第17話 遠回りの果てに
帰宅してすぐに僕は混迷を極めた頭の中を、必死になって整理しようと奮闘していた。
僕のポンコツ推理でどこまでこの絡みきった糸を、紐解いていけるか自信は無かったが、今一度、役に立たない灰色の脳細胞を活性化し、僕は思考の海に沈んでいった。
原田未来は新山日奈と共謀していなかった。
それどころか、僕に告白の伝言を頼んだ事実すらなかった。
そして、幼少期に僕に恋心を抱いてもいなかった。
一週間もの間、僕は姿を見せない相手を追いかけ続け、それが原田未来であることを結論付け、信じた。
新山日奈は僕に何も語らなかった。
まるで違う場所を探していた僕に、彼女は気付いていたのだろうか。
気付いていたのだとしたら、何故涼しい顔をして僕に背中を見せ続けていたのだろうか。
僕は何かを見落としている。
新山日奈は言った。「ずっと前から好きだった」と。
「原田未来ではない誰かがそう言ったのだとしたら……」
僕は机の上に無造作に置かれた用紙を手に取った。
あのハイエナの友人から手に入れた名簿だった。
僕は見落としていた。姿の見えない誰かではなく、姿を見せたあの少女をもっと知るべきだったのだ。
そして、僕は重ねて放置していた名簿の中に、とうとう彼女の名前を見つけた。
「あった!」
僕は一枚の用紙を手に取って声を上げた。
僕が見落としていたもの、それは、新山日奈の名前が記載されたもう一枚の部活名簿だった。
そう、僕はあの日、ESS部の用紙に新山日奈の名があったことで、原田未来の存在を知った。その瞬間から僕の意識は原田未来に向けられ、残りの部活名簿用紙に目を通していなかったのだ。
「やはり兼部していたのか……」
写真部。昨年度の名簿用紙には二年生の名前が二つ記載されていて、その下に新山日奈を含む一年生の名前が二つ、記載されていた。
兼部の可能性に、僕はもっと早く気付くべきだった。
原田未来は言っていた。新山日奈は忙しいのだと。
この時期に多忙を極めるのは、部活への勧誘だ。写真部は現在四人。三年生が卒業すれば、三人に満たない部活は今年度限りで廃部となる。
恐らく、写真部は新入部員の勧誘が上手くいかなかったのだろう。
新入生の仮入部期間が終わり、もう一年生の参入が絶望的だと考えた新山日奈は、友達や知り合いのところを放課後周って、兼部をお願いしていたに違いない。
先輩にきちんと頭を下げて話をしていたのは、その部が兼部可能かどうかの確認を最初にしていたのだろう。
そして僕は、写真部の名簿に記載されていたその名前を呟く。
「望月千鶴……」
新山日奈に続いて記載されていたその名前は、まるで知らない女生徒の名だった。
しかし、彼女こそが探し続けていた解答であることは間違いなかった。
「やっと見つけた……」
どれだけこの解答に行きつくまで遠回りしたのだろう。
絡みついていた糸を解き終えた僕は、とにかくひどく疲れていた。
名簿用紙を手にしたままベッドに横になった僕は、いつの間にか眠っていた。




