第6話 ♡
アスタリアは警戒しながら即座に振り返り、水でできたイルカのような存在が地面から跳び上がり、山賊の頭目を突進して倒す光景が目に飛び込んでくる。
山賊の頭目が倒れる勢いで、手から斧が離れ、空中で高く弧を描きながら、馬車脇の二人を直撃しそうな角度で飛んでいる。
アスタリアは魔法で強化された体を活用し、瞬時に馬車の方向へ跳躍して、斧の柄をしっかりと掴み取る。
空中の勢いでアスタリアの体はそのまま馬車の方へ飛んでいってしまう。
アスタリアは空中で素早く身を翻し、体勢を反転させて斧を路肩の茂みに向かって投げ捨て、他者に危害が及ぶのを防いだ。
残る問題は、空中から落下する際に馬車の扉付近に立つ二人とぶつかる恐れがあることだ。
その時、地面に再び水の花が咲くように現れる。
今度は、花の中心から、水でできたイルカのような二体が、ぴょこんと飛び出し、アスタリアにぴゅーっと近づいてくる。
アスタリアはその目標が自分であることを確信した。
一体の水でできたイルカがアスタリアを取り囲むように動き、もう一体が軽くアスタリアを持ち上げようにする。
アスタリアはグッと光の盾を強めた。(次に何が起こるのか、予測が難しい…)身構えて、鋭く見回す。
アスタリアは、たった四回実戦経験があり、そのうち二回は幼少期のものだ。
この予想外の魔法で作られる物体がそばに近づくと、アスタリアは目を見開き、微かに声を漏らした。
「…っ」
アスタリアが知る限り、この世界のほとんどの人々は魔法の存在を知らない。自分自身を除いて——それがアスタリアの認識だった。
そして、自身の魔法はとても強力だ。ゆえに、魔法といえば強大な力であるという認識も持っていたのだ。
アスタリアは戦闘中に思考を駆ける。それは水の魔法だろうか?使い手は馬車から降りてきた人だろう。敵か味方か、もう私の魔法が見抜かれているかもしれない。
それなら、自分自身が危険にさらされるかもしれない。
魔法を制御するには二つの方法がある。自分で学ぶこと、しかしこの世界のほとんどの人は学べないようだ。もう一つの方法は、魔法を使える人を制御することだ。
この二つの水でできたイルカが、アスタリアの空中での慣性移動を止めた。
触れると、少し柔らかく弾力のある感触が伝わってくる。
(もしかして、そのイルカ…馬車の人が私を守るために作り出したの?さっき背後から襲おうとした盗賊の頭目を倒してくれた…)
アスタリアは馬車から降りてきた二人に視線を向けようとしたが、水でできたイルカに遮られた。
しかし、すぐに水でできたイルカは徐々に消えていき。
「馬車から降りてきた二人は水色の髪の少年と……」そう思った瞬間、水色の髪の少年が馬車のそばから前に出て、空中で落ちかけた自分を横抱きで受け止め、お姫様抱っこの姿勢で抱えている。その腕が優しく支えてくれている。
15歳くらいの少年で、水色の髪と、地球のような深い青い瞳を持っている。
目の前で少し頭を下げ、優しく抱きかかえながら、申し訳なさそうに微笑んで、まるで心に触れるかのように温もりのある穏やかな声で話しかけてくれている。
「ごめん、びっくりさせたくなかったんだ。勝手に触れて受け止めたら君を驚かせてしまうかもしれないと思って、魔法で安全に着地させようとしたんだ。
でも、やっぱり驚かせちゃったみたいで、結局抱きとめてしまった……ごめんね、大丈夫かな?」
「僕の名前はカイス、フラマリス国から来た旅人だ。よろしく。」