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第7話 灼狐、警官友人の家に引き取られる

「山倉警部、今回は子供1人の()()()()になるっていう重要なものですよ。それも狐の女の子の。流石にそれは了承を得ますよね?」

「……」

「もう一度聞きます。了承を得ますよね?」

「はい! もちろんです!」


 冷や汗を垂らしながら鳥下警部の問いに対してそう答える山倉警部。

 あの様子からして、無理やり俺を神林と言う警官に押し付ける気満々だったようだ。神林警部、御愁傷様です。


「それじゃあ霧柳、今すぐ神林を呼んでこい」

「はいはい」


 霧柳警部が会議部屋を出て探しに行った後、他愛もない世間話をしたり狐術(こじゅつ)幻灯火(げんとうか)を披露したりしながら10分程待っていると、見た目20代後半位の男の人を連れて戻ってきた。


「山倉先輩、俺に一体何の用ですか?」

「お、神林来たか。実はな、お前にこの娘の世話を頼みたいと思って呼んだ」

「……へ?」

「だから、この娘を頼めるか無理なのか――」

「いやいや、何言ってるんですか先輩。説明もなしにどうなんだって訊かれても困りますって!」

「ああ、そうだよな。で、訳なんだけど……」


 山倉警部がお願いの訳を話す。それを聞いている間、神林警部は頭を抱えながら考え込む。

 誰だっていきなり上司や家族から子供の親になってくれと言われたらこうなる。俺なら速攻でお断りするだろう。


「なるほど……でもやはり俺の家だと厳しいですね」

「そうか……」

「ただ、この頼みを聞いてくれそうな友人が1人思い浮かんでいるんですけど、聞いてみても宜しいですか?」

「もちろんだ。ここに来てもらえるのなら是非お願いしたい」

「了解です」


 そうして友人に電話をかけ始めた神林警部。5分間の話し合いの結果、どうやら来てもらえる事になったらしい。ただ、通話中に警部が友人に来てもらう理由を説明された時『マジで!? それ最高な案件じゃん! すぐ行くから待ってろよ!!』と異常なテンションで喜びをあらわにしていたのを聞いた時は若干の不安を感じた。

 なので、警部に友人のテンションがそんなにも高かった理由を聞いてみた。


 警部によると、友人にはほんの3ヶ月前に結婚した35歳の奥さんが居るらしく、その奥さんとの子供、特に娘が欲しかったらしいのだが、とある日に病院の検査に行った際に彼女が絶望的に妊娠しづらいと言う事が判明、養子も見つからずに落ち込んでいたからだと言う。


「確かにそれは辛いですね。だけど私みたいな人外、それも元男。大丈夫なんですか?」

「ああ、大丈夫だ。全部説明した上であのテンションだからな。奥さんも泣いて喜んでいたらしい」


 なるほど。それなら大丈夫そうだけど、友人と奥さんのファンタジー耐性高いな。普通なら多少なりとも戸惑ったり拒否したりしそうなんだが、それすら気にならない程()が欲しかったんだなぁ。


 そんなことを考えながら待つこと15分……


「あ、どうやら来たみたいなんで迎えに行ってきます!」


 すぐさま会議部屋を出ていき、友人夫婦を迎えに行った警部。1~2分待っていると部屋に友人夫婦を連れて戻ってきた。


「おい神林、あの銀髪蒼瞳の女の子がお前の言ってた子か?」

「ああ、そうだ」


 そう聞いた警部の友人夫婦は俺の方に近寄って来てじっくり目と目をあわせてきた。数秒の沈黙の後、友人の奥さんが口を開く。


「本当に、良いの? こんなことを言うのもなんだけど、私たちそんなに……」

「貴女が何を気にしているのかは分からないけど、私は2人が引き取り手になってくれるならそれで良いと思う。まだ初対面だけど、そう感じたから」

「……ありがとう。これからよろしくね。えっと……」

「灼熱の灼に狐で灼狐(やこ)。これが私の名前」

「分かった。灼狐ちゃんね。あなたに合う素敵な名前……」


 あの2人に見つめられていた時、何とも言い(がた)い幸せな感じがした。たった今会ったばかりではあるが俺の勘がこの2人なら問題ない、むしろ逃したら不味いと言うのを訴えてきたように感じたので、当然のごとく了承した。

 これから迷惑かけないように出来ることはしっかりやっていかなければ。そう決意した。


「ありがとうございました。警察官の皆さん」

「神林。お前は名字の通り、俺たちにとって『神』だ。ありがとう!」

「そこまで言われると照れるな。まあ、何かあったら俺たちがサポートするから言えよ。後、灼狐ちゃんの戸籍等の情報がどうにかなったら連絡するからな」

「ああ、分かった。行くぞ、灼狐!」

「うん!」


 そうして全ての話し合いが終わり、新しい家族となった友人夫婦……いや、()()()()()()()()と共に警察署を出て、車で家へと向かう。


「なあ優菜(ゆな)。きっとこれから忙しくなるよな~」

「そうね。でも、それ以上に楽しい事とか嬉しい事が沢山ありそう!」

「そうだな。あ、そういや灼狐の服とか買わないと無くね? 今から行こうと思うが、金とか持ってるか?」

「ふふっ。そんな事もあろうかとちゃんと持ってきてあるよ! ほら!」


 そう言ってお母さんが財布から取り出したのは、16万円だった。普通に生活する分の服を買うレベルを明らかに超えている。かなりのお金持ちなのだろう。


「いや、お前それは明らかに使いすぎじゃ……」

「大丈夫だよ春也(はるや)。これ貴方との結婚前から貯めてたやつで、家計から計上してたわけじゃないから。それに、服だけで全部使う訳じゃないし」

「まあ、それなら良いが」


 昔からの貯金を俺の為に使おうとしてくれているらしい。金額が金額なので本当に良いの? と聞いてみたら、満面の笑みで『私の意思だから灼狐は気にしなくてもいい』と言われたので気にするのはやめた。


 そんな感じで多少の緊張はあるものの、楽しい会話をしているといつの間にかネーオンに到着していた。ここに寄れば大抵の必要なものを得る事が出来て便利だから良いところだ。


 車を降りて店内へ入ったらまずは服屋に入る。相変わらず沢山の種類の服があり、何を買えば良いのか迷っていた。

 すると、お母さんがいつの間にか持ってきていた多種多様の服を俺に差し出して来た。

 何でも、店内へ入ったときの俺の様子から服選びに苦戦するだろうと予想し、可愛いなと思った奴を選んでくれたとのこと。

 それらの服を試着室で着てみて2人に見せた所、もう全部買っちゃおうとの結論になったので購入した。それだけで軽く1時間はかかった。


 後は生活用品を買ったりカフェでコーヒーを飲んだり等楽しみ、ネーオンを出たその時には既に夕方になっていた。


「お前ら本当に服選ぶの長いな」

「仕方ないでしょ。灼狐可愛いからそれに合う服見つけるの大変だったんだから」

「なるほどな」


 そうして全ての用事を済ませて車に乗り込み、ネーオンを出発してからおよそ30分、結構デカい一軒家に到着した。ここが2人の住んでいる所のようだ。


「大きい家……凄い」

「ふふっ。今日からここが貴女のお家よ、灼狐」

「これから楽しくなりそうだな~。さて、早速夕飯にするぞ」

「あ、お父さん。私料理作れるんだけど作ってみてもいい?」

「お、マジか。じゃあせっかくだしお願いしようかな」

「分かった。任せて! 美味しい料理作ってみせるから」


 そう張り切って宣言してしまったので、下手な事をしないように注意を払いながら豚の生姜焼きを作った。食べてもらった所、2人から美味しいとの評価を貰ったので成功と言って良いだろう。


 それを全て食べ終え、ざっとお風呂に入って上がって少しのんびりした後、やることが無くなったので用意されていたベッドに入って眠りについた。












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