姉ちゃん番外編 都坂亜希の気持ち
私の名前は都坂亜希。高校二年生。
私には好きな人がいます。
その人は、全然イケメンじゃないし、全然頭良くないし、全然スポーツも出来ない。
でも私にとっては最高の王子様。
誰にも話していないし、もちろん本人にはそんな素振りは一度も見せた事がありません。
彼、私の事怖がっているみたいだし。
私の事、昔は「亜希ちゃん」て呼んでくれたのに、中学の時は「都坂さん」で、高校に入学してからは「委員長」。何か寂しいです。
そうそう、彼の名前は磐神武彦です。何か荘厳な名前なんです。
彼とは幼稚園に行く前からの幼馴染み。
彼のお父さんは、彼が3歳の時に交通事故で亡くなりました。
それでも、彼はお母さんとお姉さんと3人で、とても明るく生きて来ました。
お姉さん。
そう。私が彼に自分の気持ちを打ち明けられないでいる最大の理由。
武君(と私は彼の事を呼んでいます)はそのお姉さんの言いなり。
小さい頃から逆らった事が一度もありません。
何でだろう?
私は不思議でした。
怖くて乱暴なお姉さんなのに、武君は絶対にお姉さんの事を悪く言わないんです。
肉親だからとかそういう事ではないんです。
わたしは何度も彼がお姉さんに殴られるところを見ています。
私だったら、絶対に反撃しています。勝てないだろうけど。
でも、武君は反撃どころか、抵抗すらしません。
完全にされるがままなんです。
もしかしてお姉さんにいたぶられるのが嬉しいのかな、なんて思った事もあります。
でも違いました。
お姉さんは武君を必死に守っていたのです。
同級生のイジメから、近所の悪ガキから、凶暴な野良犬から。
私は知りませんでした。
お姉さんのその武君に対する大きな愛が武君にしっかり伝わっているから、武君はお姉さんに何をされても逆らわないのだとわかりました。
そして、勝てないなと思いました。
私は武君の事が本当に好きです。
彼は、強くないのに私を守ってくれました。
幼稚園の時、小学校低学年の時。
私は武君が私の事を陰ながら守っていてくれる事を知って、彼の事を好きになりました。
元々武君とは仲良しでしたが、彼に王子様を見たのです。
誰かに話せば笑われるでしょうが、他人にどう思われようと、武君は私の王子様なんです。今でも。
だからこそ、お姉さんには勝てないと思うのです。
武君が私を守ってくれたのは、お姉さんの愛を彼が理解したから。
だから自分もそれを実践した。
私が武君に正面から告白するには、まずお姉さんに勝たないと。
まだその自信がありません。
でも、卒業までには勝ちたいと思います。
だって、私は武君が大好き。
彼は私の王子様なのだから。