが主催者よりも一介の出席者に先に話しかけるなんて、なかなかあり得ない。

 よっぽどその出席者と親しかったりしない限り……


「どうした? ありんこ?」


 聞こえないフリしてた私の顔をのぞき込む。

 ……マジか、コイツ……


「……お初にお目にかかります。王太子殿下。

 どなたかとお間違えではないでしょうか?」


 顔をひくつかせながら、私は笑顔を浮かべた。

 王太子はきょとんとした顔を見せる。


「どうした? 余とそなたの仲ではないか」


 そんな仲ございませんが!?


「お初に! お目にかかります! 王太子殿下!

 どなたかと! お間違え! ではないでしょうか!?」


 怒気を隠そうともしない私の言葉に、王太子は苦笑いを浮かべた。


「おお、そうか……そうだったな! 初対面、初対面……そういうことにしておこう」


 バキィッ!


 横でセレーナが扇子をぶち折った音が聞こえる。

 頭を下げたまま、王太子から声をかけられるのを待っている。

 ……多分、般若のような顔をして……


「おお、セレーナ、いたのか」


 やっと王太子の声がかかり、セレーナは弾かれたように顔を上げた。


「このたびはお越しいただき、誠にありがとうございます! 王太子殿下におかれましては……」


 早口であいさつ口上を述べるセレーナだったが、王太子は手で中断させた。


「よい。そんなことより、お主は良い友を持っているな」


 セレーナは燃え上がるような目を私に向けた。


「はい……ありがとうございます……」


 セレーナは、押し殺した声で、小さく答えた。


 ……やっべえ……


********


「空気、読めなすぎだろ! アイツ!」


 私は枕に拳を叩き込んだ。

 王太子レオンは、あの後すぐに帰って行った。

 火に油をぶちまけるだけぶちまいて。


 面目がまるっきり潰れてしまったセレーナは、あの後、真っ赤な顔で部屋を出て行った。

 私も帰ろうとしたが、王太子との仲を嗅ぎ付けた貴族たちの質問責めに捕まった。


 もうね、立場が上の人間しかいないから、ぞんざいに出来ないの! マジ疲れた!


「それもこれも、王太子のせい!」


 枕にモンゴリアンチョップを叩き込みながら、私は吠えた。


「絶対、セレーナが黙ってないでしょ!

 ちょっといい気味だったけども!

 胸はすっとしたけども!

 正直ざまあって思ったけども!


 後がめんどくせえ!」


「……それなのですが、お嬢様……」


 私の寝室のドアを開けながら、クレアが言った。

 声が廊下まで漏れてしまっていたのだろう。


「さっそく、セレーナ様から懇親会のお誘いが来ております」


 動きが速い!


 クレアは困惑した顔で、封筒を取り出した。

 2通。


「2通……?」


 私の困惑した声に、クレアが応えた。


「なぜか、その……


 私もご招待いただいており……」


 へ?

 な、なんで……?




これは、アリシアの恋の物語です。

アリシアは暴れ回っておりますが、恋の物語です。

だれがなんと言おうと、恋の物語です。


次回は、アリシアが噂の人物だとバレてしまいます。


多分、恋の物語です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ