川に沈む
一時の浮遊感があり特有の気持ち悪さを感じる前に後頭部に衝撃が走った。
次に冷たい液体が全身を包むと同時に、息が詰まり必死に上昇しようと試みたが、早い流速と恐怖からか足がつり流体から脱出できない。気道が狭まる感覚と鈍くなる五感に焦りと死ぬ恐怖が押し寄せてくる。
橋の中腹で川から女が顔を出さないと確認した男は、自然と上がる口角と高揚感を隠しながら日常に戻っていった。
ーーー日午前、○○川で遺体が発見され、行方が分からなくなっていた兵庫県神戸市の木犀楓さんと確認されました。警察はーーー
ニュースから流れてくる情報に息を飲み時間が止まったように感じた。ニュースキャスターが伝える情報が脳を煩く叩き、女の心臓が動く音が部屋を支配する。まるでテレビにフォーカスが当たったかのように目が離せない。
ガシャンッ!
突然の音によって街の雑音が帰ってくる。足に生ぬるい温度を感じて視線を向けると、ティーカップが割れ紅茶が足を汚していた。
1人の男が乱雑に物が散らかる薄暗い部屋の中で忙しなくスマホを操作し、似たような内容のニュースサイトを一心不乱に読み漁っている。男の顔は蒼白で、背中には冷たい汗が伝う、息苦しいくらいに喉がつまり、心臓が締め付けられる。
男は、女を突き落として数週間経ち、高揚感が薄れ、女の事を忘れていた所に耳に飛び込んできた女の死体が上がったという報道に、捕まるかもしれない、もしかしたら死刑になるかもしれないという不安が背を撫でる感覚に恐怖した。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫や、俺は捕まらへん、似たような事件でも犯人は数十年で出所してるやないか、大丈夫や、そもそもあの女が悪いんや、俺は悪くない」
男は不安を払拭するようにブツブツと呟き続ける。重苦しい空気が充満する部屋の中でスマホの光に照らされた男の顔を、顔も思い出せない女が見ている気がした。
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