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どんな世界にも愛はある  作者: 葉々良木 唄子
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プロローグ

 B S M M O R P G<Brain Synchro Massively Multiplayer Online Role Playing Game>アヴァロン〈Avalon〉


 西暦2526年それは、誕生した。

 ブレイン シンクロ システム「BSS」。

 BSSとは、脳と電子機器を電気信号により同調させ、脳へ直接、情報を伝達するシステムの総称である。主に、ゲームでの技術発展が著しく、どの企業もこぞってBSS機能搭載型ハードを売り出していた。メリットは言うまでもなく脳へ直接アプローチできる点である。据え置きのテレビゲーム機のように、視覚と聴覚のみへの刺激だけでなく嗅覚や味覚、触覚といった感覚までプレイヤーに体感させることを可能とした。

 開発当初は、視覚や聴覚障害のある人達への擬似感覚器官の移植技術や義手、義足といった機械と脳とを神経系を媒介に電子接続する医療的実験が主の産物であったためか、初めてBSSが搭載されたゲームが発売された際には、体内に小型電子基板を埋め込む特殊な手術を受けなければならないという皆が皆、顔をしかめる仕様であった。そして、言うまでもなく絶望的なまでに売れず、残された多額の負債を抱えた某有名ゲーム会社◯◯テンドーは、別ゲーム会社に吸収合併されることとなった。

 しかし、将来的に有望視されていた技術だった故に、BSSは僅か数年で飛躍的な進歩を遂げ、新世代型と呼ばれるBSSゲーム機が開発された。

 新世代型は、従来型のように体内に電子基板を埋め込む必要はなく、ファッションアイテムのチョーカーを模した形状をしており、機体を首へ装着するだけで、脳との接続を可能にした。身体に異物を埋め込むという最大の欠点を克服したBSSゲーム機は、全世界で爆発的に売れ、先進国における総人口の約79%が所持及び使用しているという統計結果まで出た程だ。

 そんなBSS最盛期の中で、最大のプレイヤー人数を誇っていたゲームこそ〈アヴァロン〉だったのである。

 〈アヴァロン〉はいわゆるファンタジー系RPGであったが、性別、年齢及び国内外問わず多くの人にプレイされた。その要因の一つとしては、多数の国内有名企業や国外巨大企業が開発に参加した事で、ゲーム内イベントへの参加特典や上位入賞特典として、イベント元企業の優待券やその企業の新製品、自社株式の配布、果ては現金までもが景品化されるなど、消費者のニーズに即していた点である。また、アイドルや歌手は電脳ライブと称し、〈アヴァロン〉内でコンサートを行ったり、人気俳優達による舞台が開催され毎日話題に欠くことはなかった。と言っても内容はあくまでもRPGであり、ゲーム本来の性能としても数多の企業がその開発に多大な資金をつぎ込んだだけあって、他のBSゲームを圧倒する情報量に基づきハードプレイヤー達の心も掴んでいた。ただ、他のBSゲームを圧倒するだけの電子情報をどのように生み出したのか……それは世界初、世界唯一のC AI〈Creation AI〉の導入によるものであった。

 〈アヴァロン〉は通常のBSSMMO同様、プレイヤーの脳波管理を行うMAI〈Mother AI〉が存在し、ゲーム内での死亡判定やヒット判定、ドロップ判定などを管理している。しかし、このゲームにはMAI以外に、もう一つAIが導入されている。それがCAIである。このAIの機能は創造ということになっているが実際は、ネット上に存在する既存の情報を基に、史実、伝説、伝承に沿ってゲーム内にアイテムやクエストなどを造り出すものであって、無から有を創り出すことはできない。それでも、ネット内の膨大な情報は、CAIに数限りない程のクエストやアイテムを生み出させた。また、CAIは自己の判断に基づいて、最も優良な選択を行うようプログラムされていたため、CAIは権限の一部をプレイヤーに配布し、PCS〈Player,s Creation System〉機能を導入することで、プレイヤーの自由度を限りなく高めた。

 PCSについてはアヴァロンに存在する武器についてが、一番良い例である。

 アヴァロンでは初め、武器は剣しか存在しなかった。しかし、槍や斧、弓といった定番の武器から、モーニングスターやチャクラム、十手の様なマイナーな武器も搭載され300種を超える武器をクリエイションAIは作成、汎用した。しかし、それはあくまでクリエイションAIが史実に沿って創り出した武器に過ぎず、現在では、700種を超える多種多様な武器がアヴァロン内で存在を確認されている。それこそ、まさにPCS機能の恩恵である。この機能は、プレイヤー自身の創作により形、重さ、威力、重心、その他色や艶感など細部にわたり武器の創造「案」をCAIに提案できる。これこそがPCSの機能である。その後、提案されたアイテムについて、筋力パラメーター、レベル、種族優位性能及びゲームバランスなど様々な要素を加味し、CAIが武器化決定または、提案却下の判断を行うというものである。もちろん、その機能は武器のみにとどまらず、防具やアイテム、魔法や種族までも創り出すことができた。


 アヴァロンでは、初期装備として布の帽子、冒険者の服、冒険者の靴、木剣、木製の鍋蓋そして「転生の指輪」が貰える。

 なぜ、盾を渡さず鍋蓋なのかはプレイヤー達の永遠の謎であったが、重要なのは「転生の指輪」である。ファンタジー系RPGであるアヴァロンには人族やエルフ族、ドワーフ族といった多種多様な種族が設けられており、その数は100種を超える基本種族と基本種族で一定の条件を満たした場合のみ転生可能な約400種の上位種が存在する。冒険を始めるにあたり自動配布される転生の指輪は、その多岐に渡る種族への転生を可能とするアヴァロン内での唯一の転生アイテムである。そのため、初期装備では通常考えられないほどの価格で売却が可能であったため、序盤に売ってしまい転生できなくなるという事は、日常茶飯事であった。

 プレイ開始時の種族は人族で例外はない。そして人族は多様な種族の中で最弱と名高かった。魔力や魔法耐性はエルフの半分以下で、近接戦においてもドワーフの様に防御力が高い訳でもワーウルフの様な高い攻撃力があるわけでもなく、数値的優位性は全くと言って良い程なかった。設定上は「統括力に優れ全てを統べるかの者に至る種族」となっているものの、その本領を発揮した者は一人しかおらず、プレイヤーの大半は、序盤から転生し人族という種を捨て他の種族でアヴァロンを冒険した。


 アヴァロンではモンスターを倒すことで2つのアイテムが発生する。一つ目はそのモンスター特有のアイテムである。例えばゴブリンを倒すと「ゴブリンの牙」や「ゴブリンの爪」、「小さい鉈」などそのモンスターの装備やモンスターの身体の一部がアイテム化しランダムに選択されドロップする。「ゴブリンの頭蓋」や「ゴブリンの睾丸」なんかのレアアイテムと呼ばれるものは他のドロップアイテムと比べドロップ率が低調である。取り分け睾丸は稀にしかドロップせず怪しげな秘薬の原料として高額で取り引きされている。

 二つ目は、プレイヤーが使用している種族自体のレベルが上昇する経験値である。と言っても、数値のみが自動的に割り振られレベルが上昇する訳ではなく倒したモンスターに設定された量の経験値が封じ込められた水色の経験値結晶と呼ばれるクリスタルがモンスターを倒した場所に残るのである。使用方法は剣の柄や、地面に叩きつけて割るだけで、封じられた経験値が獲得できることとなっている。また、経験値結晶は種族レベル100を上限に何個でも使用でき、経験値結晶同士を合わせるだけで中の経験値量の合計分の経験値結晶が出来上がたり、モンスターから得られる経験値結晶とプレイヤーキルにより得られる経験値結晶の性質が異なっているなどギミックが多く、アヴァロンプレイヤーは自身に適した経験値稼ぎを日々、模索していた。

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