第5話 ⚔ ◆主人公の挿絵あり◆
次の日。
ここは山岳地帯の要衝に築かれた国境監視所である。
両国はそれぞれ独立した石造りの砦を有し、両国の衛兵が警備を敷いていた。
周囲には切り立った断崖と樹林が生い茂る密林が広がり、その険しさはまさに天然の防壁と言える。
アスタリアは、大きな木の枝に腰掛けて、国境の関所を眺め、密林の鳥のさえずりに耳を傾けている。
昨日、盗賊の件は解決した。
アスタリアは今、国境線で、アンナ一家と小さな町を悩ませている山賊の問題を解決するつもりだ。
また、アスタリアは自分の戦闘力が多人数を相手にした実戦でどれほど通用するかを試したいとも思っている。
一人で武器を持った複数の山賊を相手にできれば、もっと自信がつくはずだ。
平民という立場上、アスタリアが剣術の師匠以外の強者と戦う機会は非常に限られている。
たまに、剣術の師匠の騎士や剣士の友人がやって来ることもあり、そういった時に多人数を相手にした戦闘を経験できた。
山賊たちはおそらく、特別な戦闘技術は持っていないだろう。
しかし、多人数を相手にする戦いでは、状況が瞬く間に変わる。だからこそアスタリアは、真の戦い方を知るには、実戦で経験を積むしかないと考えていた。
密林に住む小鳥たちの話によると、山賊たちの木屋と彼らがよく待ち伏せする場所も分かった。
しかし、アスタリアが期待に胸を膨らませて周辺の大きな道を歩き回っても、山賊たちは木々に隠れるばかりで、アスタリアに手を出そうとはしない。
アスタリアは、自分の装いが金持ちに見えないかもしれないと分析した。
仕方なくアスタリアは木の枝に腰を落ち着け、裕福そうな通行人が現れるのを待つことにした。
待ちくたびれた頃、ようやくガーネットから速報が届き、一台の馬車が通ることが知らされた。
アスタリアは急いで山賊たちの近く、道沿いの茂みの中へと身を潜めた。
通りかかる馬車は、どこか華やかで新しく、美しい雰囲気を漂わせていた。
馬車の前方には黒髪で肌が少し黄みがかった、痩せているが筋肉質な男の御者が座っている。
その馬車の中には恐らく裕福な人々が乗っている。
アスタリアは、これが絶好の機会だと感じる。
森の静寂を破り、隣の林でバサッと羽音が響くと、小鳥の群れが一斉に飛び立った。
次の瞬間──地を揺るがすような野太い声が轟いた。
「金を置いていけ!通してやる!中の奴ら、出てこい!さもなくば容赦しないぞ!」
その声の主は、浅黒い肌にがっしりとした体格の山賊頭で、森の闇からゆっくりと姿を現した。
茂みに隠れているアスタリアも内心ドキドキする。
予想通り、山賊たちは密林から飛び出し、馬車を包囲した。
馬車はその場で停まり、約11人の山賊たちは、目の前の獲物に目を輝かせていた。
山賊の頭目は大きな斧を握りしめ、他の山賊たちは錆びた剣や斧をそれぞれ構えている。
アスタリアにとって、目立たずに魔法を使いながら11人を倒すのは少し難しい。
しかし、挑戦したくてたまらないアスタリアは、密林から出て山賊たちの背後に現れた。
アスタリアは息を深く吸い、身体の力を込めて威圧的な声を発する。
「私はお前たちの新しい首領だ。山の小屋の戦利品は全て私のものだ。お前たちは鉱山で働け、生き方を改めろ。もう悪事は禁止だ。町の経済に悪影響を及ぼし、多くの人々が影響を受けることになる。」
山賊たちは驚いて背後を振り返り、警戒しながらアスタリアを睨む。
山の小屋って!?この人はなぜ自分たちのアジトを知っている?まさか地元の役人の者か?
だが次の瞬く間に、山賊共はハッとした。
こんな戯言を吐いてるのは、小娘一人きりじゃねえかー
目の前に突っ立ってるのは、背が高く、ピンク色の髪を低いポニーテールに縛った、水色のフード付き服を着た女だ。馬車の連中と関係ねえらしいな。
だが、山賊共はアジトの場所を暴かれるのを何より恐れていた。
その恐怖が、馬車の連中にこの女がアジトの場所を喋っちまった今、焦りに変わり始めていた。
今まで隣国の金持ち旅人を狙い、地元の役人の目を掻い潜ってきた。
そして、巧妙に据点小屋を隣国の山林に置き、たとえ地元の役人が探しに来たとしても、隣国の山まで踏み込む度胸はないだろう。
この国境地帯は、国境監視所を除けば、急な山岳地帯と密林が広がっている。
この道は防衛がしやすく、隣国からの攻撃を受けにくい。
だからこそ、この辺の役人たちは兵力を有しながらも、すっかり油断していた。
だが、目の前のピンクの髪をした少女は、間違いなく面倒な存在だ。
山賊はただ金を奪いたいだけで、戦う必要はないと考え、まずこの子を片付けてから馬車の一行を対処するべきだと判断した。
「まず小娘を始末しろ!」
山賊の頭目が斧の柄を振り回して命じた。
「オラァ!」
手下たちが「うおおおっ!」と怒鳴りを上げながら武器を構える。
(よし、うまく引きつけた。)
アスタリアはほっと一息。すべての展開は思惑通りだった。
アスタリアは、自身の戦闘技術にさらに自信を持つことを心待ちにしていた。今、胸が高鳴り、心臓がドキドキと跳ねるのを感じている。
魔法を隠しつつ1対11で戦う――それがアスタリアの目下の課題だった。
だがアスタリアは周到な準備を整えている。
アスタリアは口元をほころばせながら、心の中で「来た、戦いの時だ」と思った。
その瞬間、馬車の扉が開き、二つの人影が降りてきた。
御者もいつの間にか剣を取り出し、戦闘態勢に入っていた。
(えっ、あの御者、実は戦えるタイプなの!?)
アスタリアにとって、これは予想外の展開で、望ましくない状況だった!
新たな課題が加わった──馬車の人たちが動き出す前に、11人の山賊を倒さなければならない!
アスタリアは焦って素早く動き、錆びた剣を構えて突進してくる山賊に鉄線製の鎖を投げる。
鎖が空気を切り裂く鋭い音を立て、捕まえた山賊を道路脇へ振り払う。
この投げ縄は事前に金属線で鉄線鎖を作り、服の中に隠していた。
その後、馬車に最も近い山賊に向かい、鞘から抜いていない二本の短剣を投げる。
魔法で身体と短剣を強化していたため、意図的に短剣の金属製の柄で山賊の頭を直撃させ、山賊を倒す。
これにより、馬車の御者に最も近い敵を一瞬で奪い去った。
さらにもう一つの鎖が馬車に近づく別の山賊に投げられ、再び道の脇に投げ飛ばされ、今回は投げ飛ばした山賊が他の二人の山賊にぶつかり、一石三鳥となった。
山賊が「くそっ!」という声を絞り出す間もなく、「どすん!」という体が泥土に倒れる音、手放した武器が「どさっ!」と泥の中に落ちる音が入り混じっている。
すでに六人の山賊が倒れ、武器を投げたため、残りの山賊は近距離戦しかない。
アスタリアは斧を持った山賊に突進するや、素早くその斧を奪い取り、山賊の頭部に拳で一撃を加えて素手で倒す。
山賊が気絶して倒れている瞬間、アスタリアは素早くその斧を奪い取る。
次の瞬間、アスタリアは山賊たちの間を縫うように動き、周囲の山賊を次々と叩きつける。刃ではなく、鈍い斧の背での打撃で、敵は空中に叫び声を残しつつ芋蔓式に崩れ落ちている。
この一連の流れは瞬時に起こり、その光景に、山賊たちも馬車の人たちも目を奪われている。
実は、アスタリアがこれほど急いでいたのは、実戦のチャンス――つまり「獲物たち」を馬車の御者や馬車から降りてきた二人に奪われたくなかったからだ。
故にアスタリアは全神経を戦闘に集中させ、素早く戦闘を制する。
アスタリアは山賊の頭目以外の最後の山賊を、一瞬で仕留める構えだ。
こうして、残るは山賊の頭目一人だけ、彼はアスタリアの背後にいる。
予定通り、最後の敵を気絶させた瞬間、アスタリアは体を回転させ、斧の刃がない部分を山賊頭目に向けて投擲する。一撃で、彼を完璧に気絶させるつもりだ。
背後を山賊の頭目にさらけ出すことにしたのは、アスタリアが仕掛けた罠だった——山賊の頭目が逃げることなく、逆に攻撃しようと誘い込むためだった。攻撃しようとした瞬間、その隙こそ斧を投げる絶好の機会だった。山賊の頭目に回避の隙を与えない。
背後の山賊の頭目の動きが見えないこと——木の上に潜むルビーが、テレパシーでアスタリアに情報を伝えているのだ。
仮にこの戦術が失敗しても、光の盾は山賊の攻撃を防ぎ、自身に傷はつかない。しかし、魔法を持っていることを他人に気づかれないことだけが完璧な勝利だ。
山賊の頭目は、果たしてアスタリアの背後方向に斧を振り上げ、攻撃しようとする。
しかし、その瞬間——アスタリアは周囲の地面に青い水の輪が浮かび上がる。
これが実戦で起こる予期しない出来事なのか?!
それは誰の魔法だ!?