影の河原
積んでいる。積んでいる。
「えいっ! どすっ!」
「うわっ!?」
何が起きたかわからなかった。
目の前には横倒しになった塔、てっぺんから土台までを何かで串刺しにされている。
「な……何をするんだ!」
「え? 串、通しただけだよ」
「いやこれ……困るんだが……」
「困る? 何が困るの?」
「いや……こういうことされると崩せないし、積み直せないし……」
「困らないよ、ほら」
目の前の影がひらりと手を振る。
河原。
地面から、透き通った石が出てくる。
「な、な……」
「新しい石があれば大丈夫!」
「お前は一体……」
「あの時助けていただいた影ですって言ったらびっくりする?」
「影? 助ける?」
全く身に覚えがないのだが。
「君に覚えがなくても僕にはあるのさ。じゃあ」
そう言って歩き出そうとする存在、「影」? を俺は呼び止める。
「待ってくれ」
「何を?」
「……」
俺は考え込む。待ってくれとは言ったが何を待ってくれなのか。
何を?
「わからない……」
「わからない? でも、待ってって言うなら待たなくもない……ちょっとだけ遊ぼうか」
「遊ぶ?」
「石を組んで遊ぶんでしょ。当然」
「あ、ああ……」
それから俺と影は石を組んで「遊んだ」。
組んではばらし、組んではばらし。
一人で積んでいるときはわからなかった、色々な組み方があった。
上に積むだけじゃない、横に組むこともできるということ。そして、新たな構造も。
「……今日は楽しかったね!」
「む……」
「また呼んで」
「呼ぶ……?」
俺は影を呼んだだろうか。どこからともなく現れたこいつを。
「また来るから」
「む、む……あの、」
「ん?」
「ありがとう」
「うん!」
影は薄れ、消える。
後には河原が広がるだけ。
だが……何もない、よりは、ずっとよかった、と思った。