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ALO 〜Another Life Online〜  作者: 岡宮文良
第1章:ブルームシティ
7/7

1-7.ヤーヌス

 防具屋もバルクさんの武器屋同様にさほど客はいなかった。

 店の陳列棚には、初心者の○○シリーズと旅立ちの○○シリーズがあるが、所持金300Gの俺に買えるものは何も無かった。

 店の主人に旅立ちの上着のステータスを見せてもらったら


『鑑定[C]のアーツ、<防具鑑定 Lv.1>を習得しました!!』


 とアナウンスがあったので、それで早々に店を後にした。


 直ぐ隣が道具屋だったので覗いてみたが、所持金300Gの俺にはあまり関係のない場所だったようで、こちらも直ぐに退出した。


 少し進むと薬屋があったので初心者のポーション100Gを1本購入し、バッグの中へ。

 コレで残金200G。


 このまま真っ直ぐ進むと城壁の門に差し掛かりそうだったので、くるりと引き返し、再び噴水広場の方へ。


 広場の端に何かの屋台が出てて、美味しそうな匂いがしてたのを覚えていたのだ。

 お。

 あった、あった。


 屋台で売られていたのはフランスパンのようなパンに野菜やベーコンのような干し肉を挟んだ大きめのサンドイッチ、鳥か何かの肉みたいなのを串にいくつも刺して焼いた串焼き、カットされた果物、オレンジっぽい果実のジュースだった。


 サンドイッチと串焼きが1つ60G、果物とジュースが30G。


 ぐっ…

 微妙…


 スキル:暴食[UR]が無ければ迷わずにサンドイッチ3つにするところだが、サンドイッチ3つでは恐らく半日も持つまい。


 どうするか。


 そう思ってたら、広場の隅の隅で何やら売っているのを発見。


 近付いてみると、冒険者向けの保存食が売られていた。

 店主に話を聞くと、新人冒険者の定番食料らしい。

 値段は1個30G。


 購入を迷っていると試食を勧められたので、ありがたく試食させていただく。


 う〜ん…


 なんというか、ものすごく味が薄くなって草臭くなったカロリーメイ○的な。


 口に頬張ると一気に口中の水分が持っていかれてしまい、飲み込むには追加の水分が必須。


 俺が口をモゴモゴさせていると、店の主人が水を分けてくれたのでそれで一気に飲み込んだ。


 よし。


 厳しいがコレにしよう。


 小さいながらも食べ応えはあるし、満腹度の回復もそれなりだ。

 飲み込むのに必要な水分は生活魔法でゲットすれば良い。


 というわけで、冒険者用の携帯保存食6つ、180Gで購入。

 これで残り20G。


 さて、そろそろフィールドに繰り出そうという事で何処に向かおうか。


 確か東西南北の順に簡単という事だったので東はプレイヤーが多かろう。


 なるべく人の少ない所で効率的に狩らないと、ドラゴノイドの俺はいつまで経ってもレベルが上げられないかも知れない。


 というわけで行き先は北に決まった。


 領主の館の脇を通り抜け、北の城門が見えてくると、門の向こうには広大な麦畑が見える。

 アレを抜けたら遂に戦闘開始だ。


(やるぞ)


 メイスをベルトから抜いてギュッと握る。


 城門を通りフィールドに歩を進めた瞬間…


 俺は全く別の場所に飛ばされていた。


「は…?」


 そこは豪奢な真っ赤な薔薇の生垣に囲まれた六角形の白い東屋だった。


 白いテーブルと白い2脚の椅子があり、テーブルを挟んだ向こう側の椅子には濃紺のストライプのスーツ、糊の利いた真っ白いシャツと赤いネクタイを着て脚を組んだ細身の男性が座っている。


「千客万来と言えば聞こえは良いが…

 随分とこき使ってくれるものだな」


 手にしたカップから何か飲み物を飲みながら男性がそう言った。


 辺りは濃厚な薔薇の香りに包まれており、風が吹くと時折紅茶の香りがする。


「え…?」


 ワケが分からず後ろを振り返ると、先程通り過ぎたであろう城門も喧騒も無く、薔薇の生垣に挟まれた石畳の道が続いていた。


「君、いつまでも突っ立ってないで、座りたまえ」


 男性の方に振り返ると、顎で手前の椅子を指していたので大人しくそこに座ることにする。


「し、失礼します」


「君、紅茶は好きかね?」


 男性がそう言うと、目の前のテーブルに一客のカップとソーサー、ハチミツとミルクのポットが現れた。


 カップには温かい紅茶がたっぷり入っており、湯気を立てている。


「ヤーバ産のオータムナルだ。

 毒は入ってないから安心したまえ。

 ハチミツやミルクはご自由に。

 私はストレートが好みだがね」


「は、はぁ」


 男性の目はとても細くて長く、鼻梁はスッキリと通っていて、どことなくキツネを思わせる顔付きをしている。


「なるほど、キツネね。

 よく言われるよ」


(思考が読まれている!?)


「あぁ。

 君は特に読みやすいタイプだな」


「も、申し訳ありません。

 大変失礼を…」


 俺が恐縮して頭を下げると、男性はニヤニヤしながらコチラを見ていた。


「ヤーヌスだ」


「はい?」


「一応、門を司っている」


 やはり神の一柱か。


「クロードと申します。

 あの…」


「ここに君を招いたのはフィールドチュートリアルを施す為だよ」


「フィールド…?」


「フィールドチュートリアル。

 君、初めて戦闘可能フィールドに向かおうとしていただろう。

 そういう異人の皆をここに呼んでチュートリアルを施す事になっているのさ。

 随分と面倒なことにね」


「はぁ」


「紅茶は嫌いかね?

 遠慮せずに飲みたまえ」


 紅茶を一口。

 ダージリンのストレートのようだが、甘みが強くまろやかで口当たりが柔らかく、渋くない。


「美味しいです」


「そうだろう。

 オータムナルならではの柔らかさ、丸さ。

 この時期にしか味わえないものだからな。

 気に入ってもらえたなら何よりだ」


「あの、3点ほど質問しても良いですか?」


「どうぞ」


「先程、異人の皆と仰ってましたが、私以外にもココへ来ているのですか?」


「あぁ」


 ヤーヌス様はそう言うと左手を空に掲げた。


 すると空一面にここと同じような東屋の景色が合わせ鏡のように何枚も何枚も無限に表示された。


 よく見ると、どの景色にもヤーヌス様が映っているが、テーブルを挟んで座っているのはそれぞれ別のプレイヤーのようだった。


 ヤーヌス様が左手を下ろすと、空がフッと元の麗らかな晴天に戻った。


「私は鏡も司っていてね。

 合わせ鏡の要領で異人毎の空間を作っているのさ。

 どの空間でも同じ様に茶を嗜んでいるから、そろそろ飲み過ぎで茶に飽きそうだがね」


「なるほど…

 お手間おかけします」


「フフw

 君、ここは笑う所だぞ」


「あ、すみません」


「まあいいさ。

 次の質問は?」


「フィールドチュートリアルとはどういったものでしょうか?」


「フム」


 ヤーヌス様がテーブルにカップとソーサーを戻すと、再びカップの中に紅茶が何処からともなく注がれた。

 淹れたての紅茶の香りを嗅ぎながらヤーヌス様が言った。


「良い質問だ。

 文字通りフィールドでのお作法、つまりは闘い方を教えるものさ。

 ただ、君には必要が無いように思えるがね。

 君、何処かで戦闘訓練でも受けたのかい?

 僅かだが経験値を獲得しているようだ」


 思い当たる節があるとすれば、バルクの武器屋でカカシをぶっ叩いたアレくらいしかない。


 それはともかく、ヤーヌス様には俺の経験値が見えるのか!?

 ステータス画面の参照は許可してないはずだが。

 そもそもステータス画面で経験値って見えたっけ?


「君と私とじゃレベルがあまりにも違いすぎるからね。

 君が認めようが認めなかろうが、私が見ようと思えば見えてしまうのさ。

 どうしても嫌なら隠蔽するしかないが、それでも、ここまでレベル差があるとどうしよう無いがね」


「因みに、ヤーヌス様と俺じゃどれくらいのレベル差がありますでしょうか?」


「フフフw

 7,000以上だよwww」


 そう言うとヤーヌス様は楽しそうに笑った。


「まさか我らにレベルを問う者がいるとはねw

 長生きはしてみるものだな。

 フフw

 フハハハハww

 これは傑作だwww」


「すみません、そんなにおかしかったですか?」


「いやいや、すまない。

 失礼をしたw

 で、戦闘訓練は受けたのかい?」


「ええ。

 アレを訓練と呼ぶかは議論の余地がありそうですが」


「フム。

 まあともかく、割愛できるものなら割愛してくれると助かる。

 どうする?

 仮にチュートリアルを実施しても経験値が得られるわけでもなく、それ用のフィールドで2、3匹小さいモンスターを追い回す程度だから、やったところでどうということは無いよ。

 戦闘は実際にやってみてこそ、さ」


「はぁ、分かりました。

 では割愛で」


「よし。

 では3つ目の質問に答えたあと、幾つかアドバイスをして終わりにしよう。

 3つ目の質問は何かね?」


「はい。

 ヤーヌス様はズルワーン様をご存知ですか?」


「ズルワーン?

 う〜ん…

 何処かで聞いたな。

 えーと…

 あぁ、時の女神の名が確かそんなだったか…

 随分と長く見てないが、アレがどうかしたのか?」


「いえ。

 とても有難いスキルを下さったので、お礼を申し上げたくて」


「良い心掛けだな。

 ただ、私としては君が抱える呪いの方が気になるがねw」


 ヤーヌス様はニヤリと笑いを浮かべながら、美味しそうに紅茶を口にした。


「あぁ…

 年増の醜い淫売女神に無理矢理押し付けられまして。

 本当に迷惑してます」


「クックックックックッ…

 君は実に面白いねw

 どうやってその女神を怒らせたのかね?

 実に興味深いよ」


「ちょっと色々ありまして…」


「ま、言いたくないなら無理に聞き出しはしないさw

 ただ、その呪いは少々厄介なようだから、早目にその年増の女神とやらと決着を付けた方が良さそうだな」


「え、今以上に呪いが悪化する可能性があるんですか?」


「呪いというよりも…

 いや、申し訳ないが、これ以上は制約が掛かっていて言えんようだ。

 力になれず、済まない」


「いえ」


「では最後にデスペナルティとPK、決闘について教えておこう」


「宜しくお願いします」


 俺は渇いた唇を紅茶で潤した。


「君達異人はフィールドで死ぬと、直前に登録してあったセーフティエリアまで自動的に飛ばされ、そこで復活する。

 その際、所持品と所持金、装備品の中からランダムで何割かが没収される。

 ランダムだから、最悪、全て没収される場合もある。

 更に全てのステータスが半日程度半減し、その間はそれ以上回復しない。

 これがデスペナルティだ」


「なるほど。

 かなりキツいですね」


「なに、死にはしないのだ。

 気楽なものではないか」


「そ、そうですねw」


 ヤーヌス様はまた紅茶を一口。

 そしてちゃめっ気たっぷりにウインクしながら


「あ、そうだ。

 ここを出るまでにその紅茶はキチンと飲んでおくように。

 メインジョブがLv.10以下の場合、デスペナルティを無くすという特殊な効果を持つ茶だからな」


「なんと。

 頂きます!」


 慌てて紅茶をゴクゴク飲むと、ヤーヌス様はまた笑った。


「次にPK。

 セーフティエリア以外のフィールドでは、モンスターのみならず人にも攻撃を加える事が可能だ。

 同じパーティ内では無効になるが」


「PKしたら、どうなるんですか?」


「レッドネームと言って自身の名が紅く頭上に表示される様になる。

 隠す手段が無いわけではないが、通常では難しいだろうね。

 レッドネームになると、まず一般的なセーフティエリアへの入場が困難になる。

 殆どの場合、他者からの好感度が下がり、その首に賞金が掛けられる様になる。

 犯した罪、具体的にはPKした人数によるが、それが増えれば増えるほどレッドネームの色が濃くなり、捕まった際の償いが大きくなる」


「メリットが無いように思えますが…」


「当然、悪行だからね。

 まあ短絡的に考えると、他人を倒して経験値や金、アイテムや装備品を強奪出来るわけで、それで目が眩む者もいるのだろう」


「逆に倒されたらどうなるんですか?」


「今迄に自身が得た経験値や金品、装備品を反対に強奪され、収監される事になるね」


「なるほど…」


「最後が決闘だ。

 決闘はPKと似ているが、双方が納得の上で闘うもので、同じパーティメンバー同士でも可能だ。

 セーフティエリアであっても可能で、決闘でHPがゼロになっても死に戻る事は無く、勝者は事前定義済のルールに従い、敗者より褒賞を獲得する」


「有り得ないようなペナルティを敗者に課する事は出来るんですか?」


「それは出来ない。

 ペナルティとして賭けうるモノは己が持ち物のみさ」


「PKは複数人でも出来るのてはないかと推測しますが、決闘は複数人では出来るんでしょうか?」


「それも出来ない。

 決闘は常に1vs1だ」


「分かりました」


「君はソロのようだから、PKに狙われる事もあるかも知れない。

 十分に注意するだ」


「はい」


「それから、君はこのままだと毒蟲の森に向かう事になるが、彼処は君のレベルだと少々難易度が高いように思うよ。

 理解した上で向かっているのかね?」


「はい。

 私はドラゴノイドですから、あまり人のいない狩場で狩りをせねばと考えておりまして。

 一応、策も有ります」


「フム、メイス二刀流か」


「はい」


 なんでもお見通しかと少しおかしくなってしまうw


「善かろう。

 では旅を続けたまえ。

 良い旅になる事を陰ながら祈っている」


 咳を立ち、ヤーヌス様に頭を下げる。


「有難うございます。

 行ってきます」


 頭を上げると、そこは北の城門の外側だった。


「そんな所に突っ立ってると邪魔だよ。

 どいてくんな!」


 荷車の男性から声を掛けられ、端に寄って道を譲った。


 改めてメイスを握り直すと


「行くか」


 俺は北の森に向かって走り出した。

ホント、勢いだけやな…

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