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第17話 ⚔

 アスタリアはそのまま無事に魔界の上空を通過した。


 夜明けには目的地に着くだろうと考えつつ、

――魔界の生き物や空飛ぶ鳥と話せば、魔界のことが分かるんじゃない?

 とふと閃いた。


(帰り道で試してみよう。)


 夜明けに、アスタリアはブリランディアの風景が異なっていることに気づいた。

 ここは、より北に位置する温帯の地で、果てしなく植生に覆われた渓谷と蛇行する川が眼下に広がっていた。美しい眺めだった。

 でも、アスタリアにそんな景色を楽しむ余裕はない。


 視界の果てに、渦巻く濃煙立ち昇り始めていた。


(この国の景色を楽しむのは、また今度にしよう。)アスタリアはため息をついた。


耳元に風が吹きすさび、ごうごうと燃え盛る鮮やかな炎が視界に迫ってきた。


(ついに……森林火災の現場に到着した。)


 さらに近づくと、「ボウボウッ!バチバチッ!」という炎の唸りが、絶え間なく耳を打ってくる。

 火災前線の縁には、曲がりくねった炎の鋭い光条が走っている。炎の舌が、まだ燃えていない森へ貪るように迫ってくる。


 アスタリアはどう対処するかを考える。


(まずは火災の範囲を把握……光の盾で煙や高熱の害から身を守れる。魔法の乗り物から落ちたら高温で危険だ。火の海を迂回しつつ地形と風向きを確認――)


 アスタリアは勇敢に燃え盛る地帯の外縁へと飛びながら、新たに延焼しようとしていた火の舌を光の盾で消し去った。

 今のところ、それほど難しくはないように思えた。


 濃煙はまるで巨大な動く灰褐色の毛布のように、空を覆い尽くすように渦巻いている。


 空を喰らう濃煙の中、アスタリアの影は小さく見えた。


 高空にいるアスタリアの視界は、煙幕に遮られていて、かえって全貌が掴みにくかった。薄い煙の隙間から覗くしかなかった。


 煙の下層では、黒や焦げ茶の粒子が躍っている──完全に燃え尽きていない炭素の粒子だ。


 熱気のせいもあって、目の前の景色は揺らめいている。

 それにしても、これほど間近に火の海を目にするのは初めてだった。


 光盾が高温の空気や有害ガスを遮ってくれたから、刺すような臭いも息苦しさもなかった。

 アスタリアは風向きと燃えている範囲を確認すると、木々が茂る下風側の地点を選んで光の盾を展開した。

 その後も魔法の乗り物で火海の周縁を巡りながら、盾を絶えず張り続ける。

 数時間耐え続け、火勢の拡大は抑えられていた。


 けれど、何日も燃え広がってきたこの火の海に対して、盾で守れる範囲なんて、ほんの縁にすぎない。この消火対策が本当に効果を発揮しているのか――アスタリアには、どうしても確信が持てなかった。


 光盾をかけた区域の木々は燃えなかったが、すぐ隣で燃えている場所がどうしてこんなに長く燃え続けるのか。焦げた木がくすぶっているせいなのか……。


 もし、くすぶっている火を止められれば、炎は消えるのだろうか?

 でも、私の光魔法は温度を上げることはできても、下げることはできない。水魔法は自分の領域じゃない。


 アスタリアは焦って考えを巡らせる。


 来る前には、周辺の植物に光の盾を張っておくことしか考えていなかった。

 だけど、実際に現場に立って、森林火災の実態が目の前いっぱいに広がっているのを見て、状況が分かった。


 炎は一本の火線となって森を一気に駆け抜け、表面の草木は瞬く間に燃え尽き、低木は黒く変色する。太い幹や枝の内部では、火が通り過ぎたあともじわじわと燃え続け、そのくすぶりが森を一日中蝕み続けるのだ。


 ……だったら、もういっそ、風下側の、燃えているところも、まだ燃えていないところも、まとめて全部に光のシールドを張ってみよう。


 アスタリアはさらに高く飛び上がり、光の盾を最大限に張って、自分の限界に挑む。


「よし、とにかく…『光の盾』展開!」


 アスタリアが気づいたのは、『光の盾』が張られている間は炎が消える、ということ。

 でも、盾を解除した途端、また燃え上がる。たぶん、木々の内部の温度がまだ高すぎるんだ。再燃しないレベルまで下がるまで…とにかく維持するほかない。


 時間がゆっくりと過ぎていく。

 とった作戦が効いたのか、火勢は明らかに弱まりつつあった。


「終わるまで耐えれば…それで帰れるんだから…」アスタリアは自分に言い聞かせる。

 しかし、次第に体に疲労が重くのしかかる。


(休みたい……)


 普段なら、一度張った光の盾は維持も簡単だ。

 でも今回は違う。巨大な光盾が魔力を絶えず消耗するので、

 アスタリアは魔力を注ぎ続けねばならなかった。


 既に正午。

 アスタリアは自分が耐えきれず倒れてしまったらどうしようかと心配し始めた。

 耐えきれなかったら、それで失敗になってしまう。


(極端に疲れた状態では、倒れたくなくても無意識に倒れてしまうだろう……)


 熱と酸素の激しい反応で上昇気流が膨張し、「ゴウゴウ」と唸りながら渦を巻いた。 

 炎に包まれた木々は絶え間なく「バチバチ」「パチン!」と爆ぜ、怒りに満ちたように地面が震えるたび、巨木が轟音と共に崩れ落ちた――どの幹が裂け、どの大木が倒れるか、誰にも予測できなかった。


 アスタリアの焦りが増す。


(どうすればいいだろう……森林火災なんて、現代でも難しい問題だ……)

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