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第12話 恐ろしい妄想は忍び寄る

 冷たい雨に打たれて帰った僕は、酷い気分で熱いシャワーを浴びていた。

 原田未来は入院していた。

 学校に来ていなかったのはそういった理由があったからだ。

 いったい彼女に何があったというのだ。

 情報が少なすぎるうえ、頭が混乱していて、全く何が起こっているのか理解が追いつかない。

 彼女の安否も分からない状況で、僕は自分にまつわる告白の真実を探し回っていた。それはあまりにも滑稽で、愚かだった。

 あのクラスメートから原田未来がずっと休んでいるのを聞いた時点で、僕は彼女が欠席している理由を考えるべきだったのだ。

 真実を知りたいと願う自分の欲求に誠実であっただけで、幼馴染に何が起こっているのかを、知ろうともしなかった。

 いったい、彼女は今どういう状態なんだ……。

 事情を聞きたかったが、取りつく島もなかった。

 彼女に関する情報は、学校でも耳にしなかった。

 あのクラスメートは、欠席の理由について、「さあ」と答えただけだった。

 担任教師も欠席していて、彼女に関することは完全に霧の中に埋没している状態だった。


「何か、何か見落としていることは無いか……」


 頭から熱いシャワーに打たれながら、必死に考えを巡らせる。

 頭の中に原田未来を思い浮かべようとすると、やはり顔は浮かんでこなかった。

 浮かんできたのは、あの夢の中に出て来た新山日奈の顔だった。


「新山日奈!」


 脳天に電気が走ったような感覚だった。


「そうだ。彼女はゴールデンウィーク明けに僕を捉まえてあの話をした。あのタイミングで僕に話したのは、新山日奈が直近で原田未来と打ち合わせていたからじゃないだろうか。それならば新山日奈は、入院した彼女の事情を知っている可能性が高い。それに、今思えばあの告白は不自然だ。まるで彼女の入院に合わせるかのように僕にあんなことを……」


 僕はそこまで言ってしまってから、自分がおかしな妄想に憑りつかれてしまっていることに気が付いた。

 もしかすると「ずっとあなたが好きだった」それと「って、言ってたよ」という二つの言葉の意味は、僕が考えていたものとは全く別のものなのではないだろうか。

 謎に満ちた二つのキーワード、それはもう言葉にすることの出来ない友人の気持ちを新山日奈が代弁したのかも知れない。

 そして、「さあね。当ててみて」と言った最後の言葉こそが、二人が僕にさせようとしていたことなのだとしたら……。


「すべて辻褄が……合う」


 原口未来は、もう自分でそのことを伝えることができないことを分かっていて新山日奈をとおして僕に真実を探させた。

 それは何のためか……。

 頭の中に湧き上がってしまった恐ろしい考えが、震える唇から滑り出す。


「今まで忘却していた彼女の存在を、これからの僕の記憶に焼き付けるために……」


 口にしてしまってから、僕は自分で言ってしまったことを否定するように、頭を何度も振った。


「まさか。まさかそんな……」


 熱いシャワーに打たれながら僕は頭を抱え、裸で震えていた。

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