第7話 ♡
さっきの水魔法、彼が使ったの?魔法を使える人に会ったのは初めて……
良い人そうだし、後で彼に魔法や異世界、つまり日本に帰る方法について聞けるかもしれない。
そう考えると、アスタリアの心臓がちょっとドキドキする。
そういえば……こんなに美しい人見たことない。
日本にいた時も、この世界に来てからも。
彼は旅人だって言ってるけど、馬車とか雰囲気からして、どう考えても貴族っぽい……。
さっき水でできたイルカを見たことで、敵ではないと分かった今、あのイルカがなんだか可愛く思えてきた。
目の前の人は、優しい海とイルカみたいに、広くて穏やかで、人に優しい感じがする。
でも、もし海みたいな人なら、無限に深い青があって、予測できない底知れぬ怖さもあるのかも……?
でも今は、とても心地いい感じがしてる。
アスタリアがそんなことを考えていると、カイスは彼女の顔を見て、ほっとしたみたいに微笑んだ。
それは、アスタリアが彼の腕の中で驚いたり緊張したりしてなかったからだ。
カイスの目には、アスタリアがしばらくぼーっとしているように映った。さっきの素早くて敏捷な反応とは全然違って、今はただ自分の顔をじっと見つめている、何か考え込んでるみたいに見えた。
「大丈夫かい?」
カイスはできるだけ優しくアスタリアに尋ねようとする。
こんなふうに優しく声をかけたのは、彼には実は初めての試みだったんだ。
その時、カイスの隣にいた人が素早く山賊の倒れた場所に駆け寄り、武器を回収しながら周囲の片付けを始めた。
御者は何事もなかったかのように位置を調整し、カイスの背後に静かに立った。
どうやら、彼らは護衛らしい。
アスタリアは手を伸ばしてカイスを支えようとしたけど、それがまるで相手の後ろ首に手を回そうとしてるみたいに見えた。
カイスの体がほんの少し震える。それはアスタリアの思いがけない動きに無意識に反応したからだ。
実はこれが、カイスにとって初めて女の子をお姫様抱きする経験だ。アスタリアが身じろぎするため、思わず体に力が入ってしまう。
それに加え、アスタリアがじっと見上げてくる視線に、カイスの耳たぶが赤くなり始めている……
カイスは至近距離で、さっきの激しい戦闘をくぐり抜けた女の子の髪や外套のフードに木の皮や葉っぱがくっついているのを見ている。珍しいピンク色の髪は無造作にローポニーテールに結われている。
その少し乱れた姿がカイスの目に映り、不思議と目を引きつけてやまない……
ちょっと変わった服を着た平民の女の子っぽくて、顔は自分と同い年くらいに見えた。
目はキラキラ輝いている……
今、自分の腕の中で自分を見つめていて、次に自分の首に手を回そうとしているみたいで……。
さっきの出来事で、カイスはこの子がただものじゃないって気づいた。彼女の戦闘能力が非常に高く、自分の護衛より強かった。
自分の護衛が心配でたまらない顔をしているのが目に入った。
こんな強力な見知らぬ人と近距離で接触するのを警戒してるんだろう。
でも、カイスにとってアスタリアは、目が離せないほどの輝きを放っている。
自分が皇宮を出たのは、この世界をリアルに、ちゃんと知るためだ。
――彼女はきっと、この辺りの民衆を山賊から守ろうとしているのだ。
アスタリアの手が伸びてきた瞬間、カイスはちょっとドキドキした。
アスタリアは両手でそっとカイスの肩に触れて、そっと言った。
「私は大丈夫です。」
カイスはそれを聞いて、ゆっくりアスタリアを下ろした。
アスタリアはカイスに触れていた手をそっと引っ込めながら、「さっきの出来事で、魔法を使わずに着地したら、彼や馬車にぶつかってしまう……」と静かに考えている。
「ありがとう。」
二人はお互いを見つめ合っている。
ほぼ同時に口を開くが、アスタリアの声はわずかに小さかった。
「僕たち一行を助けてくれてありがとう。君はどこかに行くの?」
カイスはすぐに微笑みながら言った。
アスタリアは心の中で考えている。あなたの行く先がどこであれ、私もそこに行くって答えるつもりだった。
魔法のことを聞かなきゃ、日本に帰る方法も知りたい。
でも、魔法の話って秘密だったりするのかな?
私の目の前で使ったんだから、少しくらい話してくれるかも…?
アスタリアは、どうにかして彼らに近づく方法を考えている。
「私はアスタリア、この国から来た旅人です。あなたたちはどこへ行くのですか?」
カイスは、アスタリアが旅人だとわかると、ほっとしたように安堵の息を漏らした。
そして今も、アスタリアと一緒にいられる方法を考え続けている。
「僕たちは次にフラマリスの王都に戻る予定だ。ここで数日過ごすこともできるし、他の場所に行くこともできるけどね。」
カイスは、他の場所に向かうこともできるとほのめかしながら、少し控えめで柔らかな微笑みを浮かべた。
アスタリアは疑問に思った。国境を越えたばかりで、他に行く場所があるはずだ。それなのに、どうして戻るのだろう?まさか、目標も山賊なのか?
フラマリスの王都って、もともと自分も行くつもりだった場所で、この世界で一番繁華な港町だ。彼らと一緒に行くチャンスあるかな?馬車って自分の魔法の道具よりも遅いけれど。
「私もフラマリスの王都に行くんです。」
「それなら良かった。もしよければ、一緒に僕の馬車に乗って行かない?」
アスタリアの心がドキドキする。すべてが自分の望む方向に進んでいるからだ。
カイスの心もドキドキしてる。
彼女、いいって言ってくれるかな……。
「喜んで。ありがとうね。」
アスタリアは嬉しそうに笑顔を浮かべた。