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第9話 君にこの手は届かない

 僕はまた新山日奈の背中を眺めていた。

 薄曇りの今日は、彼女のいつも艶やかで光沢のある髪もやや大人しめだ。

 昨晩、原田未来の家の前まで行ったものの、僕は結局インターフォンを押すことなく帰ってしまった。

 こうして眺めている少女から発せられた言葉から始まった小さな謎解き。

 僕にとっては頭の中を埋め尽くしてしまうほどの大事件だった。

 その答を求めて、昨日僕は住宅街を走った。

 そして、僕はその答に手を伸ばすことは出来なかった。

 今僕は後悔している。

 うん。多分。

 本当はよく分からない。

 あのインターフォンを押して、期待していたことが現実にならなければ、僕はきっと落胆してしまっただろう。

 誰かに想ってもらえていると、心のどこかで期待しているこの気持ちを、彼女と対面することで失ってしまうのではないかと、そんな考えが確かによぎった。

 でもこのままでいいとは思っていない。

 僕はまた、ノートをとり続ける少女の背中にこう思うのだ。

 新山日奈。僕は知りたい。

 揺れ続ける僕と何も変わらない君。

 そして、あれから変わらず君を見続けている僕。

 またフワリと、微風が君の髪を揺らした。


 僕はつくづく空回りする奴なのだろう。

 ひとつひとつ教室で誰かを捉まえては聞いて回り、三つ目でようやく原田未来のクラスに行きついた。

 二年四組。残った最後のクラスに原田未来は間違いなく在籍していた。


「原田さんっていますか?」

「ええ、いるけど」


 そう返したのは、三人で談笑中の見知らぬ女生徒だった。

 少しぽっちゃりめの、あまり愛想の良くなさそうな感じの女生徒は、それがどうかしたといった様子で、座っていた席から首だけを向けてそれだけ言った。


「えっと、どの子かな?」


 僕は作り笑いを浮かべてさらに尋ねた。全く知らない女生徒に、こんなことを訊いている自分に驚きだった。

 女生徒はクラスの中を見回して、他のクラスメートに声を掛ける。


「ねえ、今日原田さんは?」

「欠席みたい。今週ずっとだね」


 今週ずっと? どうゆうことだ?


「えっと。欠席の理由とか分からない?」

「さあ、先生に訊けば?」


 もういいでしょと言いたげに、女生徒はバトンをここにいない担任教師に放り投げて、お喋りの輪の中に戻って行った。

 教室に戻りながら、僕はまた新たな疑問に首を捻っていた。


「ゴールデンウイーク明けから来ていないのか……」


 そんなに長期間休む理由とは何なのだろうか?

 担任ならば即答できそうだが、それにしても何か引っ掛かる。

 僕は放課後を待って、職員室へと向かった。


 職員室にはさっきまでホームルームで顔を合わせていた担任教師がいた。

 四組の担任教師は見当たらない。


「どした? 富樫」


 声を掛けてくれた担任教師に、四組の担任のことを尋ねた。

 すると意外な返答が帰って来た。


「ああ、山下先生なら休みだ」

「休み? どうして?」

「知らないよ。風邪でもひいたんじゃないか」


 思い切って聞きに来たけれど、完全に肩透かしを食らってしまった。

 これでは来週にならないと、どうしようもない。


「なんだ? 急な用事か?」


 勘ぐり出した担任教師に「失礼しましたと」だけ言い残し、僕は職員室をあとにした。

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