第4話 違和感の正体
新山日奈は部活に入っていた。
一般的に部活仲間は、単なるクラスメートの友達よりも絆は深いものであろう。
恋の話が膨らんで、「じゃあ私がキューピットになってあげるよ」なんて流れになることだってある。
部活を特定できたことで、新山日奈の友人関係は絞り込めそうだった。
僕は手芸部の部員を調べるため裏技を使った。
生徒会に入っている友人に頼み込んで、部活の名簿を手に入れたのだった。
しかし、あいつ、三日間ジュース奢れって、どんだけがめついんだよ。普通友達だったら無料でやってくれるもんだろ。
それもこれも、あの新山日奈のせいだ。腹立たしさを押し付けて、これは必要経費なのだと自分に言い聞かせた。
昼食後、僕は図書室に直行し、入手した名簿をじっくりとチェックしていた。
まず気付いたのが、この名簿が前年度後期に作られた部活名簿だということだ。
新入生の仮入部期間が終わったばかりのこの時期、今年度の部活名簿に関しては生徒会もこれからといったところなのだろう。
手芸部の名簿には十五名の名前が記載されていた。
三年生が三人、二年生が六人、そして一年生六人の名前が列挙されてあった。
つまり、前年度の名簿なので、卒業した三年生を除くと、部員に変動が無ければ、今は三年生が六人、二年生が六人、手芸部に在籍していることになる。
これだけ情報があれば十分だ。仮入部の一年生は、そもそも候補の中には入らない。そして三年生も省いておいて問題ないだろう。
では、この二年生六人の中から絞り込むとしよう。
「どれどれ……」
名簿には名前を見ただけで顔が浮かんでくる女子が三人いた。
しかしその三人とも全くピンとくるものがない。
ただクラスが一緒だっただけの、喋った記憶もない女子たちだった。
「残るは三人ということか……」
小坂慧。
東山すず。
下条杏奈。
分かっているのは名前だけだ。全く面識のない相手をどうやって見つける?
二年のクラスは四クラス。自分のクラスは探す必要はないわけなので、この三人は他の三クラスのどこかにいる。
一年の時の友達に声を掛けて、訊いてみるか?
女子の名前を出したりしたら変に思われそうだな。
教えてやる代わりにジュース奢れって不届きな奴がまた現れかねんな。
悩んでいると、グラウンドの方から賑やかな声がしてきた。
昼食後にグラウンドに出て遊び始めた生徒たちだ。
サッカーボールを追いかけ始めた連中を、僕はなんとなく目で追いかける。
飯を食った後はゆっくりしてろ。消化に悪いだろ。
楽し気に走り回る姿を見ていて、突然グッドアイデアが浮かんだ。
「球技大会!」
そうだ。今週球技大会がある。
当日はクラス毎にグランドで並ぶ。全員体操着なわけだから、胸にでかでかと書かれている名前で、誰だか突き止められる。
こりゃあ、好都合だ。
口元に笑いが込み上げてくるのを抑えられない。
機嫌よく名簿を制服の内ポケットにしまおうとした時だった。
何だこの違和感は……。
一度折りたたんだA4の用紙をもう一度開いてみる。
そして僕はその違和感の正体にすぐに気付いた。
「ない……名前がない」
違和感の正体。
それはとても単純なものだった。
名簿には新山日奈の名が載っていなかった。
 




