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蝕の日

本編途中、東チームと合流前の時間軸です。

「ユウキ!」

 今日は一日、どことなく顔色が良くないような気はしていた。体調は大丈夫か、と尋ねようかと思ったところで、スピカと空を見上げていたユウキはふらりと倒れてしまった。

「ユウキさん!」

 反射的に身体を受け止めた俺の方へバルトも近づいてくる。呼びかけても返事はなく、目を閉じたまま意識がない。

「とりあえず戻るぞ」

「わかりました」

 俺の持っていた荷物も持ったバルトは、スピカも抱え上げて先に宿の方へ戻っていった。

 呼吸は……問題なさそうか。倒れた原因がわからない、なるべく揺らさないように、しかしできる限り道を急いだ。


 スピカと二人でユウキをベッドへ寝かせたところで、ちょうどバルトがこの街の神官を連れ帰ってきた。ここが大きな街で良かった。これくらいの規模の街なら治癒の使える神官が一人は派遣されていることが常だ。

「ひとまず治癒はかけましたが、『神の御使い』様が何故目覚めないかまでは……」

 治癒をかけしばらく見守ったけれど、ユウキは眠ったままだ。魔法は、しっかりその事象を意識しないと効果は上手く出ない。原因がわからないと治癒も効きづらいのは仕方ないこと、ではあるが。

 焦った表情の神官は、魔導具で中央神殿のニコラウスに連絡を取ってくれるというので、ひとまずそれを待つことにした。

 スピカは心配で仕方ないといった様子で頻繁にユウキの顔を覗き込んでいる。あまり側にいると、スピカも参ってしまうか。バルトに視線を投げると、意を得たように頷いた。

「スピカ、もう昼も近いです。ユウキさんの側につくのを交代できるように、先に私たちが食事をしてきましょう」

 スピカはしぶしぶ頷き、何度も振り返りながらも、バルトに連れられて部屋をあとにした。あとは任せておけば大丈夫だろう。


 窓からは人の歓声が響いているが、部屋の中には穏やかな呼吸の音だけだ。

 ユウキを観察してみるが、やはりこれといった異常は見当たらない。表情も特に苦しそうではなく、ただ眠っているようにしか見えなかった。ふと思いついて手をとると、想像よりかなり冷たかった。火系統の魔法は俺には扱えないから、とりあえず余っている毛布をかけておく、ぐらいしかできない。アルフレートならどんな魔法も使えるから、部屋を暖めるのも簡単だろうに。


 少し経つと、バルトとスピカが戻ってきた。

「レオンハルトたちから連絡がきて、ルカさんもユウキさんと同じ頃から意識を失っているみたいです」

「ルカもか?」

 『神の御使い』が二人とも、同時に倒れている。これは偶然、なのだろうか。

 ルカもユウキと同じくそれからずっと眠っているらしい。アルフレートによると、魔力の流れが滞っているように感じる、と。……そういえば、先程ユウキの手に触れたときは、いつものような暖かい魔力が流れてこなかった。意識を失っていたからではなく、別の要因が有るのかもしれない。


 どうしたらいいのかと天井を見上げたところで、扉が控えめに叩かれる。

 部屋を訪ねてきたのは、先程治癒をかけてくれた神官だ。何かわかったのだろうか。

「こちらをどうぞ」

 差し出された通信用の魔導具を受け取ると、すぐにニコラウスの姿が映し出される。

[『神の御使い』様のご様子はいかがですか?]

「相変わらず、眠っているような状態だ」

「あの、ルカさんの方もユウキさんと同じように意識を失ってしまったようなのです」

 バルトはアルフレートから聞いた話をかいつまんで伝える。なるほど、と魔導具の向こうのニコラウスは独り言ちた。

[もしかすると、蝕のせいかもしれません]

「蝕? 今起きている、あれか?」

[ええ]

 十数年に一度訪れる、太陽の隠れる日。今日はその日だった。ユウキの倒れた時を思い返すと、ちょうど太陽が欠け始める頃だ。

 ニコラウス曰く、光の神の象徴のひとつでもある太陽の光が蝕によって一時的に失われ、光の神の力を授かっている『神の御使い』は特に大きく影響を受けたのでは、ということだった。ニコラウスたち光属性を持つ者たちも、少なからず体内の魔力に抑え込むような変化を感じているらしい。

 今回の蝕が終わるのは陽が落ちる頃と予測されているので、結局そのまま様子を見ることになった。


 ベッド脇の椅子にはスピカが腰掛け、バルトに補助してもらいながら部屋の空気を暖めることができるか試している。欠けた太陽の形が戻るにつれて、心なしかユウキの顔色が戻ってきたような気がする。不安はあるが、ひとまずニコラウスの言葉を信じて待つしかない。

 ふいに、それまで穏やかだったユウキの表情が険しくなる。

「ユウキさん!」

 少しうなされるように首を動かし、ほんの少し目を開けたユウキの眼から一筋だけ涙がこぼれ、まるでうわ言のように「行かないで」と呟いた。

 荒れた呼吸が少しずつ整い、瞼をゆっくりとパチパチとさせたあと、手を握るスピカの方をユウキは不思議そうに、けれどしっかりと見上げる。

「スピカ……?

 あれ、テオドールにバルトルトも……?」



 スピカに抱きつかれたまま状況の説明を聞き、色々な人に迷惑をかけたとユウキは気落ちしていた。

「身体は問題ないですか?」

「うん、大丈夫。

 今日はだるいと思ってたけど、そんな理由だったなんて……」

「体調がおかしいと気づいていたなら、ちゃんと俺たちに共有しておけ」

「でもそこまでじゃなかったから」

「なるべく、お願いしますね?」

「……ハイ」

 バルトと、スピカのじとりとした視線にも念を押され殊勝に返事をしているけれど、たぶん、ユウキはそうしないんだろうな。自分のことになると途端に我慢強くなってしまう性質だと俺たちはもう知っている。


 今日はそのまましっかり休むように、と言われてベッドに座るユウキは不満げだ。

「出店、楽しみにしてたのにな……」

「後で何か買ってきますね」

 任せて、と言うようにスピカも腕に力を入れている。そのまま何が食べたいか話している様子がすっかりいつものユウキで、胸をなでおろした。

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