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第10話 ♡

 翌日の午後、フラマリス国の海辺の都市に到着した。ここは、美しい砂浜で名高い場所のようだ。


「アスタリアさん、前に3部屋予約していたのですが、今はレナールがいないので、よければ、その部屋をご利用いただけませんか?」


「いいよ。」


 カイスはアスタリアが承諾してくれたのを見て、内心でほっと一息つく。


 アスタリアは相変わらず純粋な表情だ。

 しかし、馬車が目的地に着くと、象牙色に青と金の装飾が施され、庭園と中庭を持つ海辺の三階建ての豪華な建物が目の前に現れる。


 アスタリアは目の前の豪華な建物を見上げ、思わず心の中でつぶやいた。


 今着いたこの旅館、きっとこの都市で一番ゴージャスな旅館に違いない。

 カイスに「レナールの空き部屋を使っていいよ」って言われて、軽い気持ちで引き受けたけれど、まさかこんなに豪華な貴族専用旅館だったなんて。昨日泊まったのは普通の旅館だったのに。……こうして考えると、カイスが貴族専用の旅館に泊まるの、むしろフツーだよね。


「3階のテラスも前から予約してあるんだ。夕飯をそこで食べられるよ。一緒に行ってくれるか?」


 その一言に、カイスの胸はドキドキと高鳴る。アスタリアは、それに気づくことはない。  


「うん、私もテラスを見てみたい。」


 アスタリアはまた満面の笑みで答えた。


 実はテラスは同じ階にあり、アスタリアは自分の部屋に荷物を置いた後、一人で先に散歩しようと思い、テラスへ向かって歩き始めた。


 アスタリアがテラスに近づくと、目にするのは白い曲線の欄干で囲まれた広々としたテラスで、青いテーブルクロスが掛けられたテーブルには真っ白なパラソルが備えられていた。


 テラスから見えるのは、深い青色の海の水平線と澄み渡る青空が交わる、灰金色の砂浜の海岸線が一望できる景色だ。


 アスタリアの目の端に、テラスの隅に立つ金髪の少年の姿が映った。


 海辺からの柔らかな風に包まれ、なぜか胸が少し高鳴るのを感じる……


「アスタリアさん、僕はこっちだよ。」


 その声を聞いて、思わず体がそちらを向く。

 金色の髪の下にあるどこか安心できるようなカイスの顔と、地球のように深い青を宿した彼の瞳と、ふと目が合う……


 カイスが歩み寄ってくる。

 アスタリアは金髪のカイスにまだ慣れていないけど、ゆっくり近づいていった。


「アスタリアさんは少し準備が必要かもしれないと思うから、後で部屋の前に行って声をかけるつもりだった。」


「うん。」


「実は……前までは青いウィッグをつけてたんだ。ずっとアスタリアさんに話したくて。」


 戦闘時以外、アスタリアは低いポニーテールにしていることはなかった。

 海風がアスタリアの髪をふわりと舞い上げている。


「めっちゃかっこいいよ。」


 アスタリアはさらにかっこよくなったカイスに少し戸惑ったが、それでも楽しくて素直に心からの本音を口にした。


「ありがとう。」


 その瞬間、カイスは顔を赤らめて下を向いてしまった。


 アスタリアはそのことに気づかず、リラックスして海岸線を眺めた。


「僕はずっとアスタリアさんは魅力的だと思っていた。」


「へへ、ありがとう。すごいきれいな景色だね。」


「うん。」


「でもテラスにはただ私たちだけだね。」


「このテラスを1日予約したんだよ。」


 カイスが答えた。


 アスタリアは海辺を見つめ、海風の心地よさを楽しむ。


 一方、カイスはアスタリアをそっと見つめたくて、目を逸らさざるを得ない心が揺らめき、結局同じように海岸線を見つめながら尋ねた。


「アスタリアさん、王都に着いたら、どこに住むつもり?」


「たぶん家を借りて、それから短期の仕事を探そうかな。ところで、家を借りるところの人たちって、外国人にも優しいのかな?」


 アスタリアがその言葉を口にしたとき、カイスの目には彼女が普通の平民の少女のように映った。

 その普通さが、なんだか愛おしく、切なく感じられた。


「優しいよ。」


 カイスはアスタリアを守りたいという気持ちが胸に湧き上がってきた。


「僕は皇宮で働いてるんだけど、アスタリアさんも皇宮で働いてみない?快適な住まいも用意されるし、

 戦闘の特技を活かして護衛を兼業することもできるし、図書館の管理人を兼任することもできるよ。

 兼業として働くなら、時間の融通もきくから、長期間の旅行に出ることもできると思うんだ。」


「フラマリス王立学園では、『自由学生』として申請することもできるんだ。この身分は、通学と休暇を自由に選べる上に、寮にも住める。

僕も今、『自由学生』の身分で、こうやって旅に出られてるんだ。」


「ふふ」


 アスタリアは軽く応じた。


「じゃあ、皇宮で働くなら、カイスだけを守るようにお願いできるかな?」


 アスタリアはにこにこしながら振り返ってカイスを見た。


 その答えにカイスはかなり驚き、照れくさそうになったが、少し嬉しそうに答えた。


「できるよ。それにフラマリス王立学園では、貴族が護衛を連れて入学することも認められてる。護衛なら試験を受けなくても入学できるんだ。」


(あれ、カイスって、ずっと私が学校に通えるようにって計画を立ててたのかな?どうしてだろう?)


 26歳の自分にとって、長年の学生生活の経験もあって、学校に対して特別な興味はなかった。


 カイスが気にしているのは、私が15歳にして、あまり学校に通ったことがない子に見えるってことだろう。この世界では、平民の多くが学校に行く機会を持っていないからね。


「ありがとう。快適な住まいがあるのはすごく素敵だけど……まずは自分で仕事を探してみようかな。

 必要なときは君に助けを求めるからね。」


(皇宮の仕事って、真面目にやらなきゃいけない感じがするし、カイスが勧めてくれた仕事をしながら休みがちだとまずいね。

 私はやっぱり短期の仕事だけして、もっと自由に旅に出られるようにする。)


 実はアスタリアは魔王を探しに行きたいと思っていた。

 それが有望な手がかりに思えたからだ。


 しかし、カイスにあまり迷惑をかけたくなかったし、カイスの言葉を無視したくもなかった。

 頭の中でカイスの声が響いた。「魔王を探しに行くなら、ぜひ僕に手伝わせてくれ。じゃないと危ないかもしれないよ。」


「うん、アスタリアさんの気持ち、よく分かるよ。」


 アスタリアはカイスの金色の髪を見て、微笑みながら言った。


「アスタリアって呼んでいいよ。」


(一つのことに気がついた……)


「じゃあ、僕のこともカイスって呼んでくれないかな?」


「うん、カイス。」


(カイスは私にとても優しくて、すごくいい人だ。)


 カイスはアスタリアの深茶色の瞳を見つめるが、アスタリアにそう呼ばれると、恥ずかしそうに視線をそらす。


「アスタリア……」


「僕は今とても嬉しい。」


 アスタリアを守りたいと強く願う一方で、自分の保護下にいることで、アスタリアが本来の自分を出せないのではないかと心配している。

 相手をありのままの自分として輝かせたいというこの想いは、カイスにとって初めての感情だった。


 アスタリアを愛おしんで守りたいと思うと同時に、彼女が自由で美しくまぶしい姿を見たいとも願っていた。


「私も嬉しいよ。」

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