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第13話 臆病者の眠りは浅い

 ベッドの上で布団に包まり、僕は霧雨の夜を過ごした。

 得体の知れない恐怖は、僕を眠らせてはくれなかった。

 顔の見えない原田未来という少女の存在が、眠りに就きたいと願う僕の体にサワサワと触れてくる。

 その度に疲労した想像力が弱々しく目を覚まし、僕はいつしか眠りに就いた感覚すら味わうことなく朝を迎えていた。

 洗面台の鏡に映る自分の顔は、憔悴しきっていた。

 これほど酷い顔になると、まるで自分ではないみたいだ。

 これがもう何日も続けば、精気が全部抜けきって、抜け殻になってしまうのではなかろうか。

 まるで食欲のない状態で、用意してくれていたトーストをモソモソと齧っていると、その様子に心配した母が額に冷たい手を当ててきた。


「熱でもあるんじゃないの? 酷い顔しちゃって」

「どうかな、多分大丈夫だと思うけど」


 一応熱を測っておいたが、平熱だった。

 精神的な疲労と、ただの寝不足に違いない。

 そんな息子の酷い有様を、母親は妙な風に捉えてしまった。


「なあに? もしかしてアレ? 好きな子にフラれちゃったとか」

「いや、そういうんじゃないかな」

「ふーん」


 惜しい。僅かにかすってはいたが、正解ではない。


「じゃあ、片想いとか? 高二にして目覚めちゃったの?」


 まだ続いているのか。いい加減やめて欲しい。

 人生の大先輩ではあるが、相談するなら別の人にする。


「まあ、悩みなさいよ。そんで告ってすっきりしたら?」

「いや、だからそんなんじゃないって」

「当たって砕けろって。ドーンと砕けて来なさいよ」


 フラれることを前提に話が進んでいる。母親から見ても僕は相当モテそうにない奴らしい。


「ごちそうさま」


 そそくさと二階の自室に避難し、僕はまた何もすることの無い部屋で、またあのことを思い返す。

 引きっぱなしのカーテンから薄日が漏れている。

 雨は上がったようだ。


「当たって砕けろか……」


 お気楽にそう言っていた母の言葉を、僕は口にしていた。


 家を出て、僕はまた走り出した。

 雨上がりのアスファルトの匂いが立ち込める住宅街を、僕は息を切らしながら駆けていく。

 勇気とはいったい何なのだろう。

 願望を叶えようとする行動でも、勇気と呼んでいいのなら、今僕のやろうとしていることは勇気ある行動だと言えるだろう。

 僕はこれから、得体の知れないものの正体を突き止めるべく行動を起こす。

 原田未来の入院先を突き止め、僕は彼女に対面する。そう決めたのだ。

 僕は後悔するかも知れない。

 彼女が新山日奈を通じて僕にあの伝言をしたということは、対面することが叶わないということを承知していたからに相違ない。

 無理にその無言の意図を壊してしまうことを、きっと彼女は望んでいない。

 それでも僕は知りたいんだ。

 憶測で固めた世界で怯えているのはもう嫌なんだ。

 僕は自分勝手だ。君が今どうしていて、なにを考えているのか、それを知りたいんだ。

 それが君の望んだ結末でなくとも、僕は君に会いに行く。


「ハア、ハア、ハア」


 そして僕はまた昨日と同じインターフォンを押した。

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