妹にプレゼント
妹部屋をあけているところを見計らって。
部屋にあの、クマのぬいぐるみをおきました。
手紙も寄せて。
非行に走ることが兄は心配です。
最近やたら「世界平和」、「悪の組織」と口にするようになった妹ですが。
その妹の楓の事がとても心配です。
このまま変な仲間と。
警察沙汰を起こすことだけが心配でなりません。
かわいい妹が一体何をやらかすのか、ドキドキハラハラ。
今日はバイトも休みだし。
あのぬいぐるみを見れば。
楓も気がついてこちらに声をかけてくる。
そんなことを祈っています。
最近は帰りも少し遅いので、心配は大きくなるばかり。
学校に残って勉強している。
なんてことも言ってますが。
そんなことよりも、絆創膏をよく貼るようになったり。
なんかとても疲れている顔をしていることが心配です。
勉強だけではああはなりません。
とても気にかけています。
とりあえず、一人で帰ってきたのなら。
その辺も聞いてみて、兄としては何をしているのか。
聞いてみたい衝動に駆られます。
でも余計なことを聞かないほうがいいんじゃないか?
そんなことも考えてしまいます。
ごちゃごちゃと様々考えて。
どうも集中できないでいると。
妹が帰ってきたようです。
何か一言あるかな。
ないかな。
緊張の一瞬です。
しばらく待っていると。
足音が二人分します。
多分あの他校の友達、すももちゃんも一緒です。
あの二人は最近よく一緒だったりもするので。
特に不思議には思いません。
部屋から出ずに様子を伺います。
二人は何か話を始めた模様。
やはりちらほら、悪の組織や、世界平和について話し合われています。
兄はとくに口をはさむでもなく。
部屋でおとなしく本を読んでいます。
バイトの勉強。
筆の種類や、塗料の種類。
覚え込んでいきます。
お客さんに言われた時に案内できるようにです。
そうやってみていても。
うちのおもちゃ屋って種類が少ない。
今月出たものなんかで入荷してないのは仕方ないにしても。
本当によく使われるものしか置いてない。
そう実感する。
このホビー誌を読んでると。
この色とこの色を混ぜたとか。
希釈するのにこれを使ったとか。
様々目に入る。
自分が知っている以上に。
プラモデルというのはやり方があるし。
とても奥深いと思った。
筆で塗る以外にも、エアブラシやら、スプレー。
さまざまな塗装があり。
とてもあの店にあるものだけではなく。
かなりやり方や、アプローチ方法があり、仕上がりもそれぞれ違ってくるんだなーとか。
お客さんに頼まれたあのキットは発売が延期されてるなとか。
様々読んでいる時だった。
【すもも】
「お兄さん、少しいいかしら」
すももちゃんが入ってきた。
とりあえず座布団を用意して。
お迎えする。
【すもも】
「楓はぬいぐるみをもらって喜んでるみたい、とても良い兄妹愛で、いいと思うの」
【壮太】
「どうぞ、この前も遊びに来てたね」
普段から世界平和や悪の組織について語る怖い人だけど。
なんとか取り乱さずに、お出迎えした。
【すもも】
「でもこれだけは言わなくちゃと思ってきました」
【壮太】
「はい」
すももちゃんは自分のことをじっと見つめる。
どちらかというと、恋愛のときめきとか。
友好的な眼差しではない。
すごく敵意に満ちた鋭い眼差し。
何を言われるのかハラハラしながら。
その一言を待つ。
【すもも】
「いま、楓はね、あなたの妹はそこまで暇じゃないの、世界をかけて戦ってますの」
【壮太】
「へえ、そうなんだ」
【すもも】
「ぬいぐるみのことは、とても気に入ってましたし、楓も喜んでいた、でも」
【壮太】
「悪いことしたかな?」
【すもも】
「いいえ、でも、楓は悩んでもいた、それを伝えに来ましたの。」
すももの一言に。
わからなくなる、妹はただの欲求不満ではなく。
何か事情があるのかなとか、少し考えたけど。
結論から言うと、訳がわからない。
なんで怒られているのかもよくわからなかった。
しかし、すももちゃんは予想以上にやばい人なのかもしれない。
【すもも】
「それだけですの、もし楓のことを考えているなら、いえ、大事なのはわかりますから、その気持ちを堪えて、今は見守ってもらえないかしら、悪の組織から世界平和を勝ち取るまでは」
【壮太】
「わかったよ、わざわざありがとう」
そう言いながら、心臓がバクバク言っていた。
真剣に語るすももちゃんを見ながら。
この娘はマジでやばく。
母でもこの迫力に負けているに違いないと。
それを察してしまう。
何か歯向かったら殺られそうなプレッシャー。
ただものではない。
そうやって見ていると。
すももちゃんは楓の部屋まで戻って行った。
気が抜けて、ふう、と大きく息を吐いた。
背中にはびっしりと汗をかいていた。
そのあと、茶の間に行き。
ゆっくりと麦茶を飲んだ。
本当に楓は大丈夫なんだろうか?
そんな心配が頭をよぎった。
そこら辺の通行人を悪の組織認定して。
襲撃しているのを想像して、胸が苦しかった。
いきなり何か言い出すのも怖かったし。
いまは二人の会話が聞こえないように茶の間にいるのが精一杯だった。
そこはかとない恐怖を抱えながら。
今は、とりあえずプレゼントできたことを。
よしとして。
妹の心配はひとまずおき。
バイトのことを考えることにした。
塗料やキットのことを考え、なるべく思い返さないようにした。
自分には自分の。
楓には楓の。
それぞれ抱えているものがあるのだ。
そう理解するしかなかった。
普段は普通通り学校に行き。
少し遅く帰ってくる楓。
思春期なんだから色々あるよ。
そう言い聞かせながら、TVを見ていた。
少し心配しながら。
そして、1日でも早く平穏な日々を取り返すように。