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遠方からの客人

作者: 大西洋子



遠方からの客人



ようこそ宙港シムリヤに。わたくしの名はライカ。このシムリヤの出入星住留管理を任されています。以後お見知りを。

あの、言語はこれでよろしいでしょうか? なにしろ、古い言語ですので…… ありがとうございます。若き頃にその言語を専攻し、こうして会話する時が来るとは思いもよりませんでした。

ああ、話が逸れてしまいましたね。では、あなた様方がしばし住留されるシムリヤのことからお話しいたしましょう。

このシムリヤは、地球への唯一の航行路を持つ衛星で、地球の玄関と称されています。地球ですか? まもなく見えてくる時間です。ああ、見えてきました。あれがわたくし達の母なる星でした。

……ええ、おっしゃられるように、どうしても昔語り口調になってしまいます。無理もありませんね、かつて地球は青い星と称されていたそうですが今ではご覧の通り。地球の多くの場所は、無計画に建てられた建築物に廃棄物に有害な汚染物質が占めています。そのため、地球への往来、および滞在時間は制限されております。

ええ、よくご存じで。おっしゃられるとおり、お持ちになられた金属版に描かれている生物がこのような星にしてしまい、極少数を残して地球外へと旅立ってしまいました。

地球に残されし彼らとの会合をお望みとのことですが、その金属版が作られた頃と同じような生態を保っている生物は数えるほどしか存在していません。それでもその生物と会合したいと? ……わかりました。そのように手配いたしましょう。

ところで、補給物資は本当にあれで大丈夫なのですか? ……いえ、わたくし達にとってそれらは、有害な物質なもので。

なんと! あれがあなた様方の生命活動に不可欠な物なのですか! 千載一遇、わたくしはその一期一会に立ち会えたことに心が震えます。

……失礼。話をつづけましょう。

あなた様方の荷物は検疫が終了次第、そちらに返却いたします。乗ってこられた宙船は、検疫を終えた後、宙港の端に移動します。その際職員数名が中に入らさせていただきますのでご了承ください。

では、地球側の体勢が整うまで、建物内のものをご自由にお使いください。



地球出入星住留管理官殿、シムリヤ出入星住留管理ライカです。例の件のことです。レプリカすら失われ、古い記録にしか残らない金属版を目にし、材質等の解析を終えた今、夢物語が現実になったと認めざるを得なくなりました。

遙か昔、わたくしと同じ名の偉大なる君が地球との摩擦熱で塵と化して十五年後、地球から放たれた探索機にのせられた金属版。それを手にする知識生物との邂逅という夢物語が。

それにしても、客人の流暢な言葉使いには驚かせられました。古い映画を切り取ったような、そんな言葉使いでした。客人との最初の接触者である、土星出入星住留管理官の証言はまことでした。

はい、有害な物質が生命活動の動力源だという報告も同様です。

すでに客人の身体と宙船からの排泄物の解析をはじめております。一番恐れていた病原菌は検出されませんでした。引き続き、検疫体勢は維持し続けます。

ええ、客人をもてなしながら起こりえる危機を回避させる。それが地球の玄関であるこの衛星の役割ですから。

はい、客人の望みは変わりません。古い地球の地名が挙げられているので、どの程度まで地球のことを知っているのか、探りを入れなくてはなりませんが。

では、地球への着陸地と会合する者らの選出はそちらにお任せいたします。次の回線は地球時で八時間後ですね。了解しました。



やっと地球の目の前まで戻って来られた。

光よりも速い速度で移動し、ボイジャーを発見、回収したあの頃から、宇宙で生活できる身体に造り変えながら彷徨う日々。

その間に、生命を害する物質と恐れていた物質が、俺の生命維持に動力維持に不可欠な物質になろうとは。

遙か昔、宇宙実験棟として建てられたこの衛星が継ぎ足され、あのような生物が管理するようになっていたとは。俺は浦島太郎そのものだ。

だが、地球の玄関を護る生物に相応しいと言わざるを得ない。

……さて彼らは俺にとって頼もしき相棒となるか、それとも地獄の門番ケルベロスになるか。

……どちらでもかまわないさ。宙星盗難犯として逃げ続ける生活に疲れ果てたのだから。



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