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012_真実はいつも、穴ふたつ……

 地味な侍女の服装に身を包み、私は再び王宮に舞い降りた。


「犯人は現場に戻る……」


 なんとなく口走った言葉に、リシェルが苦笑で返した。


「それだと、アリシアが犯人……?」


 リシェルはメイド服を着ている。

 ピンクの髪の中、白いレースをあしらったカチューシャがまばゆい。


 ……なんだろう、私と同じように変装しているはずなのに、私と違って変装になっていない。

 似合ってないわけじゃない。逆なのだ。似合いすぎている。

 夢への道程をひた走る若者が理想のメイドを思い描いた姿……みたいな。もう現実感がない。


 完全無欠に侍女として溶け込んでいる私とは大違いだ。


「セレーナから飲み物を受け取ったのは、このあたりでしょうか?」


 いや、溶け込むくらいに似合っている、と言う点では、むしろ私の勝ちではないか?

 きっとそうだ。うん。そう思っておこう。


「アリシア?」


「あ、ごめん。こんなメイドさんが家にいたら、絶対に押し倒してやるのにな、ぐへへとか思ってた」


 リシェルは胸元を押さえて身を引いた。


「もう、冗談ばっかり……なにか証拠になりそうなもの、探しましょう?」


 リシェルの言葉に、私はあらためて周囲を見渡した。


 ここは王宮のダンスホール。

 セレーナから例のグラスを受け取った場所だ。

 なにか少しでも残っていれば、と来てみたがなにもなさそうだ。

 私が倒れたときに、こぼれただろうお酒のあともない。さすが王宮。絨毯ごと代えたんだろうか?


「もう何日も前になるものね……」


 そう言いながらも、リシェルは四つん這いになって床を探し出した。


 自国では高貴な生まれだろうに、よくやるなあ……


 リシェルのお尻のふりふりを見ながら、私はまるで他人事のように思った。

 と、リシェルのお尻に注目しているのは自分だけじゃないことに気がつく。


「HEY! お前!

 なに無料で極上体験してんだ!」


 足を止めてリシェルのお尻に見惚れていた給仕係の男を、私は強い口調で咎めた。


「あ、いえ、私は……」


 私の剣幕に驚いた給仕は、もごもごつぶやきながら立ち去ろうとする。

 その首の後ろ襟を私は掴んだ。


「おいおい、逃げんなよ! なんもなしで帰すと思ってんのか?」


 クレアのたまにこぼす田舎風の言葉で威嚇する。 


「……なんだ、キミらは!? 見たことない顔だな!?」


 給仕係はビビった顔を見せながら、虚勢を張った。


「まあまあ、そう言うなよ、ブラザー。

 ……ここだけの話ね、私らは実はとある令嬢なんよ」


 実際、王宮に入るときはちゃんとした格好で入ったからね。

 この格好は、王宮内で目立たず調査するためね。


「……な、なるほど……」


 給仕係はリシェルを見てうなづいた。

 いや、私もよ?


「一週間くらい前の舞踏会、ここで男爵令嬢が倒れたの。

 その時のこと、知ってる人いない? なんでも良いから、知りたいの」


「一週間というと、あのハダカの女の……?」


 食い入るようにリシェルを見つめて、給仕係が言った。

 私の方には目も向けやしねえ。


「その日の前日よ。

 ちょっと仕事仲間に聞いて回って欲しいのよ。

 

 なんか見つかれば……」


 私は給仕係に耳打ちした。


「あの子が、イイコト、してくれるから……」


 給仕係は驚愕の表情を浮かべて、それから、うなづいた。

 そして、ふらふらとどこかに歩き出した。


「アリシア? どうかなさいました? 今の方は?」


 リシェルが私の方を振り返って、聞いた。


「よくやったわ、リシェル。

 今のは、あなたのおかげで得た、協力者よ」


「ええと……?」


 リシェルはキョトンとした顔をした。

 うん。かわいい。


********


 次に向かったのは、VIP向けの控え室。

 私と王太子が、その、一夜を共に……いや、この言い方だとマズいな。ハダカで同衾……いやいや。……なんか一緒にいた部屋だ。


「こっちでは、なにか見つかるかしら?」


 リシェルは再び床に這いつくばってお尻をフリフリし始めた。

 ひょっとして誘ってるのかしら?


「うーん、とは言ってもねえ……」


 この部屋も綺麗に清掃されている。

 なにかあればと思ってきたが、ちょっと無謀だったかな~……


 ……そういえば、私のドレス、どうなったんだろ?

 いや、ドレスだけじゃなくて……その、下着もあったはずで……


「やっぱ、だれかに聞くしかないか……?」


 私のつぶやきに、リシェルのお尻が答えた。


「そうそう、事件関係者を呼びだしてるのよ。とっ捕まえて尋問しましょ、尋問」


 物騒なお尻だこと。


 それにしても関係者……? 誰のことだろう?


 答えは、すぐに、ノックもせずに現れた。


 がちゃり。


「ここか?」


 え……? ちょっと……?!


 ドアを開けて、キラキラと輝くエフェクト(埃?)をまとって登場したのは……


「レオン……!?」


 アンタ、そんな気軽に出てきて良い身分ちゃうやろ!


「レオたん、おそーい」


 レ、レオたん……?


 リシェルのレオたん呼びに私はあわてふためく。

 この子、最初っから距離感おかしいと思ってたけど!


「なんて格好をしているのだ、お前は……」


 立ち上がったリシェルのメイド服を見て、レオンは呆れた声をもらした。

 リシェルはそんなレオンにお構いなしで、私に目を向けた。


「ほら、重要参考人」


 いやいやいや……!

 王太子殿下ってそんな呼び出せるもんちゃうで?!


「……ありんこか?!」


 レオンは私に気がついて、嬉しそうな声を上げた。


「なんだなんだ、お前までそんな格好で!」


 無邪気に、嬉しそうに、私に笑いかけた。


「あ……」


 なにか返事しなきゃ、と口を開けたんだけど。

 鮮やかな青の瞳が、私の心を吸い込んだみたいに。


「あぅあぅあぅ……」


 私のあいさつは人語にならなかった。

 湯気が出てるんじゃないかってくらい、顔が熱い。


「はは……どうしたのだ? ありんこ?」


 私の謎あいさつに、レオンはやや引いた笑いを浮かべた。


 いや、違う……! 違うんだ! なんかその……

 そ、そう! 前、手を払いのけちゃったから! だからその、なんか、緊張して!


「あぅ……」


 私はやっと、そう口からもらして、うつむいた。

 全身の血が頭と顔に集中して沸騰してるみたい。


 ダメだ! なんかもう、なんかダメだ!


 ああ、バカだな、私! なんでこんな格好しちゃったんだろ?

 王宮来たらレオンに会うかも知れなかったのに! いや、普通は会わないけど! あと別に会うにしても気合い入れる必要とか無いんだけど!

 ただ、あれだし? イケメンにあてられて舞い上がってるだけだし? レオンがイケメンなのは今に始まった話じゃないし? 別に平気だし?

 ……ただ、あの日、私のために怒ってくれたのが、嬉しかっただけで……

 私の……ため……?

 あれ? レオン、私のこと、ひょっとして……あれ……?


「ぐるぅべぇええぶちゃぼえええっぇえぇぇぇ!」


 私は令嬢にあるまじき叫び声を上げて飛び退り、ベッドに倒れ込んだ。




これは、アリシアの恋の物語です。

緊張してとんでもない醜態を晒していますが、恋の物語です。

だれがなんと言おうと、恋の物語です。


次回は、アリシアの抜け殻が王国の至宝になります。


多分、恋の物語です。

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