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015_こういうの、ざまあって言うの。知ってた?

 セレーナは顔に緊張した色を浮かべていた。


 ま、そりゃそうよね。王太子に呼ばれて出向いたら、そうそうたる面々に取り囲まれてるからね。

 大貴族の数人は立会人としてレオンが呼んでくれた。

 ここで起こったことをうやむやにされないようにって。ちょっと大げさな気もするけど。


「セレーナ・ルマンド」


 レオンがよく通る声でセレーナの名を呼んだ。


「貴殿にはこのアリシア嬢に睡眠薬を飲ませた疑いがある」


 セレーナはすごい形相で私を睨んだ。


 きっと、また「この虫」とか「虫の分際で」とか思ってるんだろうな……


「詳細は、わたしからご説明いたします」


 リシェルが一歩前に出て、これまた綺麗な声で宣言した。

 次々と美形が美声をはるもんで、なんか芝居のようだ。

 もちろん、今から始まるのは芝居なんかじゃない。モロ本気のガチ断罪だ。


「あの舞踏会の夜。セレーナ嬢から受け取ったお酒を飲んだ直後、アリシア嬢は昏睡状態になりました。

 間違いありませんね?」


「それは、そいつが勝手に……!」


 セレーナの不満たっぷりの言葉を遮ったのは、レオンだった。


「事実かどうか、それをまず答えよ」


 苦虫をかみつぶしたような顔をして、セレーナは答えた。


「……事実です。お酒が原因か、分かりませんけども」


 そう言って、私に目と歯をむいた。

 ホントに私をかみつぶしたいんだろう。


「セレーナ嬢がアリシア嬢に睡眠薬を飲ませたと思われる根拠は、3つあります」


 リシェルは、そんなセレーナの態度にはお構いなしだ。


「一つ。セレーナ嬢は強力な睡眠薬……アコナイトの花を煎じた薬品を一ヶ月前、街の薬師から購入しております。これには街の薬師の証言を得ております」


 セレーナはふてくされたように、顔を横に向けた。


「事実か?」


 レオンの言葉に、セレーナは「はい」とだけ答えた。


「二つ。セレーナ嬢は舞踏会の日、給仕係に奇妙な依頼をしております。

 青色がかったグラスと赤色がかったグラスで赤ワインを提供するように、と。

 これは青みがかったアコナイトの粉末を溶かして赤ワインの色が変わってしまうのを誤魔化すためだと類推されます」


「赤と青のグラスを頼んだのは事実ですわ。

 でも、そんな理由ではございません」


 リシェルが言葉を言い切る前、食い気味にセレーナは口を開いた。


「では、どのような?」


「純粋に、ありんこ……アリシア様とお酒を楽しむためですわ」


「……一旦、動機は置いておきましょう」


 いけしゃあしゃあと言ってのけるセレーナに、一歩引いた形になるリシェル。


 でも気にすることないわ。

 最後の証拠はスゴいからね! そんな余裕でいられるのも、最後よ。セレーナ!


「三つ。こちらは舞踏会の日、アリシア嬢が身にまとっていたドレスでございます」


 リシェルの後ろに控えていた給仕係が前に出て、うやうやしく私のドレスを掲げた。


「胸元にご注目ください。これはアリシア嬢が倒れたときにこぼれた赤ワインによるシミです。

 こちらには青い粉末も付着しておりました。

 そしてその青い粉末が、アコナイトの花の粉末だと分かりました。


 これは、セレーナ嬢がアリシア嬢に渡した赤ワインに睡眠薬が混入されていた、動かぬ証拠と思われます!」


 どうだ! セレーナ!

 ……ってあれ?


「以上でございますか?」


 つまんなさそうに、あさっての方を見ながらセレーナは言った。

 なんだ、なんか妙に落ち着き払ってるけど……


「これらの証拠には、全て説明がつきますわ。

 もちろん、私がアリシア様に睡眠薬など飲ませておりませんので、当然ですけど!」


 セレーナは、自信満々に言い放った。


「まず第一に、アコナイトの粉末は私が自分で飲むために購入したものですわ。

 お恥ずかしいことに、最近寝付きが悪くて……

 それから、先ほども言ったように、グラスの件はただアリシア様とお酒を楽しむためですわ」


 そして、セレーナはため息をついた。


「それから、最後のドレスのシミですか? 馬鹿らしい。

 そちらは私のグラスからこぼれたものですわ!

 ちょうど自分の睡眠薬を服用してましたの。

 倒れたアリシア様を助けようとして、こぼしてしまったのね」


 は!? アンタ、笑って見てたじゃん! 私が倒れるとこ!


「アリシア様! 感心出来ませんわね!

 ご自分の飲み過ぎを、こんな形で人のせいにするなど……


 それは……悪手でしてよ、ありんこ……

 んんっ、アリシア様」


 勝ち誇ったように、セレーナは言った。


 は、腹たつ~!


 しばしの沈黙。重苦しい空気の中、セレーナだけがつんとアゴを上げて笑っていた。


「つまり、私に渡したグラスではなく、ご自分のグラスに入れたと?」


 私は黙っていられなくて、直接セレーナに問いかけた。


「ええ、その通りですわ」


「ご自分で飲むつもりだったものを、間違って渡した可能性もなく?」


 セレーナは勝ち誇ったように笑った。


「絶対にございませんわ。

 間違えるはずがございませんもの!」


「……赤と青、どちらのグラスを私に渡したか、確実に言えますか?」


「ええ!」


 本当なら、睡眠薬の青を誤魔化すため、赤色のグラスに睡眠薬を入れたはずだ。

 だから私には赤色のグラスを渡しているはず……


「私は青色のグラスを渡しましたわ!」


「……間違いなく?」


「ええ、間違いございません!」


 セレーナの断定的な宣言が響いた。


「……お聞きになりましたか? 皆様」


 私は立会人の顔を見回した。


「故意か過失かは定かでありませんが……セレーナ様が私に睡眠薬入りの赤ワインを渡したのは間違いないようです」


 再び、しん、とした沈黙が流れた。


「はあ!? なんでそうなるのですか! 負け惜しみはいい加減になさい!」


 セレーナは苛立ちを見せた。


「もう一度お聞きしますわ。私に渡したのは、青のグラスですね?」


「何度聞いても同じですわ。私は青のグラスを渡しました」


 私はセレーナから、別の人物に目を移した。

 給仕係にエスコートされて、『再び』この部屋に連れられて来た令嬢。

 セレーナの取り巻き。腰巾着。あの舞踏会の日に、セレーナにグラスを渡した令嬢だ。


「では、あなた。つい先ほど、私たちに間違いないと言い切ったことをもう一度お聞かせくださいますか?」


 取り巻き令嬢は真っ青な顔でガタガタと震えていた。


「申せ」


 レオンの言葉に、取り巻き令嬢は観念したように叫んだ。


「私は、青のグラスに……青い粉を入れました……!」


 取り巻き令嬢は言い放って、へたり込んだ。すすり泣きが聞こえる。


「なんで……」


 セレーナは呆然とつぶやいた。


「セレーナ様からお話をうかがう前に、そちらの方にお話をうかがってましたのよ。

 そちらの方は間違いなく、青のグラスに睡眠薬を入れたとおっしゃっておりました」


 最後通牒を突きつけるように、リシェルはセレーナに告げた。

 つまり、セレーナも腰巾着もウソをついたのだ。

 そしてウソとウソが重なり、私に睡眠薬を盛ったという自白になった。


「両方の案内人を通しましたわ」


 私の言葉に、セレーナはキッと私を睨みつけた。


「これはなにかの間違いですわ! コイツが間違えただけで! 私は悪くない!」


 腰巾着をコイツ呼ばわりして叫んだ。


「……少なくとも、混乱はあったようだ。

 状況を見てもアリシアが睡眠薬を飲む羽目になったと考えるのが自然だ。

 そしてその睡眠薬を持ち込んだお前達……

 過失かも知れぬが、しっかりと取り調べする必要があるだろう」


 レオンの宣告に、セレーナはギリギリと歯噛みして悔しがった。


「貴族院にて裁判を行うこととなろう。

 ……セレーナ、お前は昔から余に尽くしてくれたが……残念だ」


 セレーナは10秒ほど目を閉じて、それから、ゆっくりと口を開いた。


「出直しますわ。1度、屋敷に戻っても?」


「構わぬ。だが、王都から出ることは許さん」


 セレーナはお辞儀をして出て行った。

 取り巻き令嬢はしばらくキョロキョロとどうすべきか分からない様子だったが、セレーナを追って部屋を出て行った。


「……セレーナ、夜逃げするんじゃない?」


 私のつぶやきに、レオンが答えた。


「ふ……そんなことはせんよ。余は昔からあの者を知っておる」


 ……ホントかなあ? 私の方が付き合い長いと思うけど、バリバリ伯爵領に逃げそう……


********


 なぜ、私がこんな目に……!

 ルマンド伯爵家令嬢の私が!


 私は歯を食いしばって悔しさを堪えた。


 深夜。地方の領地に向けてひた走る馬車の中。


「本当に申し訳ございません……セレーナ様……」


 涙を流す取り巻きの令嬢。

 本当に、コイツが余計なウソをついたせいで!


 私は胃がひっくり返りそうな苛立ちを押さえ込んだ。

 感情的になって良いことなどない。

 コイツには全ての罪を被って死んでもらわなければならない。伯爵領にさえ連れていけば、コイツは自由に出来る。

 まずは伯爵領に逃れること。それが最優先だ。

 伯爵領にさえ逃れれば、いかに王家でも簡単に手出しは出来ないだろう。あとは再起のシナリオをしっかり練って、それからあの忌々しい虫けらを駆除する方法を……

 ああ、その前にお父様を説得しなければ、悪辣な罠にかかったと、全てはあの毒虫が悪いのだと分かってもらわなければ……


 どん!

 ガガガ!


「キャァァァ!」


 急に強い衝撃が走って、馬車が停止した。

 取り巻きが悲鳴を上げた。


 なんだ、なにが起こった!?


「いやあ、すまんですのお~」


 外から緊張感のない老人の声が聞こえる。


「クマに驚いて急発進してしもうたんじゃ~」


「はあ!? こんなところにクマなんて出るわけが……ああ!? やめろ!」


 御者の怒鳴り声が聞こえる。

 こんなときに事故!? ああ! 忌々しい!


「何事ですの!?」


 馬車の扉を開け放つと、そこに斧を振りかぶったアタマのおかしい女がいた。


「ヒイイイィィィ!」


 思わず悲鳴を上げる。

 女はお構いなしに斧を私の馬車の車輪に振り下ろした。


「クマがあ~クマがあ~」


 わざとらしい老人の声。御者は老人に阻まれて女を止めに来ることが出来ないようだ。


「や、やめなさい!」


 女は止まることなく、斧を車輪に叩きつけ続ける。


 なんでこんな時に、こんなアタマのおかしい連中に絡まれるの!?

 今すぐ王都から出なければならないのに……!


 車輪を破壊し終えた女は、満足そうな笑いを上げた。


「んなぁ、胸がすいたっぺ! お嬢様に仇なす奴ぁ、おらが許さねぇだす。とことんやってやるだっぺ!」


 ……この女、どこかで見たような気が……


「アンタたち! こんなことしてタダですむと思ってるの!?」


 私の叫び声に、女はスッキリした笑顔を返した。


「んなあ、とっくに守衛さんさ知らせてあるだっぺ! 案ずるこたねぇ、すぐさまやってくるだす!

 ひとまず王都さ戻って、んなあ、話はその後で!」


 そして思い出したように、上品な貴族式のお辞儀をした。

 まるでどこかの、貴族つきの侍女のような。




これは、アリシアの恋の物語です。

無事セレーナをとっちめることに成功しましたが、恋の物語です。

だれがなんと言おうと、恋の物語です。


次回は、アリシアが人間不信に陥ります。


多分、恋の物語です。

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