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第7話 不安は突然やって来る

 遠い記憶の幼馴染の名を名簿の中に見つけた僕は、急いで教室へと戻った。

 あのハイエナのような友人とも呼べないような友人に、今は感謝でいっぱいだ。

 実は相当舞い上がってしまっている。

 まず間違いなく、新山日奈に告白の伝言を依頼したのは原田未来だ。

 もうずっと会っていなかった幼馴染は、どんなふうに成長したのだろう。

 顔の見えない相手を想像するのはドキドキするものだ。

 彼女は今、僕と同じようにこの階の教室で授業を受けている。

 僕と同じように、彼女も僕のことを考えながら授業を受けている。きっとそうだ。

 ああ、いったいどんな感じなのだろう。

 遠い思い出を辿っても、その顔かたちは浮かんでこない。

 ひょっとすると彼女の方も、僕に気付いたのはごく最近なのかも。

 そして僕の存在に気付いた時点で、かつて幼少期に持っていた特別な感情が甦ったのかも知れない。

 新山日奈が言っていた、ずっと前というぼんやりとしたその時点に於いて、多分原田未来が僕に好意を持つに至った何らかのイベントが起こったのだ。

 ではそのイベントとは何なのだろう。

 彼女の顔すら憶えていない僕には、まるで分かりようもない。

 それは彼女に会って、話をすれば教えてもらえるだろう。

 あとはその原田未来をどうやって探すかだが、その問題は球技大会があることで解決しているといえた。

 おあつらえ向きに、雨が降らなければ明後日、球技大会が開催される。

 その時に体操着に書かれてある名前を確認するだけで、彼女を見つけ出すことができるのだ。

 その後のことはまた考えたらいい。もしかしたら新山日奈から、あるいは原田未来当人からコンタクトがあるかも知れない。

 きっと彼女はこちらを意識している。今までは気付かなかったけれど、お互いに意識し合っている今ならば、視線くらいは自然と交わすだろう。

 僕の方から話しかけてみるか?

 いや、唐突に話しかけたら彼女も困るかも知れない。

 好意を持っていたとしても、それを周囲に知られたくないことだってある。新山日奈が彼女の名前を口にしなかったのは、そういう意味合いがあったからなのかも知れない。

 そしてふと、僕はまた新山日奈の美しい後ろ姿に目を向けた。

 名前を伝えなかったのは、それなりの理由があったからか?

 その理由について、僕の頭の中に一つの可能性が浮かんでしまっていた。

 それは、相手が特定できたことで舞い上がっていた心に、大きな影を落とすものだった。

「ずっとあなたが好きだった」新山日奈はそう言った。

 そして「って、言ってたよ」と付け足した。

 よく考えてみれば、それはどちらも過去形だ。

 言葉だけのニュアンスならば、それは現在進行形ではない。

 そして、名前を告げずに、あの話はうやむやになっている。

 もしかすると……。

 これはあくまでも仮説だが、原田未来は最近になって僕の存在に気が付いた。そして、幼い時に恋心を抱いていた少年がいたことを彼女は新山日奈に話した。それは恋の相談ではなく、過去のちょっとした感傷。

 そして彼女はその時の想いを今は特に成就しようとは考えていない。

 年頃の女の子なら好きな男子がいるのくらい普通だ。彼氏がいたっておかしくない。

 幼少期に好きになった少年を想い続けてきたという、古典的な純愛エピソードには何の信憑性もない。


「うーん……」


 偶然かも知れないが、思わず小さく唸ってしまったのと同時に、新山日奈は一瞬ノートをとる手を止めた。

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